56 リーナ
馬車が城門をくぐってから、しばらく。
「お二人とも、到着しましたよ」
御者さんがそう言うと、私は窓の外を覗いた。
「ここが学校……?」
カインがそう呟いた。
目の前には、大きな建物が建っていた。
村の教会よりもずっと大きい。正面の入口には兵士が立っており、その奥には似たような建物がいくつも並んでいる。
「すごいね、アイ!」
「うん! こんなに大きな建物、初めて見たよ!」
「では私はここまで、兵士の方や、中にいる職員について行くように」
御者さんがそう言うと、馬車が止まり、私たちは馬車を降りた。
そして、17日間のお礼を言って、建物の入口へ向かった。
入口の近くには受付があり、職員の女性が座っていた。
「入学される方ですか?」
「はい!」
「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「アイと、こちらがカインです」
女性は手元の資料に目を通すと、引き出しから二通の書類を取り出した。
「アイさんとカインさんですね。お二人の書類はこちらで用意してあります。今回は国からの召集ですので、通常のような書類提出などの手続きは必要ありません」
「もう手続きが終わってるんですか?」
「ええ。お二人には今日からこちらの学校に通っていただきます。授業は明日から始まりますので、今日は寮で荷物を整理しておいてください」
(明日から授業!? 思っていたよりも早いな〜)
「それでは、寮まで案内しますね」
「「お願いします!」」
私たちは職員さんの後についていった。
建物の中は広く、廊下の壁には額縁に入った絵や、見たことのない模様が描かれた板が飾られていた。
すれ違う数人の生徒たちの姿もある。私たちと同じくらいの年齢の子もいれば、少し年上に見える子もいた。
(みんな、ここの生徒なのかな?……)
やがて、職員さんは廊下の奥で足を止めた。
「アイさんは、こちらのお部屋を使ってください」
扉を開けると、中には寝台と机、それから小さな棚が置かれていた。
「わあ……!」
村の家よりも狭いけれど、自分専用の部屋がある。それに、床も壁も綺麗だった。
毎日ここで寝起きするのだと思うと、なんだか嬉しくなった。
「私のお部屋はどこですか?」
カインが職員に話しかけた。
「カインさんのお部屋は、お隣になります」
職員さんが隣の扉を開けると、カインも部屋の中を覗き込んだ。
「こっちも綺麗!」
「気に入っていただけたようで何よりです。それでは、何か困ったことがあれば受付まで来てくださいね」
そう言い残し、職員さんは廊下を戻っていった。
「アイ、あとで学校の中を見て回ろうよ!」
「うん!」
私たちはそれぞれの部屋に荷物を置くと、いったん別れることにした。
──
荷物を整理した私は、さっそく部屋の外へ出た。
せっかく王都まで来たのだ。学校の中を少し見てみたい。
(けれど、学校はどこにあるのだろうか? 学校らしき建物がないんだよね〜〜)
そんな事を考えていると、隣の部屋からは誰かと話している声が聞こえてきた。
(カインはもう誰かと知り合ったのかな?)
邪魔をするのも悪いので、私は一人で廊下を歩くことにした。
しばらくすると、向こうから一人の女の子がやってきた。
私より少し年上だろうか。茶色い髪を後ろでまとめ、こちらを不思議そうに見ている。
「あなた、新しく来た子?」
「うん! 今日、王都に着いたばかりなの」
「やっぱり! 見かけない顔だったから。私はリーナ。よろしくね」
「私はアイ! よろしく!」
リーナは私の顔をじっと見た。
「あなた、魔法は何が使えるの?」
「水魔法だよ!」
「水魔法か。私は火魔法なんだ」
そう言うと、リーナは指先に小さな炎を灯した。
「わあ! すごい!」
「これくらい、たいしたことないよ」
リーナは少し得意そうに笑った。
村ではカインの魔法を見ることが多かったけれど、こうして別の魔法を見るのは新鮮だった。
「そういえば、あなたは何歳なの?」
「七歳だよ!」
「えっ、私と同じ! もっと年上かと思った」
「そうなの?」
「うん。なんだか落ち着いて見えたから」
そんなことを言われたのは初めてだ。
「ねえ、アイ。明日から授業が始まるんだけど、知ってる?」
「うん! 知ってるよ」
「だけど、少し緊張するなー」
「大丈夫だよ。最初はみんな同じだから」
「そ、そうだよね!」
……たぶん。
私は自分に言い聞かせるように頷いた。
すると、リーナがふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、今年の新入生って、私たちを入れて十二人なんだって」
「十二人かあ」
平民の魔法使いが少ないことは、村にいた頃から聞いていた。
ただ、今回は国から召集された子供が多いらしい。普段なら2人ほどしか入学しないと聞いていたので、ずいぶん賑やかな学年になりそうだ。
「それに、今年は七歳から十歳までの子が同じ学年になるんだって」
「えっ、十歳の子も一緒なの?」
「うん。一気に招集したからね」




