55 王都
馬車に揺られながら、私は窓の外を眺めていた。
村を出てから、まだそれほど時間は経っていない。
「ねえ、アイ」
「なに、カイン?」
「私たち、街に寄るよね?」
「あっ! 確かに、寄らないと木工職人さんに代金が払えない!」
「そう思って、あらかじめ御者台の人に寄って欲しいって伝えといたよ」
「カイン、ありがとう!」
(カイン、ナイス!)
「お金、ちゃんと持ってきた?」
「もちろん!」
私は鞄の中を確認した。
銀貨2枚と銅貨4枚。前回の依頼でカインと分割した分のお金だ。
忘れ物はない!
「うん、もちろん!」
そんな話をしているうちに、馬車は見慣れた街へと入っていった。
──
馬車を降りた私たちは、木工職人さんのお店へ向かった。
「こんにちは!」
声をかけると、木工職人さんが作業の手を止めた。
「おや、お嬢ちゃんたち。今日はどうしたんだい?」
「この前お願いしていたローラーのお金を払いに来ました!」
「おお、そうだったな」
「わざわざ来てくれたのか。別に急がなくてもよかったんだぞ?」
「いえ、今日から王都に行くことになったので、その前に払っておこうと思って!」
「王都だって?」
職人さんは目を丸くした。
「魔法学校に入学するんです」
「そうなのか。学校でしっかりと頑張れよ」
「はい!」
私は返事をしながら、鞄からお金を取り出した。
「それで、ローラーのお代です。銀貨一枚と銅貨七枚!」
「確かに受け取ったよ」
職人さんはお金を確認すると、懐にしまった。
「二人とも、気をつけて行ってくるんだぞ」
「ありがとうございました!」
私たちはそろって頭を下げ、お店を後にした。これで、村に残した用事はひとまず片づいた。
私たちは馬車へと戻り、御者さんに声をかけると、馬車は再び動き出した。
──
王都までは、十七日間かかるらしい。
村から街までの移動とは、比べものにならないほど長い旅だ。
「見て、アイ! あそこに街があるよ!」
「本当だ! 結構大きいね!」
カインが指さした先には、石造りの建物が集まる街が見えた。
街道沿いには荷馬車が何台も並び、商人たちが忙しそうに行き来している。
「村とは全然違うね」
「うん。王都はもっとすごいのかな?」
「これより大きいんじゃない?」
そんな会話をしながら、私たちは馬車に揺られていた。しかし、楽しいことばかりではなかった。
長時間座り続けていると、お尻が痛くなる。
道が悪い場所では馬車が大きく揺れて、お尻にさらなる追い打ちをかけてくる。
「うう……お尻が痛い……」
「私も……」
二人で座席に座り直す。
前世では、移動するための乗り物がたくさんあった。道路も整備されていたし、遠くへ行くのだって、そこまで大変ではなかった。
それに比べると、この世界の旅はなかなか厳しい。
(せめて、乗り心地のいい馬車があればいいのに……)
下に何か敷けば、多少は改善できるのだろうか。
そんなことを考えていると、カインが私の顔をのぞき込んできた。
「アイ、何を考えているの?」
「カインの魔法で、やわらかい土を出せる?」
「うん。出せると思うけど……馬車の中では流石に出せないかな」
「そうだよね……」
──
日が暮れると、馬車は街道沿いの宿場町に立ち寄った。
その日の宿泊先は、国が用意してくれた宿だった。
今回の王都行きは、戦争に備えて魔法使いを集めるためのものだ。そのため、移動にかかる費用や宿泊費は国が負担してくれることになっていた。
「二人とも、今夜はここで休みますよ」
御者さんにそう言われ、私たちは馬車を降りた。
宿の中に入ると、受付の人が御者さんから書類を受け取った。
「王都へ向かう魔法使いですね。お部屋はこちらです」
案内された部屋には、二つの寝台と小さな机が置かれていた。
「わあ、ベッドが二つもある!」
カインが嬉しそうに声を上げた。
「今日はここで寝られるんだね」
私は荷物を置き、寝台に腰を下ろした。
(柔らかい……)
馬車の座席とは大違いだ。
「はあ……生き返る……」
「アイ、おばあちゃんみたいなこと言ってるよ?」
「だって、ずっと座っていたんだもん!」
「確かに、そうだね」
カインはそう言いながら、くすくすと笑った。
その後、私たちは宿で夕食を食べて、食事を終えると、部屋に戻った。
「明日はどこまで行くのかな?」
「分からないけど、また別の街に寄るんじゃないかな」
「毎日違うところに泊まるのかな?」
「たぶんね」
私たちはそんなことを話しながら、寝台に入った。
──
翌朝。
「アイ、起きて!」
「ん……もう朝?」
「朝だよ! ご飯を食べて出発するんだって!」
「分かったぁ……」
(前世の頃から、朝が弱いのは変わってくれないのか……)
私は眠い目をこすりながら起き上がった。顔を洗い、身支度を整えて食堂へ向かう。
朝食を済ませると、私たちは再び馬車に乗り込んだ。
そして、長い旅は続いた。
──
それから数日間、私たちは街道を進み、いくつもの街や宿場町を通り過ぎた。
大きな街では市場を眺めることもあった
並んでいる商品は村で見たものよりずっと多く、色とりどりの布や、見たことのない形の道具が売られていた。
寄ったお店で馬車の座席に敷くための、布を購入してので、そこから先の馬車の旅は、少し楽になった。
できることなら、もっとゆっくり見て回りたかった。
けれど、私たちには王都へ向かうという目的がある。長居することはできない。
兵士たちが武器や物資を運び、街道を急いでいる。時には、兵士を乗せた馬車とすれ違うこともあった。
「戦争の準備、進んでいるんだね……」
カインが小さな声で呟いた。
「うん……」
これまでは、戦争といっても遠い場所の出来事のように感じていた。
でも、こうして街道を行き交う兵士たちを見ると、少しずつ実感が湧いてくる。
私たちが王都へ呼ばれたのも、その戦争が原因なのだ。
──
十日目を過ぎると、周囲の景色にも少しずつ変化が現れた。街道は以前よりも整備され、道幅も広くなっている。通り過ぎる人や馬車の数も増えていた。
そして、旅の十七日目。
「お二人とも、そろそろ見えてきますよ」
御者さんの声に、私は顔を上げた。
「えっ、本当ですか!?」
「はい。あの丘を越えれば、王都が見えるはずです」
私は隣にいるカインと顔を見合わせた。
「カイン、もうすぐだって!」
「うん!」
馬車がゆっくりと丘を上っていく。
「……わあ」
目の前に広がっていたのは、今まで見たどの街よりも大きな街だった。
高い城壁が街を囲み、その内側には数えきれないほどの建物が並んでいる。
ひときわ高い場所には、立派な城がそびえ建っていた。
城壁の外の街道には王都へ向かう馬車が列を作っている。人の数も、これまで通ってきた街とは比べものにならない。
「すごい……!」
「こんなに大きな街、初めて見た!」
「私も……!」
馬車は、人々の行き交う街道を進み、王都の城門へと近づいていく。
やがて、目の前に巨大な門が現れた。
門の前には兵士たちが立ち、王都へ入る人々を確認している。
「王都に到着しました。ここから先は、兵士たちの指示に従ってください」
御者さんの言葉に、私は背筋を伸ばした。
(いよいよだ)
私とカインの新しい生活が、ここから始まる。
馬車はゆっくりと城門をくぐった。
──こうして、私たちは十七日間の旅を終え、王都へと足を踏み入れた。
ここまでの話しを第一章「村の生活」とします。次の話しからは、第二章「魔法学校」とします。
後で、章の設定をしときます。




