↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/62

54 出発

 私たちはクララさんに連れられ、組合を後にした。


「二人とも、まずは神父様に相談しましょう。ご家族にも話さなければなりませんしね」



 ──



 教会に着くと、神父様は礼拝堂で祈りを捧げていた。


「神父様、ただいま戻りました」


 クララさんが声をかけると、神父様はこちらに振り返った。


「おや、皆さん。無事に戻られたようですね。調査はどうでしたか?」


「はい。無事に終わりました。ただ、少しお話ししたいことがありまして」


 クララさんに促され、私は口を開いた。


「神父様。私たち、明日から王都に行くことになったんです」


「明日……ですか?」


「隣国との戦争が始まって、魔法学校への入学が早まったそうです」


 神父様は驚いた様子で目を見開いたあと、静かに頷いた。


「それは、あまりにも急な話ですね。ご両親には伝えましたか?」


「まだです……」


「では、まずはご家族と話し合いなさい。突然のことで、ご両親も心配されるでしょうから」


「はい」


 神父様は私たちを交互に見つめた。


「それから、二人とも。魔法を使えることは素晴らしいことですが、その力を何のために使うのかも忘れないでください」


 私は顔を上げた。


「戦争が始まったからといって、魔法の使い道が戦いだけになるわけではありません。人を助けることも、暮らしを良くすることも、大切な役目です」


 その言葉に、私は頷いた。


 (そうだ。私が魔法で実現したいことは、まだまだたくさんある。それに洗濯機だってまだできてない)


 王都に行っても、その目標は変わらない。


「ありがとうございます、神父様」


「向こうで困ったことがあれば、周囲の人に相談しなさい。何でも一人で抱え込む必要はありませんからね」


「それと、私が唯一信頼の置ける人に君たちが王都に行くことを、手紙で伝えとくよ」


「ありがとうございます」


 私たちは神父様に挨拶をして、教会を後にした。


 ──


 教会の入口には、お父さんが立っていた。


「あれ? お父さん!」


「おう。二人とも、お疲れ様」


「おじさん、こんにちは!」


 カインが頭を下げる。


「話しは聞こえてた。明日、王都に出発するんだってな」


「うん……」


「急な話だが、決まった以上は準備をしないとな。お母さんも家で待っているぞ」


 私たちはお父さんと一緒に帰ることにした。


 村へ続く道を歩いていると、カインが呟いた。


「王都って、どんなところなんだろうね」


「大きな街だとは聞いている。人も多いし、魔法使いもたくさんいるだろうな」


 お父さんが答えた。


「すごい魔法使いはどのくらい、いるのかな?」


「そりゃあ、沢山いるだろう。だが、最初から何でもできる必要はないさ。分からないことは学べばいい」


「……そうだね」


 カインが頷く。


 王都には、知らないことがたくさんあるはずだ。せっかく魔法を学べるのだから、できることを増やしていこう。



 やがて、見慣れた家々が見えてきた。


 ──


「ただいま!」


 家に入ると、お母さんが台所から顔を出した。


「おかえりなさい。あら、カインちゃんもいらっしゃい」


「お邪魔します」


「あのね。お母さん話しがあるの」


 私の真剣な声に、お母さんは手を止め、心配そうに私たちの前に歩み寄ってきた。


「どうしたの? そんな顔をして……」


「明日、王都へ向かうことになったの。魔法学校への入学が、急遽(きゅきょ)早まったみたいで……」


 私がそう伝えると、お母さんは目を見開いた。


「三年後だと聞いていたのに……」


 お母さんは私たちの前にきて、私の手を握った。


「戦争が始まった以上、仕方がないのかもしれないけれど……。まだこんなに小さいのに……」


「お母さん……」


「組合長の話では、前線で戦うのではなく、魔法の研究や訓練が中心になるらしい」


「そうなんだな。アイ?」


「うん。組合長はそう言ってた」


「それでも、何が起こるか分からないでしょう?」


 お母さんは不安そうに私を見つめた。


「大丈夫だよ。魔法の勉強を頑張ってくるから」


 本当に大丈夫かどうかなんて、私にも分からない。


 だけど、お母さんに心配させたくない。


「……そうね。でも、無理はしないこと。困ったことがあったら、必ず誰かに相談するのよ」


「うん」


 私が返事をしたら、お母さんはカインに目を向けた。


「カインちゃんもね。ちゃんとご飯を食べるのよ」


「はい」


 その後、私たちは夕食を囲みながら、王都での生活について話した。


 ただ、どこに泊まるのか、どんな授業を受けるのか、いつ帰ってこられるのか。詳しいことは、まだ何も分かっていなかった。それに兵士であるお父さんでさえ、教会で私たちの話を聞くまで王都行く件を知らなかったらしい。


「とりあえず、必要なものを準備しよう」


 お父さんの言葉に、私は服などを仕舞っている部屋へ向かった。


 ──


 私は棚から着替えや身の回りの道具を取り出し、お母さんがいつも使っていた、鞄に詰めていった。


 いつも使っているものばかりなのに、明日からは知らない土地で使うのだと思うと、少し不思議な気分だった。


(本当に、王都に行くんだな……)


 荷物をまとめていると、扉を誰かがノックした。


「アイ、入っていい?」


「うん!」


 入ってきたのはカインだった。彼女も小さな鞄を抱えている。


「準備できた?」


「だいたいね。カインは?」


「私も!」


 カインは私の隣に腰を下ろした。


「ねえ、アイ。王都に行っても、私たち一緒だよね?」


「うん。一緒だよ」


 私は笑って答えた。


「二人で魔法を勉強して、できることを増やそう!」


「えへへ。そうだね!」


「王都には、いろんな魔法使いがいるんだよね。どんな魔法があるのか、楽しみ!」


「私も。知らない魔法を見られるかもしれないね」


悲しむより、今は前を向いた方がいい——そう思って、私はカインに精一杯の笑顔を見せた。


 私は鞄の口を閉じた


「よし、準備完了!」


「私も!」


 私たちは顔を見合わせた。


 ──


 その夜、私はいつもより早く布団に入った。


 明日には村を離れ、王都へ向かう。


 お母さんやお父さん、神父様。それに、村で知り合った人たちともしばらく会えなくなる。


(王都に行ったら、まずは魔法の勉強だね)


 もっといろいろな魔法を知りたい。そして、魔法を使って、この世界の暮らしを少しずつ良くしていきたい。


 戦争のためだけに魔法を学ぶつもりはない。それだけは、忘れないようにしよう。


 私は目を閉じた。



 ──翌朝。



「アイ! 起きなさい!」


「んん……あと五分……」


「馬車が来るわよ!」


「はっ!?」


 私は飛び起きた。


 急いで着替え、鞄を持って居間へ向かう。お父さんは荷物をまとめ、お母さんは朝食を用意していた。


「まずは朝ご飯を食べなさい」


「う、うん!」


 食事を済ませて玄関に向かうと、外からカインの声が聞こえてきた。


「アイ、準備できた?」


「今行く!」


 扉を開けると、カインと王都行きの馬車が待っていた。


 お母さんが私を抱きしめる。


「体に気をつけてね。ご飯もちゃんと食べるのよ」


「うん。行ってきます!」


「カインちゃんも、気をつけてね」


「はい! 行ってきます!」


 私たちは馬車に乗り込んだ。


 窓から顔を出すと、お父さんとお母さんが手を振っている。私も大きく手を振り返した。


「行ってきます!」


 馬車がゆっくりと動き出す。


 見慣れた家々が遠ざかり、村の景色が広がっていった。


 隣では、カインが窓の外を眺めている。


 私たちの新しい生活に向けて、馬車は王都へ続く道を進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。