53 組合長
組合に着くと、早速帰りの馬車を用意してもらった。
「それでは、また!」
私たちはルシアさんに向かって、大きく手を振った。
──
カルダルト街の門が見えてきた。
カインが馬車から身を乗り出して街を眺めていたので、私もその隣に並んだ。
行きと同じ景色のはずなのに、なぜだか少し違って見える。
「日帰りでしたけど、すごく濃い一日でしたね」
隣でクララさんが微笑む。
馬車は石畳の道を滑らかに進み、組合の建物の前で静かに停車した。御者にお礼を言って馬車を降りた。
「さて、二人とも。今日はたくさん歩いて疲れたでしょう。報告をしたら、教会に行って休憩しましょう」
クララさんの言葉に「はい!」と頷き、私たちは扉を押してカルダルト街の組合へと入り、私たちは受付のカウンターに向かった。
「マスカラ街での依頼、無事に終わったみたいですね。お疲れ様でした」
「はい! これ、マスカラ街の魔法使いさんから預かってきた報告書です!」
私はルシアさんから貰った、羊皮紙を取り出し、カウンター越しに渡した。
職員さんは報告書を受け取り、目を通していく。『憩いの大樹』の異変の原因、水属性の魔法使いさんと協力して行った土壌の調査。
「素晴らしいですね。新人のお二人には少し難しい調査かと思っていましたが、完璧です。現地の魔法使いとの連携もバッチリだったと書かれていますよ」
「本当によく頑張りましたね。それでは、こちらが今回の依頼の達成報酬になります」
カウンターの上に、お金の入った袋が置かれた。私とカインは顔を見合わせて思わず笑みをこぼす。
職員さんがそう言うと、後ろから男の人声が聞こえてきた。
「アイさん、カインさん、ご依頼お疲れ様でした。組合長がお呼びですので、こちらへお越しいただけますでしょうか?」
振り返ると、そこにいたのはドゥルガーさんだった。
ドゥルガーさんの言葉に、私とカインは顔を見合わせた。
「組合長が……私たちを?」
首をかしげる私に、ドゥルガーさんは落ち着いて言った。
「ええ。魔法学校の入学についてです」
(まだ3年後じゃなかった?)
ドゥルガーさんの言葉に、私とカインは驚きを隠せずに顔を見合わせた。
「魔法学校って……入学は確か、3年後の予定じゃ……?」
カインが疑問を口にした。ドゥルガーさんは表情を曇らせ、ゆっくりと首を振った。
「事情が変わったのです。クララさん、お二人を連れて組合長室へ」
「……分かりました」
クララさんの声も、先ほどまでの穏やかさが消え、緊張を帯びていた。
私たちはドゥルガーさんの後に続いて階段を上った。
二階の最奥にある大きな扉の前で、ドゥルガーさんがノックをした。
「組合長、三人をお連れしました」
「入れ」
重苦しい声に応えて扉が開かれると、デスクの向こうに立つ組合長が、険しい面持ちで私たちを迎えた。
机の上には、羊皮紙の報告書とは別に、真っ赤な蝋で封をされた一枚の手紙が広げられている。
「急に呼び立ててすまないね。二人とも、マスカラ街での調査、実に見事だった。だが……喜んでいる暇はなさそうだ」
組合長は深く息を吐き出すと、赤く封じられた手紙を指で叩いた。
「王都から緊急の要請が届いた。――隣国との戦争が始まった」
「え……戦争!?」
カインが思わず声を上げた。私は言葉を失い、ただ組合長を見つめることしかできなかった。
「隣国の侵攻スピードが予想以上に早く、国は急遽、魔法戦力の拡充を進めている。そのため、全国の優れた資質を持つ若者を急ぎ王都へ集め、実戦的な育成を行うことになった。君たち二人の入学が早まったのも、そのためだ」
「そんな……二人とも、まだ子供ですよ!?」
クララさんが身を乗り出して声を上げたが、組合長は静かに首を横に振った。
「ルシアから、このペンダントを通じて報告があった、二人の連携と魔法の資質は折り紙つきだ。国としても、一刻も早く戦力として育て上げたいのだろう。……明日には王都へ向けて出発してもらう」
突然突きつけられた事に、頭が真っ白になった。
「……」
私たちが黙っていると、組合長が続けて話し始めた。
「もっとも、君たちを前線で戦わせたりはしないだろう。私の予想では、君たちに求められるのは後方での魔法研究だ」
「取り敢えず、今日はしっかり休みなさい。明日、王都への馬車を用意する」
その言葉を聞いて、私たちは重い足取りで組合長室をあとにした。
扉が閉まり、組合長室を出た廊下で、クララさんは私たち二人を強く抱きしめてくれた。
しばらく抱きしめた後、体を離すと、私たちの手を引いた。
「……さ、教会に行きましょうか」




