52 探索
一度書いた物が全部消えて絶望しました。
(この街は食料に困ってないんだな〜〜)
前世と比べても、この街の食文化や生活の水準はかなり高く見える。
「ごちそうさまでした! 本当に美味しかったです、シスター・マーサ!」
カインがお腹をさすりながら、シスターに声をかけた。
「ふふ、きれいに食べてくれて嬉しいわ。カインさんもアイさんも、良いお顔になりましたね」
シスター・マーサは微笑むと、空になった器をまとめてくれた。
「さて、お二人とも。お腹も満たされたことですし、少し食後の腹ごなしに街を散策してみますか?」
クララさんがティーカップを置きながら、提案した。
「えっ、街を散策? 行きたいです!」
「このマスカラ街は、先ほどルシアさんがおっしゃっていたように、土や水、火の魔法を活かした『ものづくり』がとても盛んな街なんです。工房やお店が並ぶ市場を歩くだけでも、魔法がどのように暮らしに根付いているか、たくさんの発見があると思いますよ」
「私も行ってみたいです!」
「よし、決まりですね。シスター・マーサ、素敵なお食事をありがとうございました」
「いいえ、クララさん。いつでもまたお立ち寄りくださいね。二人とも、気をつけて行ってらっしゃい」
シスター・マーサに見送られて教会を出ると、市場へ向かった。
坂道を下りきると、市場が見えてきた。
ずらりと並んだ露店には、瑞々しい野菜や見たこともないフルーツ、そして色鮮やかな布地が並んでいる。
「うわあ……! アイ、見て見て! あっちのお店、なにか光ってるよ!」
カインが指さした先には、工房が立ち並ぶ職人街だった。
そこではエプロンを着けた職人さんが、真っ赤に熱した鉄を叩いている。よく見ると、職人さんの手元や鍛冶炉には、魔法陣があった。
「あれは鍛冶職人さんですね」
私たちが近くによると、職人のおじさんはこちらに気づいて話しかけてきた。
「いらっしゃい! うちは魔法でキメ細かく練り上げた最高級の道具を扱ってるよ!」
「あの! なんで魔法を使っているんですか? カルダルト街では魔法を使わずに鍛冶をしている職人さんが多かったんですけど、魔法を使うメリットって何かあるんですか?」
私が質問をすると、職人さんハンマーを置くと、話し始めた。
「カルダルトのやり方も味があって好きだがね、ここじゃ『素材と対話するため』に魔法を使うのさ」
職人さんは鉄を叩いた。
「ただ力任せに叩くだけじゃなくて、火で鉄を解きほぐし、水で引き締める。魔力を通しながら叩くと、金属の『硬くなりたい部分』や『伸びたがっている部分』が手に伝わってくるんだよ。魔法は道具を痛めず、一番いい形に導いてやるための手助けなのさ」
「それと、魔法を使わない鍛冶だと、薪のくべ方や風の引き方で炉の温度がころころ変わっちまう。だが、火の魔法を使えば『この鉄が一番喜ぶ温度』を保てるんだ。さらに水魔法で一気に冷ます。おかげでムラのない、何十年経っても折れない頑丈な道具ができるのさ!」
「凄いですね! でもなんでそんないいとこばかりなのに、カルダルト街で魔法を使わないんでしょうね」
私がそう言うと、職人さんは腕を組んだ。
「そうだな。カルダルトでは『魔法に頼ると職人の腕がなまる』『五感で読み取ってこそ一人前』という奴が多いからな」
「それに、街の環境の違いもあるかもしれん」
「環境の違い、ですか?」
「ああ。マスカラ街は昔から魔法使い組合があって、魔石も安く手に入るし、幼い頃から魔法に触れて育つやつが多い。だがカルダルトは魔法使いよりも普通の職人が多い街だろ? 道具を買い揃えるコストや、魔法を扱える弟子の育てやすさを考えたら、昔ながらのやり方のほうが都合がいいのさ。どっちが良い悪いじゃなく、街の暮らしに合わせた進化をしたってわけだな」
「なるほど!」
「おじさん、教えてくれてありがとうございました!」
「おう! 魔法の勉強、がんばりなよ!」
手を振ってくれた職人さんにお礼を言い、その場を離れた。
「街によって魔法の使い方が全然違うなんて、面白かったね !アイ!」
「うん!」
カインと話し合っていると、隣を歩いていたクララさんが話しかけてきた。
「文化の違いなどは、面白いですね」
「はい!」
私が答えると、クララさんは微笑んだ。
「そうですか。ではそろそろ組合に戻って、帰りの馬車を出してもらいに行きましょう」
「「はい!」」
私たちは返事をすると、組合に向かった。




