50 マイクロな水ぅ
前の話では、不自然な形で終わっていて申し訳ないです。後日綺麗に繋げときます。
「ふふ、驚かせてごめんなさいね。実はこの魔道具、魔力を流すのをやめると温度が下がって冷める仕組みになっているのよ。流す魔力が弱すぎるとぬるくなっちゃうし、逆に強すぎると一気に沸騰する。だから『ちょうどいい温かさ』をキープするのが、とってもいい練習になるのよ」
「これが、できるようになると、微細気泡水がアイちゃんに教えれるわ」
「カインちゃんには、地ならしを教えるわ」
「微細気泡水?」
「地ならし?」
カインと私は首を傾けてルシアさんに質問をした。
「微細気泡水は顔の脂を取れたりして、洗顔用とかの魔法ね」
(洗顔……!)
「地ならしは、土を自在に変えれて、完璧な平地を一瞬で作れる魔法よ」
(カインの魔法の方は、めちゃくちゃ実用的!)
「地ならしは、一度固めれば崩れにくくなるのよ。ただし魔力の加減を間違えると、地面がカチカチになっちゃったり、逆にボコボコになっちゃうんだけどね」
「だから二人とも、まずはその魔道具の温度をぴったり一定に保てるようになりましょうね。魔力コントロールの基本中の基本だから」
「はい、頑張ります!」
「私も、絶対にできるようになる!」
私とカインは顔を見合わせ、魔道具に意識を集中させた。
「よし、まずは……私からやるね」
ポットのような形をした魔道具の中央に、ポツンと嵌め込まれた、一粒の小さな魔石。
そこにじわじわと魔力を流し込むと、魔石がほんのり光りだし、湯気も漂い始めた。
(あ、いい感じかも! この魔石の光を保てば――)
そう思った瞬間──
魔石が眩しく輝き、ポットの注ぎ口からシュウウウッ!と勢いよく白い湯気が噴き出した。
「あつっ!?」
「アイ、大丈夫!?」
慌てて魔力を切ると、魔石の光が消え、ポットはあっという間に冷めて静かになってしまった。
「ふふ、おしいわね。魔石は魔力を素直に吸収するから、一気に流すとポットのお湯があっという間に沸騰しちゃうのよ」
ルシアさんが優しくクスクスと笑う。
「次はカインがやってみて……」
「分かった!」
カインは返事をすると、私の目の前に置いてあるポットを手に取り、自分の前に置いた。
「……できた。ルシアさん、これくらいでいいの?」
カインの魔道具の中にある魔石は、まるで最初からそう設計されていたかのように、一定の柔らかい光を放ち続けている。ポットからは、心地よい温かさの湯気が一定のペースでふわりと立ち上っていた。
「あら、すごいじゃないカインちゃん! 最初から完璧な温度で固定できてるわ」
「カイン凄い!!」
カインはどこか照れくさそうに、髪をさっと撫でながら微笑んだ。
「すごい……! カインならすぐに『地ならし』も習得できそうだね」
「ふふ、カインちゃんは素晴らしい筋の良さね。じゃあアイちゃんも焦らずに、体の中の魔力の流れを意識してみて。魔石という小さな器に、川の水をストローで一定に注ぎ続けるイメージよ」
ルシアさんの助言を聞きながら、私は自分の中にある魔力に集中した。
(小さな魔石に……静かに、一定……)
もう一度ポットの中の魔石に意識を向け、ゆっくりと魔力を流し始めた。
勢いよくぶつけるのではなく、魔石の表面を優しくなぞるように、細く、均一な魔力の糸を繋ぎ伸ばしていく。
すると、ポットの中の魔石がぽつりと、小さく紫色に光った。
シュ……と、かすかに聞こえる心地よい水音。注ぎ口から昇る湯気は強くなることも、消えることもなく、一定のペースで立ち上り始めている。
「……あ、できた……! ルシアさん、見て!」
「ええ、バッチリよアイちゃん! 素晴らしいわ、ちゃんと適温で安定しているわね」
熱すぎず冷たすぎない、お風呂の湯加減のようなちょうどいい温かさだ。
「アイ、すごいじゃん! 一度コツを掴んだらすごく綺麗な光になり始めたね」
隣でカインが嬉しそうに顔をほころばせた。
「ふふ、二人とも合格よ! 魔力コントロールの基礎はこれでバッチリね。約束通り、次は『微細気泡水』と『地ならし』の実践に入りましょうか」
「「はい!」」
「それじゃあ、さっそく実践に移りましょうか。ここは組合の資料室だから、あまり派手にはできないけれど……基本を確かめるには十分よ」
ルシアさんはそう言うと、羊皮紙や古い魔導書が整然と並ぶ木製の棚の合間を抜け、奥の書架からズッシリと重そうな分厚い魔術の本を一冊持ってきて、大きな作業机の上に置いた。
高窓から差し込む斜陽が、空気中に舞うわずかな塵をきらきらと照らしている
ルシアさんは魔術の本をパラパラとめくり、あるページを指さした。
「まずはアイちゃんからね。まず水を出してから、さっきの魔石のときみたいに細く均一に魔力を注ぎ込んで気泡を起こすのよ」
「はい!」
私はたらいの上に両手をかざした。体内の魔力を練り上げた。
「我が魔力よ、清き水に姿を変えよ!」
唱え終えた瞬間、手のひらから透明な水が溢れ出し、たらいの底を勢いよく満たしていった。
さっきのポットの魔石を思い出す。
生み出した水へとさらに細かな魔力を浸透させていく。
(細かく……もっと細かく……!)
すると、水面が微かに震え始め、透明だった水が次第に白く濁り始めた。目に見えるか見えないかというほどの微細な泡が、水中で無数に弾けている。
「……できた! これが『微細気泡水』……!」
「ええ、大成功よ! 自分の魔力で出した水だからこそ、泡の細かさまで思い通りにコントロールできているわ。この泡が皮膚の隙間に入り込んで、汚れを浮かせて落としてくれるのよ」
「すごい……さすがアイ!」
隣で覗き込んでいたカインが感心していた。
ルシアさんは魔術の本を次のページへとめくった。
「次はカインちゃんね。地ならしも同じよ。まずは詠唱で自分の魔力から『土』を出現させて、それを均一に均すの」
「うん、やってみる!」
カインは提示された呪文をしっかり確認すると、深呼吸をして、机の上にそっと手をかざした。
「我が魔力よ、肥沃な土に姿を変えよ!」
カインの詠唱とともに掌から土が溢れ出し、机の上に土が生み出されていく。
最初は不揃いに積み上がったが、カインが意識を集中させると、生み出された土が均一に整い始めた。
微かな擦れる音が収まると、そこには定規で引いたかのように完璧な、真っ平らで小さな土の台座が出来上がっていた。
「……できた。自分の魔力で作った土だから、感覚が直感的に伝わってくる……! カチカチにもならずに、均一に固められたよ」
「素晴らしいわ、二人とも! 完璧な詠唱と魔力コントロールよ。これなら外でも一瞬で綺麗な水や平地を作り出せるわね」




