46、水魔法
木のローラーを受け取った私たちは店を後にした。
「ねえ、カイン」
「なに?」
「さっきの依頼、神父様に相談しに行こう」
「あっ、そうだった!」
私たちは、教会へ戻ることにした。
「お二人とも、ずいぶん嬉しそうですね」
「だって、新しい道具が手に入ったんですよ!」
私がローラーを指差す。
「ふふ。そうですね」
クララさんは楽しそうに笑った。
教会に戻ると、私たちはそのまま神父様の部屋へ向かった。
「神父様、いますか?」
扉を軽く叩く。
「どうぞ」
中から神父様の声が聞こえた。
「失礼します」
扉を開けると、神父様は机の前に座っていた。
「おや、アイにカイン。それにシスターも一緒ですか」
「「はい!」」
「神父様、実は今日、組合で依頼を受けたんです」
「依頼、ですか?」
「はい。マスカラ街の『憩いの大樹』を調べてほしいって」
私は依頼書を取り出して、神父様に渡した。神父様は依頼書に目を通していく。
「なるほど……」
「明後日に行ってほしいらしいんですけど、私たちだけで行っても大丈夫なのかなと思って」
「そういうことでしたか」
神父様は少し考えるように依頼書を見つめた。
「マスカラ街なら、シスター・クララさんの故郷ですね」
「はい」
クララさんが頷く。
「それなら、向こうの教会にも連絡しておきましょう。お二人だけで調査をするわけではありませんし、現地の魔法使いも協力してくれるでしょう」
「本当ですか?」
「ええ。今回の依頼は、お二人にすべてを任せるものではありません。あくまで、お手伝いとして参加するものですからね」
「よかった……」
私はほっと胸を撫で下ろした。
さっきはカインが「どんな木だって元気にしてみせる」なんて言っていたけれど、やっぱり少し不安だった。
「神父様」
「はい?」
「土の中の水分を調べるって、どうやるんでしょう?」
「それは……マスカラにいる、魔法使いに聞いてください。私は光属性なので、水属性の事はよく知らないいのです。まぁ君の魔法次第じゃないか?」
「私の魔法次第……」
「ちゃんとできるかな……」
「できるかどうかは、やってみなければ分かりません」
神父様は穏やかにそう言った。
「二人とも、まずは現地で試してみればいいでしょう」
神父様が笑いながら言った。
「分からないことを一つずつ確かめていく。それが調査というものです」
「はい!」
カインが元気よく返事をした。
「私も頑張ります」
私が頷くと、神父様が、ローラーに目を向けた。
「ところで、それは何ですか?」
「あっ、これですか?」
私はローラーを持ち上げた。
「洗濯機に使う道具です!」
「なるほど」
神父様はローラーをしばらく眺めると、微笑んだ。
「お二人は、本当に色々なことを考えますね」
「えへへ……」
私は少し照れながら笑った。
「これで洗濯がもっと楽になるといいですね」
神父様は私にローラーを返して、言葉を続けた。
「さて、明後日の出発となると、明日中に準備を済ませておく必要がありますね。シスター・クララ、マスカラ街の教会への連絡をお願いできますか?」
「かしこまりました。すぐに手紙を送りますね」
クララさんは優しく微笑むと、深く一礼して部屋を後にした。
「さて、お二人さん」
神父様は私たちに向き直り、少し真面目な顔つきになった。
「隣街までの道のりは比較的安全ですが、油断は禁物です。旅の支度と一緒に、魔法の練習も少し復習しておきなさい」
「はい!」
「わかりました!」
私とカインは声を揃えて返事をした。
神父様の部屋を出たあと、私たちはふと立ち止まった。
「……明後日か」
「マスカラ街って、どんなところなんだろう?」
「私も行ったことないから分からない!」
カインは元気に答えた。
「でも、隣の街なんだよね?」
「うん。そんなに遠くはないと思う」
「土の中の水を、どうやって調べるのかな」
私は腕を組んで考え込む。カインも真似をして腕を組んだ。
「現地に行かないと、結局なにも分からさそう」
私がそう言うろ、カインは何かを思いつたのか、私の方を見た。
「ねぇ教会の庭で、試してみない?」
「試す?」
私が聞き返すと、カインは私の手を握って教会の庭まで走り出した。
「ここで、試せるんじゃない?」
庭の真ん中まで来ると、カインは地面を指した。
「ここで、魔法を試してみようってこと?」
「そう!今のうちに土の水を調べる練習をしておこうよ!」
カインは自信満々に胸を張った。
「よし、やってみよう!」
私は地面にしゃがみ込み、土にそっと両手をかざした。意識を集中させて、土の中の水分を感じ取ろうとしてみる。
「どう? 何か感じた?」
カインが横から覗き込んでくる。
「うーん……なんとなく、しっとりしてるのは分かるんだけど……これが深いところまで届いているのか、それとも昨日降った雨の残りなのかが全然分からないや」
「そっかぁ……。やっぱり水属性の魔法使いの人にコツを教わらないと、ただ『濡れてる』くらいしか分からないのかな」
カインも一緒にしゃがみ込み、うーんと頭をひねる。
「でもね、カイン。土の奥のほうから、ほんの少しだけど雑草の根っこが水を吸い上げてる感覚はあったよ」
「本当!? すごいじゃんアイ! じゃあ、マスカラ街の大樹でもきっと同じように調べられるよ!」
カインは自分のことのように喜んで、顔を輝かせた。




