カインの独白
私は天才だ。
なぜなら、生まれた瞬間からの記憶が鮮明に残っているからだ。
幼い頃、親にその記憶を語ったことがあるが、笑ってあしらわれた。親も、周りの友達も、赤ん坊の頃の記憶なんて誰も持っていないと言う。その時に私はふと思った。私の周りにはバカしかいないのでは?
なぜ覚えていないのか不思議で仕方がなかったが、ある日、たった一人だけ「私と同じ存在」を見つけた。
隣の家に住む、アイという少女だ。
初めて彼女を見たのは2歳の頃。窓越しに少し顔が見えただけだったが、なぜか強く惹きつけられた。お隣同士なのに、私だけが一方的に彼女を観察しているという歪な関係。
私の家は農家なので、たまに畑へ連れて行かれる。そこには同年代のウィリノーやエマもいたが、彼らからは何の魅力も感じなかった。この村には沢山の子供がいるが、アイ以上に特別な子はどこにもいなかった。
もうすぐ4歳になろうとする頃、家の前で偶然アイと出くわした。
もしかしたら彼女なら...と抑えきれない期待を込めて「一番最初の記憶はなあに?」と尋ねてみたら。
アイは少し驚いた顔をしたが、すぐにこう答えた。
「――木の揺りかごで寝ていたことかな?」
その瞬間、胸の奥が熱くなった。
やはり彼女は私と同じだ。赤ん坊の頃からの記憶を持っている。世界で唯一、私と肩を並べられる存在を見つけたのだ。
それからというもの、私の関心はすべてアイへと注がれるようになった。
最初のうちは遠くから見つめるだけだったが、ある日、窓越しに彼女がちいさな手から「水」を生み出すのを目撃してしまった。魔法だ。以前私もしてみようと思ったができなかった事を、彼女はやってのけたのだ。
ただ見ているだけでは、もう気持ちが収まらなかった。
私はアイの生活リズムを完璧に把握し、彼女が家のお手伝いを終えて一番手持ち無沙汰になる絶妙なタイミングを狙って「森へ行かない?」と誘い出した。最初は不安そうにしていたアイだったが、二人で森に通う回数を重ねるうちに打ち解け、今では楽しそうに笑ってくれるようになった。
私にとって、世界で価値があるのはアイだけだ。
けれど、私たちが特別だと知られたらどうなるか分からない。だから私は、表面上はどこにでもいる「普通の子ども」を演じることにした。みんなに優しく接するアイの動作を完璧に模倣し、誰にも怪しまれないよう振る舞っている。もちろん、アイが魔法を使えることも秘密だ。
そんなある日、森で遊んでいると、一つ年上のウィリノーが顔を赤くしながら私に「好きなもの」を聞いてきた。
心の底から気持ち悪かった。一つ年上のくせに、バカみたいに叫びながら走り回るだけの幼いガキ。そんなものに興味があるはずがない。
(こんなバカたちと対等に話すなんて、苦痛でしかない....)
心の底で蔑みながらも、私はアイの真似をして微笑み、適当にあしらっておいた。
それに私には、このバカたちには絶対に見えていない「何か」が見えている。
人間の身体を包み込む、透明な輝きのようなものだ。
大人と子どもではその大きさが異なり、基本的には大人の方が圧倒的に大きい。親にそれとなく探りを入れてみたが、やはり見えていないようだった。
私にしか見えないなにか。そして、まだ4歳の幼さでありながら、アイだけは大人と同等の大きな輝きをその身に纏っていた。
やはり私は特別で、天才だ。
そして、この世界で私と対等になれるのはアイだけ。
私はアイにしか興味がない。だからこそ、この感情がバレて拒絶されないよう、慎重に距離を測りながら「普通の子」の仮面を被り続ける。
....けれど最近、自分でも気づかないうちに、私の口調や仕草はどこまでもアイに似通ってきていた。
カインがなぜ生まれたときからの記憶が残っているのか、考えてみたら面白いかもしれません。




