44、お風呂④
「私の魔法でなにかできないかな?」
私は腕を組んで、もう一度お風呂を見た。今のお風呂は、大人が入るには小さすぎる。だからといって、大きな桶を作るには材料も必要だし、職人さんに頼まなければならない。
(私の魔法なら、水を動かせる)
水を浮かせることなら、前からできていた。桶からこぼれた水を空中に留めたり、離れた場所へ運んだりすることも、今では難しくない。
(だったら……これを、お風呂に使えないかな?)
「ん〜〜……あっ! 思いついた!!」
声を上げると、私は土の壁の中にある桶の水を一度全部捨て、それをひっくり返した。
「アイ? どうしたの?」
カインが不思議そうに覗き込んでくる。
「んーとね。私の魔法でお風呂を作るの!」
「どうやって?」
「この桶をお風呂の底にするの!」
ひっくり返した桶の上に立ち、胸を張る。カインたちは、ぽかんと口を開けてその言葉を聞いていた。
私は両手を広げ、桶の上に四角い水の塊を生み出した。その塊からは、ホカホカと湯気が立ち上っている。
「おお……」
カインが目を丸くした。
「これどうするの?」
「まあ見てて」
集中すると、ゆらゆらと揺れていた四角い水が、私の魔力に応じてすうっと形を変え始める。角が取れて丸みを帯び、まるで透明な粘土のように形を変えていった。
「うわぁ……丸くなっていってる」
「そう。この桶の形に合わせて、円柱にするの!」
さらに集中を高め、水の表面張力をコントロールしていく。四角かった水は角をすっかりなくし、綺麗でなめらかな円柱形となって桶の上に浮かび上がった。
「すごい……! 水なのに、綺麗な柱みたいになってる!」
カインが思わず身を乗り出し、目を輝かせながらその円柱状の水を見つめた。
続いて、私は水の中へと魔力を送り込む。
(よし、これなら座れる)
魔力で内部の一部を押しのけ、座るための「魔力の椅子」を作った。
「よし、カイン。この桶を土の壁の中に戻して。私はこの水の塊を浮かしたまま維持するから」
「わかった」
カインは頷くと、慎重にだるま落としの要領で桶を引き抜き、そのまま土の壁の中へと置き直した。
「これでいい?」
「うん!」
私は浮かせた円柱の水の塊をゆっくりと移動させ、土の壁の中にある、ひっくり返した桶の上にそっと重ねた。
「エマちゃんのお母さん! この中に入ってみて!」
「ええ……この中に?」
エマちゃんのお母さんは、土の壁の中に佇む不思議な水の塊を見つめた。
「うん! 大人でも入れるか試してみて!」
「でも……本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!」
私が笑顔で答えると、エマちゃんのお母さんは少し迷ったあと、土の壁の中へ入っていった。
「それじゃあ、私は外にいるね」
「ええ、お願いね」
土の壁の外へ出てしばらくすると、中から声が聞こえてきた。
「……アイちゃん」
「なに?」
「これ、どうやって使うの?」
「え?」
「体を洗ってから入ればいいの?」
「そう! まず布で体を拭いてから、お風呂に入ってみて!」
「分かったわ」
布を使って体を拭く音が聞こえ、やがて――。
「……入るわね」
「うん!」
ちゃぷん。
静かな水音が響いた。しばらくの間、静寂が包み込む。
「どう?」
「……あったかいわ」
聞こえてきた声は、さっきまでより少しだけ柔らかかった。
「本当に?」
「ええ。思っていたよりずっと気持ちいいわ」
私は思わず笑みをこぼした。
「よかった!」
「それに、ちゃんと体を伸ばせるわね」
「でしょ!」
今までのお風呂は、子どもの私でも少し狭かった。でも、今作ったお風呂なら大人でもゆったり入れる!
「これなら村のみんなも入れるかな?」
「ええ。少なくとも、私なら十分よ」
「本当?」
「ええ」
エマちゃんのお母さんは、少し間を置いてから続けた。
「こんなお風呂が毎日使えたら……きっと気持ちいいでしょうね」
(……!)
私は目を輝かせた。その言葉を聞いて、胸の中に一つの考えが浮かぶ。
(まずは皆にお風呂の素晴らしさを教え込んで、『自分たちでお風呂を作って入りたい!』って思わせればいい。そうすれば、私たちがわざわざ温泉みたいな施設を作らなくても済むんだから! 今は私の魔法で体験させることを最優先にすればいいんだ!)




