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40、教会を大掃除!!

「私の家もネズミが出るし……」




 そう呟くと、カインがこちらを見た。




「アイの家にもいるの?」


「うん。食べ物をかじられたりするから、困ってるんだよね」


「それなら、アイの家も塞いであげる!」


「本当?ありがとう!」




 カインは嬉しそうに頷いた。






 その後に、周りを見渡すと、棚の後ろや壁の隅には、まだいくつか小さな隙間が残っている。ネズミが通れるかどうかは分からないけれど、念のため塞いでおいたほうがよさそうだ。




「カイン、あそこもお願いできる?」




「任せて!」




 カインが手を向けると、硬そうな土が、隙間を埋めていく。




「これで大丈夫!」




「ありがとう。次は、袋の周りも掃除しよう」




 床には、食料の袋からこぼれた穀物が散らばっていた。




 ほうきで掃けば簡単に集められそうだけど、私はせっかくなので魔法を使ってみることにした。




「クララさん、ここも水魔法で掃除していいですか?」




「ええ。ただし、食料を濡らさないようにしてくださいね」




「はい!」




 私は床に手を伸ばした。魔法で出した水を薄く広げ、散らばった穀物を避けながら、砂や埃を集めていく。




 水が床を滑ると、細かな汚れが少しずつまとまっていった。




「アイさんは、魔法でそんな事ができるんですね」




「えへへ。水を動かすだけなので、そんなに難しくないですよ」




 私はゴミを含んだ水を桶へと移した。




「はい!もっときれいにできますよ!」




 私は食料庫の隅を見回した。まだ汚れている場所がある。棚の下、壁際、袋の置かれていた場所。




 普段はほうきが届きにくい所も、水なら届きそうだ。




「次は、棚の下を掃除してみます!」




「アイちゃん、そこは少し狭いので、気をつけてくださいね」




「分かりました!」




 私は水を細く伸ばし、棚の下へと流した。すると、奥から細かな砂と埃が出てきた。




「わあ、こんなに溜まってたんだ!」




「まあ……」




 クララさんも驚いたように覗き込んだ。




「普段の掃除では、なかなか手が届かない場所ですからね」




「水なら、奥まで届くんです!」




 私は水をゆっくり動かし、棚の下の汚れを集めていった。掃除が終わると、クララさんが床を見て頷いた。




「とてもきれいになりました」




「本当ですか?」




「ええ。ありがとうございます」




 褒められると、なんだか嬉しくなる。




 「今日は疲れていたはずなのに、掃除を手伝ってくれてありがとうございます」




 クララさんが、少し心配そうな顔で言った。




「大丈夫ですよ!魔力も馬車の中で寝てたら、半分くらいは回復しましたし、まだまだ元気です!」




 私は笑って答えた。




「それなら、次はどこを掃除しましょうか」




 クララさんが尋ねた。




「えっと……」




 私は食料庫を見回した。床はきれいになったし、隙間もいくつか塞いだ。けど、まだ気になる事がある。




「食料の袋を置く場所を、少し変えたほうがいいかもしれません」


「置く場所ですか?」


「はい。床に置いていると、ネズミが近づきやすいと思うんです」




 前世でも、食べ物を床に置かないようにしていた。ネズミは小さな隙間から入ってくるし、食料が近くにあれば、荒らされてしまうからである。




「なるほど……」




 クララさんは袋を見ながら考えた。




「では、棚の上に置くようにしたほうがよさそうですね」




「そうですね! ただ、重いものは無理に持ち上げないほうがいいと思います」




 




 穀物が入った袋は、思っていたよりも大きい。私やカインが持つには重すぎるかもしれない。




「それなら、まずは軽いものから整理しましょうか」




「はい!」




 私たちは棚の上に置かれていた木箱を片付け始めた。使っていない道具を別の場所へ移し、空いた場所を布で拭いていく。




 カインは木箱を持ち上げようとしたけれど、少し重かったのか、すぐに床へ戻した。




「これ、結構重いですね」




「無理しなくていいですよ」


クララさんが優しくそう言った。




「はい!」




 




 私は水魔法を使って、木箱の周りに溜まった埃を集めていく。水を薄く広げると、埃が少しずつまとまっていった。








(魔法で水を出すと、凄い便利なんだなぁ)






 掃除をしていると、食料庫の外から足音が聞こえてきた。誰かが廊下を歩いていて、近づいてくる。




「クララさん、誰か来ましたか?」




「さあ……」




 クララさんが扉のほうを見る。




 足音はどんどん近づいて、やがて止まった。




「掃除中に申し訳ない。シスター、ちょっと来てくれないか」




食料庫に入ってきたのは、神父様だった。




「はい、かしこまりました」




(どうしたんだろう)




「クララさんがどうかしたんですか?」


私が神父様にそう尋ねた。




「……ああ、いや、大したことではないんだ。ただ、シスターとしての務めに関する個人的な確認でな。人前で話すような内容でもないのだよ」




「……そうだったんですね。失礼しました」




私には聞こえないように、神父様はクララさんを少し離れた場所へ促す。




「シスター、ちょっとあちらで話そうか」




「はい、神父様」




クララさんは一瞬緊張した面持ちを見せたものの、静かに頷き、神父様の後について食料庫を出て行った。




残された私とカインは、顔を見合わせる。




「……何か良くないことでも言われちゃうのかな」




カインが心配そうに呟く。




しばらくすると、クララさんが戻って来た。




「アイさん、カインさん少し休みませんか?」




「あっ!」


「「クララさん!」」


「大丈夫でしたか?」


「はい。少し注意されましたけど、大丈夫です」




クララさんはいつもの様に微笑んでそう言った。クララさんが笑顔でそう言うと、安心する。




「それより、休憩しませんか?」




「そうしましょう!」






(今日は巨角熊との戦闘もあったし、カインは表に出していないだけで本当は疲れているのかもしれない)




(最近のカインは、少し無理をしているように見えるんだよね。見た感じは平気そうに振る舞っているけれど)






「ええ。そうしましょう」




 私たちは廊下の椅子に座った。カインも隣に座り、壁に寄りかかった。




「アイ、眠くない?」




「ちょっとだけ」




「私も」




 カインは目をこすった。




 私たちはしばらく黙っていた。窓から入る風が、少し涼しい。外では、教会の鐘が鳴っていた。




 いつも聞いている音なのに、今日はなんだか違って聞こえる。






「アイさん」




 クララさんが声をかけてきた。




「……んあ?」




「今日は、本当にありがとうございました」




「えっ?」




隣を見ると、少しカインが私に寄りかかって、寝ていた。




(え?もしかして私たち寝てた?)




「私たち寝てました?」




「はい。ぐっすりと」


「横にしてあげようと思ったのですが、カインさんがアイさんに寄りかかっている姿が、とても可愛らしかったもので」




「そうですか」




 私は笑って頷いた。




 しばらくすると、お父さんが教会の近くまで歩いて来たのが分かった。私は立ち上がって、窓から外を見るとお父さんがいた。




「お父さん!」




 私は廊下を走り、教会の入り口へ向かった。扉を開けると、お父さんが立っていた。




「アイか」




「お父さん、お疲れ様!」




 私は駆け寄った。




 父さんは少し疲れた顔をしていたけれど、私を見ると笑った。




「どうだ、少しは疲れが取れたか」




「うん!食料庫も廊下もきれいにしたよ!」




「そうか。頑張ったな」




 父さんが私の頭を撫でた。


その手は、いつもより少し重く感じた。巨角熊の解体や、兵士としての仕事を終えてきたのだろう。




「お父さん、巨角熊はどうなったの?」




「無事に運び終わった。あとは街のほうで処理することになる」




「そっか!」




 私は頷いた。




「それより、アイ。今日はもう帰るぞ、疲れただろう?」




「うん。少しだけね」




私とカインはいつも通りに、三人で並んで家に帰った。今日は少し胸を張って街を歩けた気がする。

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