36、兵士姿のお父さん。
私たちは、カインのお母さんから承諾を得ると、馬車に乗り街へ向かった。
馬車の中では、兵士さんたちがこれからのことについて話していた。
「街に着いたら、何人かの兵士と合流します」
「分かりました」
シスターさんが返事をする。
私は窓から村の景色を眺めながら、カインの事について考えていた。
(お母さんとは、そこまで仲は悪くなさそうだったけど、なんでカインは嫌がってたんだろう?)
隣に座っているカインを見る。
カインは外をボーとしているのかよく分からない顔で眺めていた。
しばらくすると、馬車は門をくぐって街へと入った。街の中を少し進んだところで、兵士さんが馬車を止めた。
「ここで一度降りましょう」
私たちが馬車から降りると、少し離れたところに何人かの兵士さんが立っていた。
その中には、見慣れた顔もある。
「あっ、お父さん!」
私が声をかけると、お父さんがこちらを振り向いた。
「アイか」
「うん!」
私はお父さんのところまで駆け寄る。
「カインも一緒なんだな」
「はい!」
カインが元気良く返事をする。
お父さんは私たちを見たあと、少し真剣な顔になった。
「森へ行くんだろ?」
「うん」
「お父さんはカインとアイの護衛になっているから、お父さんの言う事はしっかりと聞くんだぞ。お父さんの近くにいれば、危険はないからな」
お父さんは胸を張って自信満々にそう言った。
「分かった!」
お父さんは私が返事をすると、他の兵士さんたちの方へ向き直った。
「それで、準備はできているのか?」
「はい。いつでも向かえます」
「では、昼食を済ませてから出発しよう」
お父さんの言葉で、私たちは昼食をとることになった。
兵士が持ってきたパンを取り出して、私たちにも配られたので食べた。
「いただきます」
パンを一口かじと、朝と夜に食べるパンと同じ硬さで、味も似ていた。
特別なパンではないけれど、お腹が空いていたので少し美味しく感じていた。
(白パンを食べたいな〜〜)
パンを食べ終えると、私たちは兵士と魔物のいる東の森に行く事になった。
私とカイン、シスターさん、神父様、それと私の護衛であるお父さんは馬車に乗りそれ以外の人は歩いて、向かっていた。
馬車は歩いている兵士の速度に合わせていたので、非常にゆっくりだった。
しばらく馬車に揺られていると、東にある門を通り東の森に向かって行った。
さらに馬車で進むと、遠くに木々が集まっている場所が見えてきた。
「あれが、巨角熊のいる森?」
私がお父さんに尋ねる。
「あーそうだ」
「最後に目撃されたのは、この街に続く道の付近だが、今は森の中だ」
馬車が進むと、だんだんと森が近づいてくる。
周りを歩いていた兵士さんたちが足を止めると、それに合わせるように馬車も止まった。
すると、外にいた兵士さんが馬車に乗っている私たちに声をかける。
「今から森に入るので、馬車から降りてください」
私たちは馬車から降り、兵士さんたちの後ろについて歩き始めた。シスターさんだけは馬車に残った。
森を外から見ても普通の森となんらかわらず、本当に魔物がいるのか疑ってしまう。
(本当に、こんなところにいるのかな……)
さっきまで聞いていた話では、巨角熊は三メートルほどもあるらしい。
そんな大きな魔物が、この森のどこかにたとしたら、かなり目立つだろう。
森の近くまで来ると、兵士さんたちの様子が変わった。
さっきまで普通に話していたのに、今は誰もほとんど話さず、周囲を注意深く見ている。
「ここからは静かにしてください」
兵士さんが小さな声で言った。
「分かりました」
私たちも声を潜め、兵士さんたちの後ろについて森の中へ入っていく。
木々の間を進むにつれ、先ほどまで聞こえていた鳥の声や風の音が、妙に大きく感じられた。
しばらく歩いたところで、先頭の兵士さんが突然足を止めた。
「……止まってください」
私たちも、その場で立ち止まる。
先頭の兵士さんは森の奥をじっと見つめていた。
「どうしたんですか?」
私が小声で尋ねる。
すると、兵士さんがゆっくりと森の奥を指差した。
「あそこです」
「え?」
指差された方向に目を向ける。
最初は何も見えず、ただ木々が立ち並んでいるだけに見えたが、じっと目を凝らしていると、その奥で何かが動いた。
「……あれ?」
木々の間をゆっくりと動いていた、熊に似た大きな体を持つ茶色い影は、その姿が少しずつ見えてくるにつれて、頭に一本の大きな角があった。
「……あれが、巨角熊」
兵士さんが小さな声で呟くのを聞いて私は思わず息を止めた。
遠くにいるにもかかわらず、その大きさがはっきりと分かるほどだった。
(……大きい。それに道のこんなに近くにいるなんて...)
以前聞いた「三メートル」という言葉が頭の中に浮かび、実際に見ると数字だけで想像していたときとは全然違う
巨角熊は、まだ私たちには気づいていないで、のんびりと森の中をゆっくりと歩いている。
私たちはその場から動かず、遠くから巨角熊の様子を見つめていた。
「……今のところ、こちらには気づいていないようです」
先頭にいた兵士さんが小さな声で言った。すると、お父さんが周りの兵士たちに目を向ける。
「では、作戦を確認するぞ」
兵士たちが集まり、お父さんの話に耳を傾ける。
「まず、俺たちが巨角熊をこちらへ誘導する。森の中で戦うと動きにくいからな、できるだけ開けた場所まで誘い出す」
お父さんが説明を続ける。
「その後、カインに巨角熊の足を止めてもらう」
お父さんがカインを見る。
「カインは泥をだせるんだな?」
「はい」
「なら、巨角熊の足元に泥を作ってほしい。あれだけ大きな体なら、泥に足を取られれば動きも鈍くなるはずだ」
「分かりました」
カインが頷く。
お父さんは、そんなカインの様子を見ていた。
(本当なら、こんな小さな子に頼むようなことじゃない)
俺は、上から命令を受けたときのことを思い出す。
街に魔法使いが少なく巨角熊を足止めできる者がいないためカインに頼むことになったが、俺たちだけでは安全に倒せるか分からないという理由は理解しつつも、カインを危険な場所へ連れていくことにはどうしても気が進まなかった。
(俺が断れる立場なら、断っていたかもしれないな)
兵士として命令に従うのは当然だ。
だが、父親としては、娘と同じくらいの年齢の子供に危険な役割を任せることを、簡単には受け入れられなかった。
お父さんは小さく息を吐くと、カインに声をかけた。
「カインは危険だと思ったら、すぐにやめていい。無理をする必要はないからな」
「はい」
カインは短く返事をした。
「巨角熊の動きが止まったら、俺たちが攻撃する。無理に倒そうとせず、まずは動きを封じることを優先する」
三メートルもある巨角熊を見ていると、確かにあんな大きな体を自由に動かせなくすれば、戦いやすくなりそうだ。
「それから、アイや神父様たちはできれば、馬車に戻って欲しい」




