34、カイン
シスターさんは少し困った様子で言った。
「で、ではとりあえず、神父様に話しましょうか」
「はい」
カインが頷くと、シスターさんは立ち上がり部屋の扉を開けた。
私たちはシスターさんと兵士さんたちの後について、教会の廊下を歩いていると、隣にいるカインが少し静かなことに気づいた。
「カイン、大丈夫?」
「え?」
「さっきから静かだから」
「大丈夫だよ」
カインはそう言って笑った。
「……怖いよね」
「うん」
そんな話をしているうちに、シスターさんは立ち止まり、ある部屋の前で止まった。
シスターさんが部屋の扉を叩く。
「神父様、少しよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
返事を聞いて、シスターさんが扉を開ける。
(神父様の部屋はシスターさんが言ってたけど、個人的な部屋がないってことなのかな?仕事部屋みたいのはあるのかな)
「おや? 皆さんでどうしました?」
「実は、こちらの兵士の方々からカインさんにお願いがあるそうなのです」
「カインに?」
神父様が兵士さんとカインを見る。
「はい」
兵士さんは先ほどと同じように、巨角熊が街の近くに現れたことを説明した。
そして、カインの土属性と水属性の魔法で泥を作り、巨角熊の足を止めてほしいということも話した。
神父様は話を聞き終わると口を開いき、カインに尋ねた。
「なるほど……」
「カイン。あなたはどうしたいですか?」
「私……」
カインが少し考えて、私の方を見た。
「……アイは?」
「私?」
(えっ私。は...)
「私は……」
大きな魔物がいると聞いて、怖かった。
早く誰かが討伐して欲しいと思った。
カインだけが手伝いに行くのも心配だ。
泥を作るだけとはいっても、相手は三メートルもある魔物だ。
「カインだけで行くのは、ちょっと心配かな。私は……カインが行くなら、私もついていこうかな」
私が迷いながらそう言うと、カインは少しだけ嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒に行こう。街の兵士さんたちが困ってるようだし」
「うん」
私が頷くと、神父様は少し考えるように黙った。
「二人とも、討伐に参加するといことですね?」
「「はい」」
「分かりました。ただし、条件があります」
神父様は真剣な顔になった。
「絶対に無理をしないことです」
「はい」
「カインは、魔物から離れた場所で足止めをして、魔物が近づいてきた場合は、すぐに逃げること」
「分かりました」
「アイも同じです。兵士の方々の指示に従い、危険な場所には近づかないようにしてください」
「はい!」
私が返事をすると、神父様は頷いた。
「それから、君たちのご両親には参加していいか許可を貰った方がいいかもしれませんね」
そう言ったところで、神父様がふと何かを思い出したような顔をした。
「そういえば……」
「?」
「アイのお父さんは、街の兵士でしたね」
「うん。そうですよ」
神父様は兵士さんたちを見る。
「でしたら、今回の件についても、お父さんはある程度事情をご存じかもしれませんね」
「そうですね」
兵士さんも頷いた。
「街の兵士ですので、今回の討伐についても話が伝わると思います」
「なるほど」
神父様は頷くと、今度はカインを見る。
「カインさんは、一度家に戻って許可を取らないといけないですね」
「......」
カインが黙った。
「カイン?」
「……うん」
カインは小さく頷いが、さっきまでとは少し様子が違う。
(やっぱり、お父さんとお母さんの話は嫌なのかな。そんなに嫌いなのいかな?それとも怖いとか?)
カインの両親が、カインのことをあまり気にしていないことは私も知っている。
だけど、カインのお父さんやお母さんとは話たことがあるけど、優しい人たちだったから、そこまで嫌う理由が分からなかった。
シスターさんがカインの様子を見て、優しく声をかける。
「大丈夫ですよ。私も一緒にお話ししますから」
「……うん」
カインはもう一度頷いた。
「それでは、討伐はいつ行うのですが?今日ではないですよね」
神父様が兵士に少し圧をかける様に言った。
「そ、それが...今日の午後からです...」
「今日か...それなら一度カインさんたちは村に一度戻って、カインの親に言った方が良い──それよりその魔物はカインたちの村に近ずくことはないのですか?」
「はい。村のある方とは反対なので大丈夫です」
「そうか」
神父様はそう言うと立ち上がった。
「それでは村に行きましょう」
「え?」
(一緒に来てくれるんだ)
「カインさんのご両親に、今回のことを説明する必要がありますからね。それに、今日の午後から討伐を行うのであれば、あまり時間もありません」
「ありがとうございます」
兵士さんが頭を下げ、感謝する。
「では、まず村へ向かいましょう」
神父様がそう言うと、シスターさんが頷いた。
「はい。アイさんとカインさんも、準備をしましょう」
「はい!」
「……うん」
私が元気よく返事をすると、カインも小さく頷いた。
「カイン」
「なに?」
「……一緒に行くから」
それだけ伝えると、カインは少し目を見開いた。
そして、ほんの少しだけ笑った。
「うん。ありがとう、アイ」
「ううん」
私は首を横に振った。
シスターさんがそんな私たちを見て、優しく微笑む。
「それでは、忘れ物がないようにしてから向かいましょう」
「はい!」
(なんにも持って来てないけどね)
私たちは、シスターさんや神父様の準備が整うと、教会の庭にあるベンチの前に集まった。
「君たちは少し待っていてくれ」
「かしこまりました」
シスターさんが返事をして、私たちは頷いた。
「シスターさん、神父様は何をしに行くんですか?」
「多分ですけど、馬車を呼んでくると思います」
(馬車を呼べるって、タクシーみたいに使ってるじゃん。そうとうお金持ちなのかな?)
私たちも依頼の時には馬車を使うことがある。
でも、それは魔法使いが組合に申請して、依頼場所まで無料で乗せてもらえるからだ。私用で使うことはできない。
前にバドさんに聞いた話では、組合を通さずに馬車を呼ぶと、一回乗るだけで金貨一枚もかかるらしい。
(金貨一枚だよ?それを呼べるってことは、神父様ってかなりお金持ちなのかな)
私は改めて、神父様のすごさを感じた。
(神父様、恐るべし)
「神父様ってお金もちなんですね」
「ん?あ〜〜今回は教会の費用で払うと思いますよ」
「えっそうなんですか?」
「はい。教会で預かっている子供を危険な仕事を行わせるので、いち早く親御さんに伝えないといけませんからね」
「なるほど」
「はい。子供を預かる立場として当然の務めですから、これは必要な経費なのです」
シスターさんと会話してからしばらくすると、一台の馬車が近づいて来た。
馬車が近くで停まり、中を覗くと神父様が座っていた。
「お待たせしました」
神父様はそう言うと、馬車から降りてくる。
「神父様、早かったですね」
「急いだ方がいいですからね」
神父様はそう言って、私たちの方を見る。
「では、乗りましょう。村までは少し時間がかかりますから、その間に今回のことをもう一度整理しておきましょう」
「はい」
シスターさんに続いて、私とカインも馬車へ乗り込み、中に入ると、神父様と向かい合うように座った。
最後に兵士さんたちも乗り込む。
「それでは、お願いします」
神父様が御者に声をかけると、馬車がゆっくりと動き始めた。
(こうやって馬車に乗るのも、だいぶ慣れてきたな)
最初の頃は馬車に乗るだけでも少し緊張していたけれど、最近は依頼で乗ることも増えてきた。
街の門を抜けて、やがて馬車が村へ入る。
見慣れた家々が窓の外を流れていく。
「こちらです」
カインが御者に伝える。
馬車がゆっくりと速度を落とし、一軒の家の前で止まった。
「着きましたね」
神父様が立ち上がる。
私たちも後に続いて馬車から降りて、ゆっくりと扉へ向かった。
「コンコン」
カインが扉を叩くと、中から声が聞こえた。
「はい。どなたですか?」
扉が開く。
そこには、以前会ったカインのお母さんが立っていた。
「あら……カイン?」
「お母さん……」
お母さんはカインの後ろにいる私たちを見る。




