30、銀貨の壁
ついに、30話まで来ました!
(カインのときは、依頼主の人が直接組合へ行って完了の報告をしてくれたっけ。でも今回は、依頼主が持っているこの確認書類にサインを入れてもらって、それを私たちが組合に提出する形か〜〜)
私は確認書類を手に持って、馬車に乗り込んだ。
「これを組合の受付の人に渡せばいいのかな」
「そうじゃない」
書類に目を通してみる。依頼者のサインが書かれたこの紙を受付に渡せば、無事に報酬を受け取れるということらしい。
「よっしゃ、それじゃあ組合に戻るぜ! しっかり捕まってろよー!」
バドさんの威勢のいいかけ声とともに、馬車が再びガタゴトと車体を揺らして走り出す。
心地よい風を受けながら、私たちは組合へと戻ってきた。
「お疲れさん、到着したぞ!」
バドさんの声に合わせて、私たちは順番に馬車から降りる。
石畳の地面に足をつけると、ほっと肩の力が抜けた。
私からバドさんにお礼を言うと、カインも続いて言った。
「ありがとうございました、バドさん!」
「ありがとうました!」
「おう、お疲れ様!」
バドさんに元気に手を振り、私たちは再び組合の扉を押し開けて中に入った。
先ほどまでいた兵士の姿なく、緊張した雰囲気もなかった。
私たちは、受付の女性の所まで歩いて行った。
「あの、依頼の『防火水槽の補充』が完了しました。これが確認書類です」
私は手に持っている受付の人に書類を手渡した。
「はい、確認しました。少し待っていてください」
受付の女性は渡された書類に目を通すと、そう言って立ち上がった。
しばらくすると、手に袋を持って戻ってきた。
「これが今回の依頼達成の報酬です」
受付の女性がカウンターの上に置いたのは、少しずっしりとした布製の小銭入れだった。
「ありがとうございます!」
私は両手で大切にそれを受け取り、頭を下げた。
「お疲れ様でした。初めての依頼だったけれど、問題なく終わって何よりです」
受付の女性は、安心させるような優しい笑みを向けてくれた。
「それじゃあ、失礼します!」
私たちはもう一度丁寧におじぎをして、組合の扉を開けて外へと出た。
外の空は少しずつ夕暮れの色を帯び始めていていた。
「ねえ、アイ。今回の報酬は銅貨5枚だっけ?」
「そうだね。これで、金具は買えるね」
私たちは顔を見合わせてくすっと笑い合い、私たちは一緒に、教会へ向かって歩いていた。
「今日は疲れましたね」
シスターさんが私たちを見ながら、微笑みながらそう言った。
「うん。でも、初めての依頼だったけど、ちゃんと終わらせられてよかった」
「そうですね。アイさん、本当によく頑張りました」
「ありがとうございます」
私は少し照れながら答えた。
袋の中には、今回の依頼で受け取った銅貨五枚が入っている。
(この世界での初めて自分で稼いだお金!)
そう考えると、疲れているのに自然と嬉しくなった。
「明日、金具を買いに行こうね」
私がそう言うと、隣を歩いていたカインが頷いた。
「うん。一緒に行こう!」
カインはいつも私の近くにいる。
私が何かをしようとすれば一緒にやりたがるし、私が嬉しそうにしていれば、カインも嬉しそうにする。
昔からずっと一緒に過ごしてきたからだろうか。
最近では、考え方や仕草まで少しずつ似てきたような気がする。
けれど、それを嫌だと思ったことはない。
カインが隣にいることは、私にとって当たり前だった。
やがて、見慣れた教会が見えてきた。
「もう着きますね」
「うん!」
私たちは教会の中へ入った。
「今日は本当にお疲れ様でした。初めての依頼でしたが、無事に終わってよかったですね」
「はい!」
私は元気に頷いた。
カインも私の隣で笑っている。
「それでは、お父さんが迎えに来るまで、ここで少し休んでいましょう」
「はい」
私たちは教会の椅子に並んで腰を下ろした。
シスターさんは近くで仕事を始める。
私はぼんやりと窓の外を眺めながら、お父さんが来るのを待った。
しばらくすると、教会の扉が開き、聞き慣れた声が響く。
「あ、お父さん!」
私はすぐに立ち上がった。
すると、カインも私の後を追うように立ち上がった。
「おう、二人とも。待たせたな」
お父さんが笑いながら近づいてくる。
「今日はどうだった?」
「ちゃんと依頼を終わらせたよ!」
「そうか。初めての依頼だったのによく頑張ったな」
お父さんが私の頭を撫でてくれる。
「怪我はないか?」
「大丈夫!」
「それならよかった」
お父さんは安心したように頷いた。
「カインも大丈夫だったか」
「うん」
カインは私の隣に立ったまま答える。
「アイと一緒だったから」
「そうか」
お父さんは優しく笑った。
「それじゃあ、帰るか」
「うん!」
私が答えると、カインも頷いた。
「うん」
私たちはシスターさんのところへ向かった。
「シスターさん、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。二人ともよく頑張りましたね」
シスターさんは優しく微笑む。
「明日も気をつけてくださいね」
「「はい!」」
カインもシスターさんに手を振る。
「ええ。また明日」
私たちは教会を出た。
夕暮れの街を、私とカイン、お父さんの三人で歩いていく。
「そういえば、お父さん」
「ん?」
「今日、初めて依頼を達成できたんだ。報酬は銅貨五枚だったよ」
「おお、すごいじゃないか」
私は嬉しくなって、小銭入れを取り出して見せる。
「これからも頑張って稼いで、王都での生活のためにしっかりお金を貯めるんだぞ」
「あーうん...」
私は隣にいるカインと顔を見合わせた。
(う~ん、そうだよね。王都で生活するためにお金を稼いでるんだから、貯めた方がいいよね)
でも、頭の中には今日の洗濯のことが浮かんでくる。
(けど、服を絞るのって結構大変なんだよね......。お母さんも毎日大変そうだし、できれば洗濯を楽にしてあげたい)
私は少し迷ったあと、お父さんに尋ねる。
「お父さん......私、自分のお金で洗濯機っていうのを作ってみたいんだけど、いい?」
「せんたくき? よく分からないが......アイが自分で稼いだお金を使うなら、俺は反対しない」
お父さんはそう言ったものの、少し不安そうな顔をしていた。
「それが......材料とかを買うと、たぶん銀貨三枚くらい」
「銀貨三枚?」
お父さんは目を見開いた。
「そんなにかかるのか?」
「うん......。できるだけ安くしようとは思ってるんだけど」
(やっぱり高いよね......)
お父さんはしばらく黙って、私の顔を見つめていた。
「......アイ」
「なに?」
「アイは本当にそれを作りたいのか?」
「うん」
私は迷わず頷いた。
「お母さんが毎日洗濯するの、大変そうだから。少しでも楽にしてあげたいんだ」
「そうか.....」
お父さんは小さく息を吐いた。
「お前が家のことを考えてくれるのは嬉しい。でもな、無理してまで作る必要はないんだぞ」
「無理はしないよ」
「それならいいんだが......」
お父さんは少し困ったように笑った。
「一昨日も言ったが、お前はまだ子供なんだからな。仕事も、危ないと思ったら無理せず帰ってくるんだぞ」
「うん、分かってる」
「王都へ行くためのお金も必要だ。自分で稼いだお金だからといって、全部使ってしまう必要もない」
「うん......」
私は少しだけ考えてから、笑顔を浮かべた。
「でも、お母さんが楽になるなら、作ってみたい」
お父さんはしばらく私を見つめたあと、頭に手を置いた。
「......分かった。そこまで言うなら、やってみなさい」
「本当?」
「ああ。ただし、無理はするなよ」
「うん!」
私は嬉しくなって、大きく頷いた。
「私も一緒に作るから、あと二回ぐらいでいいと思うよ」
カインがそう言って胸を張ると、私はハッとしてカインの方を見た。
(あっ、そうだった。私たちは最初から、材料費を二人で半分ずつ出すつもりだったんだ。すっかり忘れてた!)
「そうなのか?」
お父さんはカインの言葉を聞いて、少し驚いたように私を見る。
「うん、そうだよ!」
「......そうか」
お父さんはカインの方にも目を向ける。
「カインも、無理はするなよ。二人とも、まだ子供なんだからな」
「うん!」
カインは元気よく頷いた。




