29、ついに依頼達成!!!
シスターさんは穏やかに頷くと、少し緊張した様子の私とカインの背中を優しく押し、組合の扉をそっと開けた。
(何があったんだろう?何か怖い事じゃないといいんだけど)
中に入ると、普段の静かな雰囲気とは一変して、少しピリッとした緊張感が漂っていた。
カウンターの奥では、組合の職員たちが忙しそうに書類をめくっており、その横には立派な兜をかぶった兵士がもう一人、腕を組んで立っている。
「こんにちは...あ、シスターさんたちですね」
受付の女性がこちらに気づき、少しホッとしたような表情を浮かべた。
「お忙しいところすみません。馬車の利用申請をしに参りました」
「馬車の申請ですね......」
受付の女性は周囲を見渡したあと、私たちが兵士たちの様子を気にしていることに気づいたのか、小さな声で話し始めた。
「...あちらの兵士さんたちですが、実は近頃、領外の警備が急に厳しくなったらしいんです。近隣の兵舎へ送る糧食の確認にも来ているとか。何かあったのではないか、なんて噂もありますが.......私たちには詳しいことまでは分かりません。大きな事態にならなければいいのですが...」
「何か、あったんですか?」
思わず聞き返した。
兵士が増えている。
領外の警備が厳しくなっている。
それに、兵舎へ送る食料まで確認している。
一つ一つなら、それほど気にすることではないのかもしれない。
けれど、こうして並べてみると、どうしても何かが起きているように思えてしまう。
受付の女性は困ったように眉を下げた。
「それが...私には本当に何も分からないんです...」
「そうですか...」
「はい。それより、馬車の手配場所は防火水槽の前でよろしいですか?」
受付の女性が書類に目を向けながら、尋ねてきた。
「はい」
私は頷きながら返事をした、受付の女性は微笑んでいた。
「ふふ、頑張ってください」
「ありがとうございます」
私たちは受付の女性にお礼を言うと、組合の外で馬車を待つと言い組合の外に出た。
組合の扉が閉まると、先ほどまで漂っていた緊張した空気が少しだけ無くなった。
「なんだったんだろうね?」
私は思わず呟いた。
「分からない」
隣にいたカインも、少し不安そうな顔をしている。
「でも、何も起きてないなら、それが一番いいよね」
「うん」
そう答えながら、私は組合の建物を振り返った。
扉の向こうでは、今も職員たちが忙しそうに働いているのだろう。
今はただ、馬車が来るのを待つしかなかった。
(お父さんも兵士だけど、大丈夫かな?...)
「二人とも、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
シスターさんが私たちの間に立ち、優しく声をかけてくれた。
「何かあれば、その時に考えればいいんです。今は依頼のことだけ考えましょう」
「...はい!」
私は頷いた。
不安が完全になくなったわけではないが、それでも、シスターさんがそう言ってくれると、少しだけ安心できた。
しばらくすると、遠くから馬の蹄が地面を叩く音が聞こえてきた。
「あっ!」
カインが声を上げた。
通りの向こうから、一台の馬車がこちらへ向かって走ってきた。
「馬車が来ましたね」
シスターさんが微笑む。
「バドさーーん!」
私は思わずバドさんの名前を言った。
「よーーー!午後も依頼のために頑張るなんて、偉いねー」
御者台から、バドさんはそう言いながら、私たちの目の前に馬車を停めた。
「バドさん、こんにちは!」
私は手を振りながら、カインと一緒に馬車へと近づいた。御者台からひょいと身を乗り出したバドさんは、いつも通りの笑みを浮かべている。
「おう、待たせたな! 組合のあたり、なんかやけにピリついてなかったか? さっきすれ違った連中も、やたらと顔が険しかったからよ」
バドさんの言葉に、私は思わずシスターさんと顔を見合わせた。やっぱり、この街の異変は誰の目にも明らかになりつつあるらしい。
「あ、やっぱりそうですか?」
「まあな、大人の事情ってやつだろ。お前らは気にするな!」
バドさんは気にする様子もなく笑うと、手際よく手綱をさばいた。その明るさに救われるように、カインも緊張を少し解いて馬車に乗り込む。最後にシスターさんも乗り込んだ。
「それじゃあ行くぜ! しっかり捕まってろよー!」
バドさんの威勢のいい掛け声とともに、馬車がガタゴトと音を立てて動き出す。
窓の外を流れる街並みを眺めていた。
(馬車なのに『捕まってろよー!』ってどういう事)
私はツッコミを入れながらも、おかしくて思わず小さく吹き出した。
(シスターさんの言う通り、今は目の前の依頼を頑張るか)
馬車に乗ってしばらく経つと、バドさんが御者台から声をかけた。
「うっし!着いたぜ」
「「はーい!」」
いつも通りに防火水槽の前に馬車が停まり、馬車を降りた。
「ふーー馬車もなんか、少し疲れるんだよね」
「あっそれわかる」
御者台からひょいと降りてきたバドさんが、私たちの様子を見て豪快に笑った。
「ははは! お前ら、たかが馬車ごときでそんなに疲れてちゃ先が思いやられるぜ。でもまあ、ここからが本番だ。しっかり頼むぞ!」
「はい!」
私は元気よく返事をすると、水槽の前まで歩いた。
「よし」
私はいつも通りに詠唱を唱えて、水槽の中に水を出した。
「ふーー」
すると近くの小道からコツコツと革靴の音が響いてきた。
「おや、もうこんなに溜まったのか」
声をかけてきたのは、今回の依頼主である街の防火水槽の管理人である男性だった。小柄だがキリッとした目をした人だ。
「こんにちは!」
私が挨拶を返すと、管理人の男性は穏やかな笑顔を浮かべて、私たちの手元をのぞき込んだ。
「ご苦労様。いやあ、助かったよ。これで今日の防火水槽の依頼は達成だ、ありがとう!」
「え?」
私は思わず動きを止めてしまった。
(まだ水槽は満タンじゃないけど、いいのかな?)
「あの、依頼は達成って、どういうことですか?」
疑問に思った私がそう尋ねた。
「あーーそれはね、溢水が起こったり、水槽に負担がかかりすぎない様にするためだ」
「そうだったんですね!分かりました。それじゃあ、これ以上水は足さないほうがいいんですね?」
「ああ。きみたちの作業はこれで十分に規定クリアだから、終わりにしていいからね」
男性はそう言うと、持っていた書類にパパッとサインを書き込み、私たちの依頼完了の証しを手渡してくれた。
「お疲れ様。気をつけて帰るんだよ」
「ありがとうございました!」
私たちは男性に頭を下げると、私たちは馬車のほうへと戻っていった。
(カインのときは、依頼主の人が直接組合へ行って完了の報告をしてくれたっけ。でも今回は、依頼主が持っているこの確認書類にサインを入れてもらって、それを私たちが組合に提出する形か〜〜)




