27、進む!
私たちは来た道を戻り始めた。
(よし、ちゃんと作れる方法を聞いておかないとな)
ローラーに穴を開けるのはかなり大変そう、実際にどうやって開けるのかも分からない。
前世なら電動ドリルを使えば一瞬かもしれないけど、この世界にそんな便利な道具があるとは思えない。
「おじさん、ただいま!」
先ほどの木工職人さんの店に戻ると、おじさんは作業台の前で木材を削っていた。
「おう、嬢ちゃん。もう戻ってきたのか?」
「はい!ちょっと聞きたいことがあって」
おじさんは苦笑いをしながら、膝に乗っている木くずを払い落として聞いてきた。
「なんだ?」
「このローラーに穴を開けたいんですけど、どうやって開ければいいですか?」
私は店先に置かれているローラーを指差した。
おじさんはローラーを手に取ると、端の部分を眺める。
「穴か。何のために開けるんだ?」
「鉄の棒を入れたいんです」
「鉄の棒...」
おじさんは少し考えると、作業台の近くに置かれていた道具を手に取った。
「これを使う」
「これは?」
「錐だ」
おじさんが見せてくれたのは、先端が尖った細い金属製の道具だった。
(この錐ってやつ見たことないけど、アイスピックに形が似てる)
「木に押し当てて、こうやって回す」
おじさんは木材に錐の先端を当て、手で柄を回した。
ギリギリと小さな音を立てながら、尖った先端が少しずつ木の中へ入っていく。
「こうやって少しずつ穴を深くしていくんだ」
「これで穴が開くんですか?」
「細い穴ならな」
おじさんは錐を抜き、できた穴を見せてくれた。
「もっと大きな穴を開けたいなら、別の道具を使う」
「別の道具?」
「ああ」
おじさんはそう言うと、棚から別の道具を取り出した。
先端に螺旋状の刃がついている。
「これは木工用の穴あけ道具だ。錐より大きな穴を開けられる」
「へぇ〜〜」
私は道具をじっと見つめた。
(これなら、鉄の棒を通す穴も開けられそう)
「これを使えば、ローラーの真ん中に穴を開けられますか?」
「できる。ただし、真っ直ぐ開けるのは簡単じゃないぞ」
「真っ直ぐ...」
「穴が斜めになれば、棒も斜めになる。そうなりゃローラーがうまく回らん」
「なるほど...」
私はローラーを見つめた。
(確かに。穴を適当に開けてしまえば、鉄の棒が斜めになってしまうかもしれない。そうなると、ローラーも綺麗には回らない...のか、思ったより難しいかも...)
「おじさんなら、真っ直ぐ穴を開けられますか?」
「まあ、これくらいならな」
おじさんは当然のように答えた。
(やってくれるなら、おじさんにお願いするしかないよね。ていうか、真っ直ぐ穴を開ける自信があるなんて凄すぎない? きっと木工一筋でやってきた職人さんなんだろうな)
「あぁそれと、鉄の棒を持ってきてくれ。それに合わせて穴を開けた方がいい。穴が大きすぎると棒がぐらつくからな」
「じゃあ、明日鉄の棒を持ってきたときに、一緒に穴も開けてもらえますか?」
「構わんぞ」
「本当ですか!」
私は思わず笑顔になった。
「じゃあ、お願いします!」
「おう」
おじさんはローラーを元の場所へ戻した。
「ところで、ローラーの両端に鉄の棒を通すんだったな?」
「はい」
「だったら、もう一つ考えた方がいい」
「何ですか?」
「鉄の棒をローラーにどうやって固定する?鉄の棒をローラーの穴にただ差し込んだだけだと、鉄の棒だけ回って、ローラーが回らない可能性がある」
「.......」
私は頭が真っ白になった。
「えっと...穴に入れるだけじゃダメですか?」
「それじゃ回しているうちに抜けるかもしれん」
「あっ....」
確かにその通りだ。
ローラーを回すための棒なのだから、棒とローラーが一緒に回らなければならない。
穴にただ差し込んだだけでは、棒だけが空回りする可能性がある。
(完全に見落としてた...)
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「方法はいくつかある」
おじさんはローラーの端を指で叩いた。
「棒をかなりきつく差し込む方法もあるし、別の部品を使って固定する方法もある」
「別の部品...」
「嬢ちゃんが作りたいものなら、棒を抜けにくくするだけじゃなく、回す力がしっかり伝わるようにした方がいいだろう」
「なるほど...」
私は考え込んだ。
ただ棒を差し込めばいいと思っていた。
でも、実際に作るとなると、細かいところまで考えなければならない。
(結構本格的になってきたな...)
「じゃあ、鉄の棒を買ってから、もう一度相談してもいいですか?」
「あぁ、その方がいい。棒を見ながら考えた方が早いからな」
「分かりました!」
これで、明日やることが決まった。
まず鉄の棒を買う。
それをここへ持ってきて、ローラーに合う穴を開けてもらう。
そして、棒とローラーをどうやって固定するかを考える。
「ありがとうございました!」
「おう。明日、忘れずに持ってこいよ」
「はい!」
私たちは店から離れた。
「次は何を探すの?」
カインが尋ねてくる。
「ローラーを支える枠に使う板かな」
「まだ買うものがあるんだね」
「うん。でも、だいぶ形は見えてきたよ」
私は両手を使って、頭の中にある洗濯機の形を表してみる。
二本のローラーを上下に並べる。
その両端から鉄の棒を伸ばす。
そして、その棒を金具で支える。
あとはローラーを回すためのハンドル。
「......うん」
頭の中で少しずつ形が繋がっていく。
まだ完成には遠い。
それでも、最初は何もなかったところから、少しずつ作るものの姿が見えてきていた。
「アイさんは凄いですね。最初は本当にどうなることかと思ったけれど、アイさんの頭の中にはもうしっかりと完成形が見えていますね。本当に大したものです」
「えっ、そんな事ないですよ」
自分から生み出したわけじゃなくて、ただ前世の世界にあった知識をそのまま思い出しているだけ。そう思うと、なんだかズルをしているみたいで少し心が少し痛む。
けれど、カインは身を乗り出すようにして、目を輝かせながら頷いた。
「そんなことあるよ! 私なんて言われたものを探すので精一杯なのに、アイはゼロから仕組みを考えてるんだもん。本当に尊敬しちゃうな」
「ええ、カインの言う通りです。こうして形にしていく発想力も、諦めずに一つひとつ課題をクリアしていく行動力も、アイさんの素晴らしい才能ですよ」
(なんかとんでもない天才みたいになっちゃってる..カイン、シスターさん、私はゼロから仕組みを考えているわけではないよ...前世の知識を使ってるだけなんだよね。でもそんな事を気にしていたら、この先何にも作れなくなるから、気にしないでおくけど、天才扱いはちょっといやだな)
「あはは、そんなに凄くないってば」
私は思わず苦笑いを浮かべながら、頭の後ろをかいた。二人からの視線がとても恥ずかしく感じてしまう。
「それに、実際に形にするにはおじさんたちの技術や、こうして手伝ってくれる二人のおかげなんだから。私一人じゃ何も作れないよ」
「またまた~、アイは照れ屋さんだなぁ! でも、そういう謙虚なところもすごいと思う!」
カインは悪戯っぽく笑うと、シスターさんも「ふふっ」と優しく微笑んでいる。
どうやら二人の中で、私の評価は「控えめな天才」ということで固まってしまったらしい。これ以上否定しても意味がなさそうだし、何より二人の温かい気持ちは本当なんだから、素直に受け取っておくことにしよう。
(よし、天才扱いに恥じないように......じゃなくて、みんなで便利な洗濯機を完成させるために、どんどん進むぞ!)




