26、高すぎぃーー!!
私たちは、一度組合の前で馬車を降りた後、市場に向かった。
「市場はこっちですね」
シスターさんが市場までの道を先導してくれた。
「市場では、私と手を繋いでください。人が多いので、迷子になったりすると危険ですから」
「はい!!」
(お母さんたちと来たときも人が多かったし、この市場は普段から混雑してるのかな)
シスターさんについて行くと、だんだん周囲の人が多くなってきた。パンの匂いや、干し肉の匂いが強くなってきた。大通りに出ると、露店が立ち並びたくさんの人で賑わっていた。
「うわーやっぱり凄い人の数だね」
「うん、ちょっとだけ苦手かも」
カインは弱気な声で言った。
「カインは人が多いのとか苦手なの?」
「うん。でも少しだけだし、アイがいるから大丈夫」
(カインは人が多い所は苦手なんだ。皆に優しいし、初めて合った人にも元気よく接するから、ちょっと以外かも)
「ふふ、手を繋いで歩きますから安心してください」
シスターさんが優しく微笑みながら言った。
「はい!」
シスターさんの左手は私が握って、右手はカインが握って、市場に入った。
「木材はどこら辺にあるんですか?」
私がシスターさんに質問をした。
「木材はもう少し奥を歩いたらありますよ。木のローラーは木工職人が販売してると思いますし、もう少し歩いてみましょう」
「はーい」
シスターさんの手を握りながら歩いていると、食べ物を扱う店が減り、ろうそくや薪といった日用品を売る露店が目立つようになってきた。美味しそうな匂いはすっかり薄くなり、代わりに乾燥した木や油、金属の少しツンとした匂いが鼻をくすぐる。
「あ! シスターさん、あっちに木の板がいっぱい置いてある!」
私が指さした先には、様々な太さや長さの木材が乱雑に積み上げられた大きな露店があった。
看板には、ノコギリとハンマーがクロスした絵が描かれている。
「ありましたね。あそこが木工職人さんのお店でしょう。行ってみましょうか」
「うん!」
私は繋いだシスターさんの手を少し強めに握り返し、パッと表情を明るくした。
店に近づくと、立派な髭をたくさん蓄えた体格のいいおじさんが、丸太にノコギリを入れて作業をしている最中だった。
「いらっしゃい。おや、可愛らしい客人たちだな。薪かい? それとも棚の板でも探してるのか?」
おじさんが作業の手を止め、汗を拭いながら気さくに声をかけてくれた。
「こんにちは! えっとね、丸くてまっすぐな木の棒を探しています!」
私が身を乗り出して言うと、店主のおじさんは不思議そうに首をかしげた。
「丸くてまっすぐな棒? 棒ならいくつかあるが、何に使うんだい?」
「あのー、木のローラーが欲しいんです! 麺棒くらいに太くて、同じ大きさが二本の木の棒です!」
私が手振り身振りを交えて説明すると、おじさんはますます困惑したようにシスターさんへ視線を向けた。
「この嬢ちゃんは、一体なんのためにそんな物が欲しいんだ?」
シスターさんが困り顔でクスッと微笑み、おじさんに事情を話し始めた。
店主のおじさんは、立派な髭をわさわさと揺らしながら、シスターさんの説明に熱心に耳を傾けていた。
「へぇー洗濯を楽にするための道具、ねぇ。そいつは面白そうだ」
おじさんは大きな手で顎の髭をさすり、店内奥の木材の山へ歩いていく。カインと私は期待を込めて、その後ろ姿をじっと見つめた。
「手頃な太さの丸棒なら......これなんかどうだ?」
そう言って差し出されたのは、表面が綺麗に削られた真っ直ぐな2本の木棒だった。太さも長さも揃っていて、まさに思い描いていた通りの形だ。
「わあ、すごい! ぴったりだよカイン!」
「うん、これならうまく回転しそうだね!」
思わず声を弾ませる私とカインを見て、おじさんは嬉しそうに笑った。
「そいつはよかった。よし、子供たちの挑戦に免じて安くしといてやるよ!」
「銅貨8枚だ!」
「「8枚!?」」
おじさんがドヤ顔で提示した金額に、私とカインの声が完璧に重なった。
「安くしてくれてそのお値段?!」
思わず提示された金額の大きさに目が飛び出そうになる。
「おじさん、銅貨8枚なんて高すぎませんか?」
「まぁーな。だけど安くしなかったら銅貨10枚、つまり銀貨1枚はもらう代物なんだぜ?この形にするには、かなり苦労したからな」
技術レベルがまだ高くないこの世界では、木材を綺麗で均一な円柱状に加工するのは、職人の高度な手作業と時間が必要なのだ。おじさんの提示したお値段も、決してぼったくりというわけではないらしい。
理由を聞いて納得はしたものの、買えないものは買えない。私はう〜んと頭を悩ませた。
(まぁそっか、こんな綺麗にするのにはかなり大変そうだしね)
「ねえアイ、耳貸して」
カインは私にそう言って、私に近づいてきた。
「私の金貨使う?」
「ええっ、き?!...」
思わず大きな声を出しそうになって、大慌てで自分の手で口を塞いだ。カインは焦ったように人差し指を口に当てている。
「カイン、流石に使えないよ。それはカインが稼いだものだし」
「私もお金を出すよ。洗濯機作りを手伝いたいし、完成したら使ってみたいからね。みんなで一緒に作ろう?」
「でも、さすがに金貨は...」
「別に金貨を使っても、お釣りはちゃんと貰えるんだし。私がこれを買って、アイが他に必要な物を買えば、だいたい同じくらいになると思うよ。一緒に作るんだし、一緒にお金を出せばいいでしょ」
(う〜〜ん、まぁそうだけど..残りの材料費を私が払えば、二人で半分ずつ出し合ったことにはなるのかもだし。それに、カインのまっすぐな目を見ていると、本当に一緒にこの洗濯機を作りたいんだっていう気持伝わってくるんだよね。実質年下の子供にお金を出してもらうのは少し気がひけるけど、ここはお願いしようかな...)
「分かった。カインにお願いしようかな」
私が折れると、カインはパッと表情を輝かせた。




