23.5、商人の"噂"。中世とは
朝になれば市場が開き、パン屋から焼きたての匂いがする。荷馬車が石畳の上を進み、街の子供たちは集団で道の端を走っている。教会の鐘が朝の時刻を伝える。誰もが昨日と同じ一日が来ると信じていた。
いつもと変わらない一日。
少なくとも、昨日の夜まではそうだった。
活気あふれる市場の隅で、二人の男が手持ち無沙汰に立ち話を出していた。
「なあ知ってるか? 最近、七歳くらいのガキが二人も、魔法使い見習いになったらしいぜ」
男の一人ケルトが、隣にいるダイルに話しかける。
「なんだそりゃ。洗礼式を終えたばかりのガキじゃねーか。世も末だな」
ダイルが呆れたように鼻で笑った、その時だった。
「おーい! お前たち!」
男が一人、額に汗を浮かべ、今にも転びそうな勢いで焦りながら走ってきた。
「どうしたんだよ、そんなに慌てて」
息を切らす男にケルトが声をかけると、走ってきた男は周囲を鋭い目つきで見回し、二人に顔を近づけた。
「いいか、でかい声で話すんじゃねえぞ。耳を澄ませてちゃんと聞け」
「おいおい、なんだよ急に。そんな真剣な顔しちゃってさ」
「いいから、黙って聞け」
男は声を近くにいなと聞こえない大きさで、話しはじめた。
「隣国との国境沿いに、かなりの数の兵士が集められてるらしい」
「本当か?」
ケルトの問いに、男は大きく頷いた。
「ああ。昨日、国境付近から戻ってきた商人がそう言ってたんだ。街道の途中で、王国軍の一団とすれ違ったってな」
「戦争になるのか?」
ダイルが呟くと、三人の間に短い沈黙が流れた。楽しげな市場が、まるで遠い世界の出来事のように遠のいていく。
「さあな。だが、あの隣国が相手なら、本当に戦争になるかもしれんな」
走ってきた男は冷や汗を拭い、肩をすくめて笑った。
「まあ、いくらなんでも王都から離れたこの街まで、すぐに影響が出るとは思えんがな」
「だといいんだけどよ。隣国の奴らは本当に悪魔にでもなっちまったのかね。どれだけ俺たちを苦しめたら気が済むんだか」
「さあな。俺たちみたいな平民に、偉い奴らの考えることなんて分かるわけないだろ」
「大変な時代に生まれちまったな...」
男たちはそう言い合い、暗い影の中で、何も知らずに行き交う街の人々をただじっと見つめていた。




