23、生活改善!
カインは受け取った金貨を、今度は誰にも見えないように、大事そうにポケットの奥深かくに仕舞った。
金貨を仕舞った後、私たちは馬車が停まっているであろう広場へとシスターについて行き向かった。
「馬車を停めるとしたら、ここら辺だと思うのですが...あっありましたね」
シスターが指をさした方を見ると、行きに乗ってきた馬車が広場の真ん中で停まっていた。
バドさんは私達に気づいて大きく手を振っていた。
「おーーい! 依頼は終わったか?」
「はい! 無事に終わりました!」
そのまま三人で馬車へと乗り込み、長椅子に腰掛ける。御者さんの掛け声とともに馬車が動き出すと、窓の外の景色がゆっくりと夕暮れ色に染まり始めていた。
「なんか、私達って魔法の事を全然知らないよね」
私がつぶやくと、隣に座っていたカインが頷いた。
「うん、魔法陣をハンスさんから教えてもらってなかったら、ただの模様だと思ってたし」
「あらあら、でも二人とも立派でしたよ」
シスターが膝の上で手を重ね、柔らかい笑みを浮かべた。
「魔法の知識はこれから少しずつ学んでいけば良いのですよ。大切なのは、誰かを助けたいと思う心と、今日踏み出した小さな一歩です」
「シスターさん...」
(シスターさんみたいな大人が近くにいるだけで、不思議と前を向ける気がするんだよね)
カインが胸の前で拳をぎゅっと握りしめていた。
ガタゴトと心地よい揺れが続き、馬車はやがて組合の前に着いた。
「着いたぞー!」
バドさんの声とともに馬車が静かに止まった。
「今日は、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「おう!」
バドさんはそのままどこかに馬車と共に行った。
「アイーどうする?このまま教会に戻る?」
「そうだね、組合に行ってもやることないし、教会に戻って私のお父さんを待とうかな」
「では、教会に戻りましょうか」
「「はい!」」
私たちは、すっかり日が暮れた街を歩き、昨日と同じようにまずは教会へと戻った。
教会に戻ると、それから間もなくして、お父さんが迎えにやってきた。
「 シスターさん! 今日は本当にありがとうございました!」
「ありがとうごさいました!」
「はい、ではまた明日を楽しみにしています」
お父さんと三人並んで歩き、シスターさんが見えなくなるまで手を振った。カインの足取りは朝よりも軽かった。
「アイ!また明日ね!」
「うん!」
(今日は家に帰って、魔法で試したい事があるんだよね!もしかしたら、今日はお風呂に入れるかもしれない!!転生してから、何年ぶりだろうか...この世界に生まれ変わってから、1回もお風呂に入った事がない気がする...風呂キャンセル7年目、ついに記録が更新されなくなる!)
私は、カインとばいばいした後にお父さんと一緒に家の中に入って、机の上にあるパンを活きよい良くかじった。
「お母さん!昨日話してた、私用の大きな桶ある?」
「一応買ってきたけど、何に使うの?」
「ふふん、お風呂だよ!」
私は自身満々にお母さんに胸を張って言った。
「お風呂ね〜〜布で体を拭くだけでは、嫌なの?」
「嫌なの〜私はできれば毎日お風呂に入りたいくらいだもん」
お母さんはクスッと笑うと、私の頭をポンポンと叩いた。
「毎日お風呂に入るなんて、王様か大金持ちかしら」
そう言うとお母さんは大きな桶を隣の部屋から取ってきた。
「はい、これ」
「ありがとう!お母さん!」
「アイがお風呂入ってる所をお母さん見てていいかしら?」
(恥ずかしいけど、お母さんだしいっか)
「うん、いいよ」
「じゃあここに水を出せるかしら?」
「え?」
(ここで...ソラは寝室にいるけどお父さんがここにいるじゃん)
「ここで、入るの?」
「ん?逆にアイはどこで入ろうと思ってたの?」
お母さんは優しく私に聞いてきた。
(考えてなかった...外だと他の人に見られるかもしれなし、家はそこまで大きくないから、寝室かリビングしかないんだ)
「えっと寝室か、せめて台所の隅っことか?」
自信なさげに答えると、お母さんはクスッと楽しそうに笑った。
「寝室で水なんて使ったらベッドが湿気ちゃうわよ。お父さん、悪いけどアイが魔法でお風呂に入りたいらしいから、寝室に移動してくれる?恥ずかしいみたい」
「分かったよ」
お父さんは優しく笑うと、寝室へ向かってくれた。
リビングに残されたのは、私とお母さん、そして部屋の隅に置かれた大きな木桶。私がすっぽり入れるサイズだ。
(よし、お父さんも寝室に行ったし、桶の準備もバッチリ魔法でお湯を出すことばかり考えていて場所のことはすっかり頭から抜けていたけれど、お母さんのおかげで何とか整った!)
「それじゃあ、いくよ!」
木桶の上に手をかざし、頭の中で温度と水の量を強くイメージする。魔力をじわじわと手に集めていくと、手のひらから勢いよく、湯気を立てた温かいお湯が流れ出した。
ドババババ!
「まあ! 本当にお湯が出てくるなんて!」
お母さんが目を丸くして歓声をあげる。桶の八分目あたりまでお湯が溜まったところで魔法を止めると、部屋の中に心地よい湯気がふんわりと広がった。
服を脱ぎ、そっと足をお湯に浸す。
「あ、あったかい!」
じわっと足先から温もりが広がり、そのまま肩まで木桶に沈み込んだ。
「はぁぁぁぁ生き返るっ!」
思わず口から漏れたのは、魂からの歓喜の声だった。
体を温かいお湯が包み込んでいく感覚。皮膚に固着していた目に見えない汚れや疲れが、じわじわと解けて流れていくような快感。布で拭くだけでは絶対に味わえない、全身が温もりに満たされるこの感覚。前世では当たり前だった「お風呂」のありがたみが、全身にしみわたっていく。
「ふふ、そんなに気持ちいいの? アイ、溶けちゃいそうな顔をしてるわよ」
お母さんが笑いながら、布をぬるま湯に浸して私の背中を優しく流してくれる。
(7年ぶりの湯船! 風呂キャンセル界隈、卒業!!)
ゆらゆら揺れる湯船の中で、私は天にも昇るような幸福感にどっぷりと浸っていた。
(混合属性で本当によかった! 水蒸気が出せるなら温かいお湯もいけるはずって試してみたら、できたし、やっぱり魔法ってイメージの世界なんだなーー)




