21、陶芸職人は怖い人?
「我が魔力よ、清き水に姿を変えよ」
空中からバシャバシャと水が流れ出し、底に残っていた僅かな水と混ざり合いながら音を立てた。大きな防火水槽は四分の一程度まで溜まった。
「今日はこれが限界だね」
(後3日も同じ事をすれば、溜まるかな?単純だけど少し面倒だな)
「では、次はカインさんの依頼場所に向かいますか?」
「そうですね、今日はもう何もできないので」
私とシスターが話していたら、近くにいたバドさんが話しかけてきた。
「おいおい、お嬢ちゃんたち。もしかして、このまま次の依頼に行くんじゃねーよな」
「「えっ」」
バドさんの思いがけない一言に、私とカインは固まった。
「組合のルールを忘れたのか?馬車の利用は『依頼ひとつにつき一回』だ。次の依頼へ行くなら、一度組合に戻って改めて申請をし直してもらわねぇとな」
「そうなんですか、すいません。知らなくて」
(そんな説明されてないよ...まあ少し考えれば分かることか)
「ん?説明されてなかったのか、それなら仕方がねーな。それじゃあ組合に戻るでいいな?」
「あっはい!」
「よし!じゃあ、早く乗れ」
バドさんに少し急かされるように、馬車に乗った。
「完全に勘違いしてたね。そのまま別の場所まで運んでもらえると思ってた」
私が苦笑いしながら言うと、カインも頷いた。
「次の依頼までそのまま乗っていけるって私も思い込んじゃってたよ。バドさんが優しくてよかったね。怒られちゃうかと思っちゃった」
「そうですね。事務的な手続きはしっかり決まっているみたいですから、次からは気をつけましょう」
シスターの一言で、車内の空気が和らぎ、みんなの肩の力がすっと抜けた。
カインは安心したようにニコリと笑うと、楽しそうに窓の外の景色へ目を向けた。ガラゴトと心地よい揺れに身を任せながら、組合に向かって行った。組合に着くなり早速、馬車の申請をした。
(簡単に申請が通るから、申請と言うより報告みたいな感じだよね)
「アイー!もう外に馬車があるみたい」
「早いね」
「では、行きましょうか」
組合の外に出ると、バドさんとさっき乗っていた馬車が目の前にあった。
「よし、申請が終わったようだな」
「バドさん、申請終わりました。」
カインが元気よく駆け寄ると、バドさんは御者台の上でニヤリと笑った。
「おう、早かったな。それじゃ、今度こそ次の目的地へ出発だ。行き先門近くにある家だったな?」
「はい!よろしくお願いします」
私たちは再び馬車へと乗り込んだ。先ほどと同じベンチに腰を下ろす。
(なんで、バドさんは次の依頼場所を知っているんだろう。聞いてみようかな)
「あのーバドさん」
私が声をかけるとバドさんは御者台から返事をした。
「なんだー?」
「なんで、次の依頼場所が分かったんですか?」
「あっそれ、私も疑問に思ってた」
(カインも思ってたんだ)
「それはな、俺らが魔法使い組合からあるペンダントを貰っているからなんだ」
(ペンダント?)
バドさんは続けて言った。
「そのペンダントに、お前さんたちが組合で申請した内容が魔導具を通じて伝わるようになってんだよ。行き先も名前も、パッと浮かび上がってくる仕組みさ」
「へえぇーー! ペンダントが!凄いですね!」
「だろ、俺も最初は驚いたさ、組合も伊達にでかい顔してねぇってわけよ。それより、着いたぞ! ここが依頼場所だ」
バドさんが手綱を引くと、馬車はゆっくりと足を止めた。
馬車を降りると、大きな家の前に素焼きの鉢や壺がずらりと並べられていた。
「「うわぁ……たくさん並んでるね」
カインがぽつりと呟き、並べられた作品を珍しそうに見つめる。その表情には、どこか緊張している様子だ。
「バドさん、送ってくれてありがとうございました!」
「おう、気をつけてな! 職人のおっさんは頑固だから、粗相すんじゃねぇぞ。俺はこの近に馬車を停めてくるからな」
バドさんはニッと笑うと、再び馬車を走らせて去っていった。
(馬車を停める場所とかあるのかな?駐車場みたいな?多分少し開けてるとこに停めて来るってことだよね)
静かになった敷地内に、窯から漂うほんのり温かい熱気と、しっとりとした土の匂いが立ち込めている。
「ここが、陶芸職人のハンスさんの家だね」
カインは深呼吸をひとつして、不安そうに胸の前で手をぎゅっと握りしめた。
「アイ、ハンスさんはちょっと気難しい人らしくて....うまく粘り気のある土を出せるかな」
「大丈夫だよ。職人さんの希望をちゃんと聞きながら調整したら大丈夫だよ。一緒に行こう」
私が声をかけると、カインは少し安心したように小さくうなずいた。
「ふふ、二人とも落ち着いて向かいましょうね」
後ろで見守っていたシスターも優しく微笑み、私たちの背中をそっと後押ししてくれる。
私たちは意を決して、ずらりと壺が並ぶ庭を抜け、大きな家の重厚な木枠の扉へと歩みを進めた。
カインが扉の前に立ち、ノックをした。
「コンコン」
しばらくしても、返事が帰ってこない
「あれ?いないのかな」
「作業中とかで聞こえてないんじゃない?」
私がそう言うと、カインは納得したようで、今度は少し強めに扉を叩いた。
「コンコン!」
「すみませーん! 組合からきた魔法使いです!」
控えめながらも通る声でカインが呼びかけると、奥の方から「ドタバタ」と重い足音が近づいてきた。
「あぁ? なんじゃ、手が離せないときに...」
バタンと扉が開くと、そこにはエプロン姿で手に粘土をつけた、頑固そうな職人風のおじさんが立っていた。眉間にシワを寄せ、気難しい表情で私たちを見下ろしている。
「「ひっ!」」
私たちはそっと身を引く。シスターさんは動じていなかった。
「なんだお前さんたちは……組合の奴らか? 一度にゾロゾロ来られても困るんだが。俺が頼んだのは、粘り気のある土を出せる魔法使いだぞ」
おじさん——ハンスさんは、険しい目つきで私たちを順番に見回した。




