ゼノンとの関係
(アメリアside)
半年が過ぎた。
アレクシオ王子とは、あの日から一度も会っていない。
王子の呪いがどうなっているのかずっと気になっていたが、確かめることもできずにいる。
ただ、今のところ王子が亡くなったという話は聞かないので、呪いによる影響はまだ出ていないようだった。
それと、こんな噂が流れてきている。
聖女セレナが死亡したらしいと……。
しかも、瘴気に侵されて死んだというのだ……。
けれどこの噂も、本当かどうかは分からない……。
一方、今の私は、グランデ公爵家に戻り、至って平穏無事な人生を送っている。
平穏無事と言っても、一つ困ったことがある。
父がやたらと私に見合い話を持ってくるのだ。
王妃への毒混入の疑いも完全に晴れ、結界を修復した大聖女としてもてはやされている私のもとには、恐ろしいくらいに好条件な男たちとの見合い話が、次々と舞い込んでくるのだった。
けれど私は、そんな見合い話を全てお断りしている。
なぜなら……。
※ ※ ※
夕刻の空には、薄っすらと月の姿が浮かびはじめていた。
そんな中、私はある男性に会うために、一人で町を歩いていた。
しばらく歩くと、その男性の姿が目に映った。
彼も、私を見つけると満面の笑みを浮かべ手を振ってきた。
「お待たせ、ゼノン」
「待ってなんかいませんよ。僕も今来たところですから」
そう言いながらも、結構待ってくれていたような気がする。
ゼノンは、決して女性を待たせることなどしない、素敵な男性なのだから……。
公爵家執事の息子であるゼノンは、無事に魔法学校を卒業することができた。
しかも首席で卒業したため、就職先もエリートが集う魔法省に内定している。
今日はそんなゼノンに誘われて、夕食を一緒にする予定なのだが……。
予約したレストランの名前を聞いて驚いた。
この町一番の高級レストランだったからだ。
なんとなく胸騒ぎがしてくる。
ゼノンが以前に言ってくれた言葉は、今でも忘れたことなどない。
彼は私にこう言った……。
『魔法学校卒業して、アメリア様を守れる男になったときには……、僕との結婚を考えていただけますか?』
そして今、ゼノンは魔法学校を卒業して、就職も決まった。
ということは……。
店に入ると、周囲の視線が一斉に私へと向けられた。
「あれ、アメリア様じゃない?」
「えっ? 大聖女の?」
「そうよ。間違いないわ」
こうして注目を浴びるのはよくある事なので、今ではもうすっかり慣れてしまっている。
「アメリア様の隣にいる男性は誰?」
「恋人かしら……」
「カッコいい人だわ……。アメリア様にピッタリよ」
給仕の引いてくれた椅子に私が座ると、ゼノンも向かいの席に腰を掛けた。
「なんだか僕まで有名人になった気分です」
「こうなるのは分かっていたから、変装しようと思ったんだけどね……」
「アリアさんにですか?」
「ええ、今でも時々変装するのよ。そうすると誰も私に気づかないから」
「有名人も大変ですね……」
「私はいいのよ。でも、ゼノンは居心地悪いでしょ?」
「そんなことありません。今の僕は最高に幸せですよ。だってアメリア様とこうして食事ができるのですから」
ゼノンと2人で暮らしていたときは、毎日小さなテーブルで一緒に食事をしていた。
けれど、私がグランデ公爵家に戻ってからは、そんなことも一切なくなってしまった。
こうして2人で食事をするなんて、久しぶりのことだ。
しばらくすると、ワインと共にコース料理が運ばれてきた。
さすがは町一番のレストランだけあって、料理は予想以上に美味しいものばかりだった。
舌のこえている私でも、思わず声を上げたくなるような絶品料理が次々と出てきた。
そして料理を終え、懐かしい話に花を咲かせている時だった。
ゼノンがおもむろに小さな箱を取り出し、私の目の前に置いた。
彼はその箱をテーブルに置くと、こわばった顔でこう言った。
「アメリア様、これを受け取ってください」
出された箱を持ち、その場で開けてみた。
するとそこには、赤い宝石のついた指輪が入っていた。
宝石はルビーだった……。
いつの間にか、レストランにいる客たち全員の視線が、私たちに向けられていた。
そんな中でゼノンは言葉を続けた。
「僕と結婚してください」
どこからか「キャッ」という小さな声が聞こえてきた。
私はその場でしっかりと返事をしようとしたが、こんなに注目をされてしまっている状況なので、どうしてもできなかった。
なので私は、その箱を無言で受け取ってからゼノンにこう伝えた。
「二人きりになった時に、ちゃんとした返事をさせて」
「わかりました」
ゼノンの心臓の音が、こちらにまで伝わってきた。
次回、最終話になります。




