王子とアメリア
人々はあっけに取られながら、私の本当の姿を見つめている。そんな中、セレナは勝ち誇った顔でこう言い放った。
「皆様、見ての通りこの女はアリアではありません。王妃の食事に毒を入れたアメリアなのです」
私は下を向いていたのだが、セレナが私の髪を掴みながらひっぱり上げ、皆に私の顔をさらした。
「アレクシオ王子、この女は王妃を殺そうとしたばかりではなく、王子をも騙していた極悪人です。今この場で処刑してはどうでしょうか」
アレクシオ王子は、じっと私の顔を見つめていた。
「アリアが……、アメリアだったなんて……、そんな……」
王子のこわばった顔を見て、私は確信した。
結局、物語のストーリーは変えられなかったのだと。
最後に私は、何も変えることができず、斬首刑に処せられる運命だった……。
「王子、ちょうど皆様もお集まりのことですし、良い見せしめになりますわ。王妃の命を狙った罪人なら、斬首刑が当然ではないでしょうか」
ミレーヌ聖女に救っていただいた私の命……。
でも、その結果、こんなことになってしまうなんて……。
「さあ処刑台を持ってきて!」
セレナの言葉で王宮職員たちが動こうとした時だった。
「待て」
そう言葉を発したのはアレクシオ王子だった。
「王子、待つ必要などありません、この女をさっさと葬ってしまいましょう」
「黙れセレナ!」
王子のきつい言葉を受けて、セレナは固まってしまった。
「王妃の事件については、まだまだ調べる必要がある」
「……」
「昨日確認したところ、毒を入れた人物はアメリアになりすましていた可能性が高い」
「なりすましですって、そんなわけありません!」
「いや……、毒を入れた犯人は、アメリアの靴ではなく別の真っ赤な靴を履いていたのだ」
セレナの目が泳ぎはじめた。
「しかも仕立て屋を調べると、アメリアのドレスが、2着作られていることも分かった」
確かに昨日、私は王子にしっかりと調べてほしいとお願いした。
でも、たった1日でここまで調べてくれていたなんて……。
「それとセレナ、君からアメリアに対する悪い噂を聞かされていたが、それも真っ赤な嘘だったことも確認できたよ」
セレナは下唇をかみ、眉間にシワをよせている。
人々の注目は、今や私ではなく、セレナへと移っていた。
「だから何? まるで私が犯人とでも言いたいのでしょうか? 証拠はあるのですか? 証拠もないのに犯人扱いしないでもらいたいわ!」
セレナが激昂してそう言ったが、逆に人々はこうつぶやき始めた。
「赤い靴って……、セレナ様しかはかない靴よ……」
「それに、ドレスが2着あったなんて……」
「アメリア様は命をかけて結界を修復してくれたお方。王妃に毒を盛るなんて考えられないわ……」
そんな周囲の声に押されたセレナは、吐き捨てるように言った。
「ふん、このままでは私が犯人に仕立て上げられそうですわ! でしたら私にも考えがあります! 聖女を欲しがる敵対国など山ほどあるのよ! 今にあなたたち全員を後悔させてあげます!」
それだけを述べると、セレナは足早に王宮庭園から去って行った。
セレナの後ろ姿を見ている私に、アレクシオ王子が近づいてきた。
もう私は、アリアではなくなってしまった……。
今まで王子が、何の興味も示してこなかったアメリアに戻ってしまった……。
しかも、事情はどうであれ、私は王子を騙していた……。
そんな私に、王子は優しい言葉をかけてくれるのだろうか?
それとも、何かお咎めを受けてしまうのだろうか。
ずぶ濡れの私は、無理やりメイクを剥ぎ取られ、ボロボロな顔をして地面にへたり込んでいる。
そんな姿の私に、王子は膝をつき、視線の高さが私と同じになるように身体をかがめた。
「アリアさんの本当の年齢を知り、私もやっと謎が解けました」
王子の手が、私の肩に触れた。
「アリア……、いやアメリア……、魔の森で私を救ってくれた少女は、君だったんだね……」
「……」
「今までの数々の非礼を許してほしい。すまなかった」
王子の頭が、地面に付きそうなほどに低くなった。
「アレクシオ王子、どうかお顔を上げてください」
王子は顔を上げると、私の目をじっと見つめてきた。
そんな王子の姿を見ていると、この後何か、私にとってとても嬉しいことが起こる予感がした。
けれど、王子の口からは、こんな言葉が出てきたのだった。
「アメリア、私はこれからもずっと君と一緒にいたい……。でも、残念だ……。君とは 今日でさよならだ」
アレクシオ王子はそう言うと、私の濡れた髪をそっとなでたのだった。
あと3話で完結します。




