もともとはアメリアのことが好きだった
私の無実が証明されれば、この国から逃げて暮らす必要もなくなるのに⋯⋯。
アメリアが、王妃の食事に毒を混ぜた犯人でないと証明できれば……。
私は一縷の望みを託して、王子に事件の事を話してみようと思った。
一歩間違えば、私の正体が判明してしまう危険極まりない行為なのだが、最後の最後、お別れの前にどうしても話したかったのだ。
「アレクシオ王子、アメリア様の事件について、お話しさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「アメリア? 構いませんが……」
「アメリア様は無実だと思います」
「どうしてですか?」
「毒を入れた犯人の履いていた靴の色が違うのです。それにアメリア様のドレスも、同じものが2着作られていたのです」
王子は首を傾げた。
「もし、それが本当なら……」
「本当のことです。もう一度しっかり調べてください」
「……」
「アメリア様は王子のことが大好きだったのですよ。ご存知でしたか?」
「はい……」
「その大好きな王子との婚約話をまとめてくれたのがミランダ王妃です。そんな自分の味方である王妃を殺そうとするなど、どう考えてもおかしな話だと思いませんか?」
「……わかりました。アリアさんがそこまで言うのでしたら、事件についてもう一度調べてみます」
話しはじめると、まだまだ言い足りない気持ちになり、話を続けた。
「どうして王子は、アメリア様が犯人だと決めつけてしまわれたのですか? どうして彼女のことを信じてあげられなかったのですか?」
すると王子はこんなことを話し出した。
「もともと私も、アメリアのことは好きだったのです」
「え?」
アレクシオ王子が私のことを好きだった?
そんな態度、今まで一切見せなかったのに。
「だから私は、王妃からの婚約話を承諾したのです。もし嫌いな相手であれば、王妃がなんと言おうが婚約などしません」
「でしたら、どうして婚約破棄などしたのですか?」
「アメリアと婚約した後、私のもとに多くの情報が入ってきました。そのほとんどが、いやすべてがアメリアについての悪い情報でした」
「……」
「アメリアには裏の顔があり、気に入らない女性にはひどいいじめを繰り返していたようです」
「例えば誰をいじめていたのでしょうか?」
「一番ひどいいじめを受けたのは、聖女セレナです。おかげでセレナは、心に傷を負ってしまいました」
「本当にセレナ様は、いじめを受けていたのでしょうか?」
「はい、聞くに堪えない陰湿ないじめの証言がたくさんあります」
「でしたらその証言も、もう一度お調べになってください」
「証言が嘘だというのですか?」
「はい」
「分かりました。これについても調べてみましょう」
そして王子は、私を見つめながらこんなことを言ってきた。
「……もうあのネックレスは、つけてくれていないのですね」
王家秘宝のネックレスは、レイに渡してしまった……。
もちろんそんなことを言えるはずがない。
それにしても、あのルビーはどこにいってしまったのだろう。
まだ、レイの殺害現場から発見されていないようだ。
もしかすると、犯人が持ち去ったのだろうか……。
私がそう考えている間も、王子はじっと私を見続けている。
もしかして、私がアメリアだと気づいたのでは……。
そう思ったが、どうやら違うようだった。
王子が私に近づき、そっと私の身体に腕を回してきた。
もしかして、また私にキスをするつもりなの……。
抱きしめられた私は、王子の顔を見た。
けれど、結局それ以上のことは何も起きなかった。
王子は何もせず、そっと私の身体を離したのだった。
「会えて嬉しかった。でも、もうこれ以上アリアさんを巻き込むわけにはいかない……」
王子の呪いに関わると、私の命までもが危険にさらされてしまう。
そう思って王子は、私との関係を絶とうとしているのだろう。
だったら、明るくお別れしよう……。
そう思った私は、敢えて笑顔を見せながら軽い調子でこう言った。
「では王子……、またお会いしましょうね」
そう言って私は、急いで部屋から出ることにした。
王子の口から、「さよなら」と言われるのが嫌だったのだ。
なんとかして王子の呪いを解いてあげたい……。
それにしても……。
王子の、先ほどの言葉が頭から離れない。
『もともと私も、アメリアのことは好きだったのです』
だったら、どうしてこんなことになってしまったの……。
死刑を免れるため、好きな人とも一緒になれず、ただ逃げ回るだけの人生だなんて……。
部屋を出ると、不覚にも涙が溢れてきた。
けれど、涙は必死でこらえるしかなかった。
老けメイクを落とすわけにはいかなかったから……。




