アンコロさんだ!
(アメリアside)
ネリ公国に来て1週間が過ぎた。
アレクシア王子はまだ元気にしているのだろうか……。
ゼノンはちゃんと魔法学校に行ってるのだろうか……。
私は今、一時的にミレーヌ聖女の家に居候させてもらっている。
落ち着くまでの間、置いてもらえることになったのだ。
「アメリア、今日はいったい何を作ってくれたの?」
ネリ城から戻ってきたミレーヌが、皿の上にあるものを見て尋ねてきた。
「あんころ餅よ」
「あんころ餅? 変わった名前ね」
「とても美味しいから食べてみて」
さっそくミレーヌがひと口頬張った。
「なにこれ? 中に甘いものが入っている……。おいしい!」
ミレーヌはあんころ餅を絶賛し続けながら食べてくれた。
2人でお腹いっぱいに食べ終えたとき、彼女がこんな話をはじめた。
「今この国ではね、ファン王子の妹のことで話が持ちきりなのよ」
「へえー」
「王子の妹は、呪いで目が見えなかったのだけど、急に見えるようになったの」
「え?」
もしかして……。
「王子の妹の名前は、何と言うの?」
「ロゼよ」
ロゼ……。
あの子、ファン王子の妹だったんだ……。
それにしても良かった。
しっかりと見届けていなかったから心配していたのだけれど、ちゃんと目が見えるようになったんだ。
「治癒魔法使いのマリアーヌが、ロゼを治癒させたらしいわ」
「マリアーヌが?」
「今やマリアーヌの株は急上昇中よ。もう私の居場所はないくらいだわ」
そう言ってミレーヌは笑った。
それにしても、なぜマリアーヌがロゼを治したことになってるのだろうか……。
まあ、ロゼの目が見えるようになったのなら、そんなことはどうでもいいけど……。
私はとにかく、自分の命を守るため、目立たないようにしなければならない身だし……。
「それとアメリア……」
ミレーの聖女は表情を引き締めた。
「明日、私と一緒にネリ城へ行ってくれる? ファン王子が私たちに話したいことあるそうよ」
「王子が?」
「ええ、何やら重要な話らしいわ」
何だろう……、悪い予感しかしない……。
なにしろ私は、『呪いの架け橋』が欲しいなんて言ってしまい、かなり王子の機嫌を損ねてしまったのだから。
※ ※ ※
翌日、ミレーヌと私は、言われるままにネリ城へと赴いた。
広間に通されると、ファン王子とマリアーヌが並んで立っていた。
それに王子の左隣にもう一人女の子が立っていた。ロゼだった。
ロゼはしっかりと目が見えているようで、ちゃんと私に視線を合わせてきた。
けれどロゼは、私がアンコロだとは気づいていないようだ。
あの時、顔を見られる前に部屋を出て行ったので、当然といえば当然なのだが。
「ミレーヌ聖女、エルフィンド王国の結界に小さな穴ができたそうだ」
ファン王子は不機嫌そうな顔をしていた。
「あちらの聖女が魔法の力を弱められてしまっているらしく、ミレーヌに助けを求めてきている」
「私にですか?」
「ああ、小さな結界だ。修復に行ってくれるか?」
「……分かりました」
「それでミレーヌ、お前はそのままエルフィンド王国に留まってくれ」
「留まる?」
「これからもエルフィンド王国では、お前の力が必要なはずだ。当分の間、向こうで暮らすがいい」
「私がネリ公国を離れれば、この国の聖女が不在になってしまいますが……」
「それなら心配はいらない。ネリ公国にはマリアーヌがいる」
「……」
「マリアーヌは、呪いをも解くことができる魔法使いだ。聖女の代わりは充分に務まる」
「……私はもう、この国には必要ないということですね……」
「まあ、はっきり言えばそういうことだ」
ファン王子はそう言い終えると、私に目を向けた。
「それとお前、お前もミレーヌと一緒にエルフィンド王国へ戻れ」
有無を言わせない言い方に、私は何も答えることができなかった。
ふと王子の隣を見ると、マリアーヌが目を細めながら笑っていた。
そんな時、宰相のアブドルが現れ、王子に近づくと一礼した。
「エルフィンド王国から、迎えの者が参りました」
「通せ」
アブドルは一旦下がり、男を一人連れて戻ってきた。
連れてこられた男を見た瞬間、私は氷の中に閉じ込められたかのように体が固まってしまった。
アブドルと一緒にやってきたのは、アレクシオ王子の補佐官、シビルだったからだ。
私はできるだけシビルに目を合わさないように下を向いていたが、そんなことでこの身を隠せるわけがなかった。
シビルはすぐに私に気づいたようで、向こうも唖然としながら私を見つめ始めた。
「アリアさん、ネリ公国にいたのですか?」
「……」
「アレクシオ王子が、どれほど心配されていることか……」
王子が心配してくれているということは、まだ私がアメリアだと気づかれていないということか……。
ほんのわずかだが、ほっとした。
「シビルさん、あなたはこの女と知り合いなのですか?」
マリアーヌが初めて口を開いた。
「はい。アリアさんは我が国の魔法使いです」
「魔法使いですって? この女は魔法が使えないと言っていましたわよ」
「いえ、使えますが……」
「……私たちを欺いていたのね。アリア、どういうことなのか説明してくださるかしら」
「申し訳ございません」
私は何と答えていいのか分からなかった。ただ、これ以上嘘を上塗りしてもどうにもなりそうにない……。
「その……、あまり目立ちたくなかったのです」
「目立ちたくないとは、どういうことなの?」
「えっと、何と言うか……」
私がシドロモドロとしていると、思いもよらない人物が声を上げた。
「この声は! アンコロさんだ!」
目を向けると、そこにはぼう然と私を見つめるロゼの姿があった。




