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アンコロはどこに?

(ファン王子side)


執務室にアブドル宰相が駆け込んできた。


「ファン王子、た、た、大変です」


「どうした?」


「そ、そ、それが」


「落ち着いて話せ」


「いえ、落ち着いてなんていられません。ロゼ様が……」


「ロゼがどうしたんだ?」


「ロゼ様の目が、見えるようになっております」


「な、なんだと! 確かなのか!」


「はい。こちらをご覧ください」


アブドルが示す執務室の入り口に、ロゼが一人で入ってきた。

手にはもう杖を持っておらず、目をしっかりと見開きファン王子に焦点を合わせている。


「お兄様……」


「ロゼ、見えるのか? 本当に見えるのか?」


「ええ。お兄様のお顔、思っていた以上にステキよ」


ファン王子はロゼに駆け寄り、膝を床につけながら抱きしめた。


「どうしてだ? どうして急に見えるようになったんだ?」


「アンコロさんに治してもらったのよ」


「アンコロ?」


「うん、1人で展示室にいたら、アンコロさんが来て、私に魔法をかけてくれたの」


「魔法? 魔法で目が見えるようになったのか?」


「そうよ」


ロゼの呪いを、魔法で解いたというのか……。

この国に、そんなことのできる魔法使いがいたのか?


いや、いない。


今までどれだけ探しても、そんな魔法使いなど、この国どころか他国でも見つけることはできなかった。


では、誰が?


「アンコロというのは、名前か?」


「うん」


「そのアンコロは、今どこにいる?」


「それが分からないの。目が見えるようになった時には、もういなくなっていた」


「顔は見たのか?」


「見ていない。……けど、歳は21歳だと言っていた。分かっているのはそれだけ」


ファン王子は、アブドルに尋ねた。


「アンコロという名の魔法使いが、この国にいるのかどうかすぐに調べてくれ。歳は21歳だ」


「かしこまりました。登録名簿がございますので、すぐにわかると思います」


だが、アブドルが調べた結果、ネリ公国にアンコロという名の魔法使いは存在しなかった。

魔法使いばかりでなく、アンコロという名の国民など1人もいなかった。

他国に関しても可能な限り調べてみたが、そのような名の魔法使いを見つけることはできなかった。


「アブドル、とりあえずはロゼを医務室に連れて行ってくれ。そしてロゼの視力がどのくらい回復しているのか、詳しく調べてくれ」


「かしこまりました」


「それと、マリアーヌをここは呼んでくれるか」


治癒魔法使いの第一人者であるマリアーヌなら、アンコロに心当たりがあるかもしれない……。


しばらく経つと、マリアーヌが姿を見せた。


ファン王子が事情を説明すると、マリアーヌはすぐにこう言った。


「もしかすると、私の魔法が遅れて効果を表したのかもしれません」


「遅れてだと?」


「はい、魔法には速攻型と遅延型がございます。今回の魔法は、新しく習得したものです。まだつかめていませんでしたが、どうやら効果が遅れて出てくることもある魔法だったのです」


「では、アンコロという魔法使いは?」


「呪いを解くことができる魔法使いなら、相当名が知れ渡っているに違いありません。けれどアンコロなど聞いたこともありませんし、私以上に治癒魔法が長けている者など、この国にはおりません」


「確かに」


「ロゼ様は、たまたまその女性と遊んでいただけだと思います。もし本当にアンコロという女性がロゼ様の目を治したのなら、本人から申し出て出てくるはずです。申し出てくる者がいないということは、そんな人物は存在しないということではないのでしょうか」


今日、ロゼはマリアーヌに治癒魔法を施されている。

そして2時間ほど経過すると、目が見えるようになっていた。


普通に考えれば、マリアーヌの魔法が効いたということに違いなかった。


「マリアーヌよくやった。褒美をつかわすぞ」


「ありがとうございます」


「何なりと望みを言うがよい」


「では……」

マリアーヌは一呼吸置いてからこう言った。

「ミレーヌ聖女を、どこが遠くへ追いやっていただけませんか」


「なに? ミレーヌを?」


「はい。私、あの人が苦手なんです」


「そうか……。わかった、考えておくとしよう」


「よろしくお願いいたします」

そう言うと、マリアーヌは目を細めながら微笑んだのだった。

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