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母のお墓でミレーヌと会う

「ミレーヌ聖女、どうしてこんなところに」


「ソフィアのお参りしようと思って」


そう言うとミレーヌは、抱えていた花束を母の墓前に供えた。

立派な花束だった。


お祈りを終えたミレーヌは、改めて私の顔を見てこう言った。


「旅に出るような格好して、あなたこそどうしたの?」


もう、エルフィンド王国から逃げ出さなければならない状況であることを私は説明した。

話を聞き終えたミレーヌは、こんなことを述べてきた。


「きっとソフィアが、私とアメリアを会わせたのね。ソフィアは今も、空の上からそんなことをする人なのよ」


そう言われればそんな気もする。

国から逃げ出そうとしたこの日に、母の墓前でミレーヌ聖女と出会うなんて、偶然にしてはできすぎている。

天国にいる母が仕組んだことに違いない……。


「私と一緒にネリ公国へ行きましょう。それがあなたのお母さん、ソフィアの願いよ」


もう私の気持ちも固まっていた。


「そうします。よろしくお願いします」


私の返事を聞いたミレーヌ聖女は微笑みながら頷き、付け加えるようにこんなことを言った。


「ソフィアのお墓の横、空いているでしょ」


「はい」


「そこは、私が死んだときに入る場所としてとってあるのよ」


「……」


ミレーヌ聖女からしたら異国の地であるこんな場所にお墓を……。

どうしてなのだろう……。


「さあ行きましょう」


「ご迷惑をおかけします」


「そんなこと気にしないで」


ミレーヌの言葉に押されながら、私はそのまま馬車に乗り込み、ネリ公国へと向かったのだった。


  ※ ※ ※


ネリ公国は、もともとはエルフィンド王国の公爵だったロンスター公が統治している小国である。

自然豊かな国として名高く、結界の力が強い国としても知られている。

あと、公国の王子はかなりの変わり者で性格が悪いことでも有名だった。


客車の中、並んで座るミレーヌ聖女に、思い切って母のことを聞いてみることにした。


以前、ミレーヌ聖女は母がどうして死んだのか知らないと言っていた。

けれど、その時の彼女の顔を見ると、知らないというよりも伝えられないといった感じだった。

そしてミレーヌは、母に借りがあるとも言っていた。


「ミレーヌ聖女、どうして母は亡くなったのでしょうか?」

私は、ずっと聞きたかった質問をミレーヌにした。


しばらく黙り込んでいたミレーヌだったが、やがてこんなことを話し出した。


「以前のネリ公国は、とても結界が脆弱で、常に瘴気が降り注いでくるような危険な国だったの。当時の私は、聖女として日々結界の修復に追われていたのよ」


私はじっと、ミレーヌ聖女の話を聞いていた。


「そんな時、ついにビッグラプチャーと呼ばれる巨大な結界の亀裂が出現してしまったの。その亀裂は、過去に何人もの聖女が命を落としているとても危険なもの……。


『偉大な聖女、特に大聖女と呼ばれる人たちは、皆不幸な死に方をする』


大聖女は皆、ビッグラプチャーの修復で命を落としてしまうために、こんな言葉があるのよ……。


当然人々は、聖女である私に亀裂の修復を懇願してきた。

このままでは、私を含めネリ公国の人々は瘴気で全滅してしまう。

そのため、私としても修復を断ることなどできない状況だった。


そんな時、エルフィンド王国からソフィアがやってきてくれたの。私を助けるために……。


『一緒にやりましょう』と言ってくれたわ。


一刻の猶予も許されなかった私たちは、すぐさま2人で巨大な亀裂の修復を始めた。あらぬ限りの聖なる力を注ぎ込んで……。


その結果、無事にビッグラプチャーの修復には成功したのだけれども、あまりの魔力の消耗で息も絶え絶えになった私たちは、その場に倒れこみ、起き上がることもできなくなってしまった……。

目の前が真っ暗になってしまい、私はそのまま意識を失ったの……。


そして、意識を取り戻した時に知らされた。


倒れた2人の聖女のうち、1人は亡くなってしまったと……。


ソフィアは亡くなり、なぜか私だけが生き残ってしまったのよ……。


……ソフィアが修復したこの結界は、今では異常なほど強固なものになっている。

あの時から、一度もネリ公国の結界が亀裂したことはないの。

私にそんな修復力はない。

ソフィアが、それだけの魔力を注ぎ込んでくれたのよ」


話し終えたミレーヌの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


前にミレーヌが、母には借りがあると言ってたけれども、こういうことだったのだ……。


しばらくは母を思いながら、じっと馬車に揺られ続けた。


子供の頃によく聞かされた母の言葉を改めて思い出した。


『魔法が使えなくなっても、アメリアの価値は何も変わらないのよ。魔法など使えなくなった方が、幸せな場合もあるの。アメリアの人生にとってはその方がずっといいのよ』


客車の窓から空を見上げると、雲のすき間からちょうど太陽が姿を見せたところだった。


1時間ほど経っただろうか。


すでにミレーヌも普段の表情に戻っていた。

私は、もう一つ別に気になっていたことを彼女に尋ねることにした。


「呪について教えてほしいのですが……」


頭の中に、アレクシオ王子の顔が浮かんでいた。


「呪いを解く方法をご存知ですか?」


「呪いを解くなんて不可能よ」


やはり、アレクシオ王子は助からないということか……。


「でもね」

ミレーヌ聖女は言葉を続けた。


「呪いは解けないけど、移すことは可能なのよ」


「どういうことですか?」


「呪いを移す魔導具があるの。『呪いの橋渡し』と呼ばれるもので、この世に一つしか無い貴重な指輪よ」


「でしたら、それを使えば呪われた人も助かるのですね」


「そうだけど……、でも『呪いの橋渡し』は恐ろしい魔導具なの」


「恐ろしい?」


「ええ。呪いを移す効果は一度だけ。つまり移された側は、どんな手を使っても、もう呪いは解けなくなるの」


「移された人は必ず死ぬのですね……」


「そう……。だから簡単に使える魔道具ではないわ」


確かに恐ろしい魔道具だ……。

けれど、それを使えばアレクシオ王子を助けることができる……。


「その『呪いの橋渡し』はどこにあるのでしょうか?」


「ネリ公国にあると思う」


「えっ」

私が今向かっている場所にあるだなんて……。

天のお導き……、いや、お母さんの導きとしか思えない……。


「ネリ公国のファン王子が持っているはずよ」


「ファン王子……」

私は小さく息を吐いた。

「あまり評判が良くない王子ですが、実際そうなのですか?」


「……確かに少し変わっているわね」


そんな話をしているうちに、私たちの乗った馬車はいつの間にか国境を越えていた。

カラフルな屋根をした、この国独特の家々が並んでいる。


「さあ、もうすぐネリ城よ」


私は未知の国の風景を眺めながら、心の中で呟いた。


さよなら、エルフィンド王国……。

もう戻ることは無いかも……。


するとなぜか、私の頭の中にアレクシオ王子とゼノンの姿が浮かんできた。


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