表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/45

王子が倒れた

(アメリアside)


ミレーヌ聖女の言葉が、頭から離れなかった。


「あなたのお母さんは、とても優秀な魔法使いだったのよ」


どういうこと?

母のソフィアが、魔法使いだったなんて。

母は魔法が使えなかったはず

魔法の使えない母は、私の魔力に嫉妬して、魔道具の指輪を使って、私から魔法を奪ったはずなのに……


母が魔法を使えるのなら、どうして使えないふりなどしていたのか。

そして、どうして自分の娘である私の魔法を封じたのか。

いくら考えても答えは出なかった。


ミレーヌ聖女と、また会いたい……。

会って、母のことを色々聞いてみたい。


窓の外を見ると、空はどんよりとした雲に覆われ、午前中だというのに、日が沈みかけた夕方のように暗い。

しばらく、外を眺めていると、遠くから馬車の音が聞こえてきた。

その音はこちらに向かってきており、周囲が騒がしくなり始めたと思ったら、立派な馬車が私たちの住む家の前で止まった。

前にも同じ事があったので、どういう状況なのかは予想がつく。


また私を……、きっとまた王宮からの使いで、アリアを迎えに来たのだ。


その想像は当たった。


ドアの呼び鈴がなり、そっと外を覗くと、アレクシオ王子の補佐官であるシビルが、落ち着かない様子で立っていた。


「ゼノンごめん、まだ老け顔に変装できていないから、代わりに用件を聞いてくれる。そして、できるだけ時間を稼いほしい」


「分かりました」


ゼノンが玄関に向かうと、私は大慌てで老け顔メイクを行った。

もう何度もやってきたことなので、変装も慣れたもの。

以前の三分の一ほどの時間で、私はアメリアからアリアへと姿を変えることができた。


仕上げに白髪混じりのかつらをつけ、洒落っ気のない黒縁メガネをかけた時だった。

うまく時間を稼いでいたゼノンが、部屋へと戻ってきた。


ただ、戻ってきたゼノンの言葉は、予想外のものだった。


「どうも王宮で、アレクシオ王子が倒れたらしいです」


「えっ?」


「命が危ない状況だそうです。アリア様に助けて欲しいと、アメリア王妃からの直々の願いで来たと言っていました」


王妃の命を救った私に、白羽の矢が立ったのだろう。


「それなら、急いで行かなければ」


「いいえアメリア様、行かないでください。身の安全のためにも、王子と会わないほうがいいに決まっています。昨日も話し合って、王宮にはもう行かないと決めたばかりではありませんか」


「そうだけど……、放っておけないないわ」


「アレクシオ王子は、アメリア様を捕らえて処刑しようとしている人物ですよ。そんな男、死んでしまったほうが、こちらには都合がいいのです」


確かにゼノンの言葉には一理ある。

けれど……。


「ゼノン、やっぱり死にかけている人を放っておくわけにはいかないわ」


アレクシオ王子は、私の推し。

推しを守るのは、私の使命であり、生きがいなのだから。


「けれど……、ご自分の命の危険を晒してまで……。アメリア様には、ずっと長生きをして、幸せな人生を送っていただきたいのです」


「ありがとう。もちろん自分の命を無駄にするようなことはしない。だから安心して待っていて」


「……どうしても王宮へ向かわれるおつもりなのですね」


「ええ」


「でしたら、どうか僕も一緒に連れて行ってください。何かの時は、僕の命に代えてでも、アメリア様をお守り致しますので」


僕の命に代えてでも……、アメリア様をお守り致します……。


また、映画のようなセリフを言われてしまった。

年下の男の子に真剣な顔でこんなことを言われると、正直ドキッとしてしまう……。

でも……、本当にいざという時、命をかけてくれるのかしら……。

不謹慎にもそんなことを考えてしまった。


「分かったわ、ゼノン。では一緒に行きましょう」


外に出ると、すでにシビルが客車のドアを開け、寒空の中でじっと私を待っていた。そして私たちがすばやく客車に乗ると、馬車は大急ぎで王宮へと向かった。


 ※ ※ ※


客車の座席には、私とゼノンが並んで座り、向かいに補佐官のシビルが座っている。

なぜかシビルは、ゼノンのことを気にしているようで、何度もチラチラと目をやっていた。

いったい何をそんなに気にしているのだろう。

そう思っていると、シビルは私に対し、こんな言葉を口にし始めた。


「アリアさんに、これを受け取っていただきたいのですが」


シビルはそう言って小さな箱を私に差し出してきた。


「何ですか?」


「私の、アリアさんに対する気持ちです。ぜひ受け取ってください」


私に対する気持ち?


そう思いながら小箱を受け取ると、その蓋を開けた。


「何ですかこれは!」


箱の中には、小さな宝石がついた指輪が入っていた。宝石は色からして、ルビーに間違いなかった。


「私のアリアさんへの気持ちです」


シビルは同じ言葉を繰り返した。

それにしても、この国で男性から女性にルビーを贈るということは……。


「シビルさんが、私にですか? シビルさんが私にルビーの指輪をプレゼントするというのですか?」


なにかの間違いだと思って、念入りに確認した。


「はい、その通りです」


「ちょっと待ってください」


そう言いながら、私はもう一度箱の中身を確認した。

何度見直しても、間違いなくルビーの指輪が入っていた。


そういえば……、アレクシオ王子がこんなことを言っていたのを思い出した。


「シビルはアリアさんのことが好きだ」と。


けれど私は……。

正直言って、こんなおじさんに興味はない。

見た目も年齢も、私の範疇からは大きく外れている。

それに、私の推しはアレクシオ王子ただ一人……。


「申し訳ありませんが、これは受け取れません」


「あなたにご迷惑をおかけするつもりはありません。単なる私の気持ちですから受け取ってください」


こういうときは、はっきりと気持ちを伝えるべきだと思い、私は簡潔に述べた。


「ごめんなさい。受け取れません」


そう言いながら、指輪の入った小箱をシビルへぐっと押し返した。


するとシビルは残念そうな顔をして、返品された小箱を受け取った。


それにしても、王子が死にそうだという時に、この補佐官は何をしているのだろうか。

これからも、この冴えない中年には、変な勘違いをされないように、気をつけなければ……。


そう思いながら、私はその後、客車の中で無言を貫き通した。


本当のことを言えば、シビルには王子の状況など、いろいろなことを教えてもらいたかったのだが、こんなことがあった後では、聞くに聞けなくなってしまった。


そんな沈黙の時間が続くと、やがて馬車はエルフィンド城へと到着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ