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セレナが命の恩人なのか?

(アレクシオ王子side)


アレクシオ王子は自分を責めていた。


(私はとんでもない間違いを犯してしまった。母の命の恩人でもあるアリアを疑ってしまうなんて)


アリアの柔らかい顔、年上女性が醸し出す独特の魅力、そして体中から溢れ出る白くて淡い光……。


今回のことは、もとを正せば聖女セレナのおかしな発言から始まったのだ。


(確証のないことを口にして、私を惑わすとは……)


改めて王子は、こうなってしまった経緯を頭の中で整理してみた。


もともとは、魔の森で私を助けた少女が、聖女セレナなのかどうかという話だった。

そこから聖女セレナが激昂し、逆にアリアを攻め立てたのだ。アレクシオ王子を騙しているのは、私ではなくアリアなのだと。


(その時私は、不覚にも聖女セレナの言葉を信じてしまった。今までの私は、セレナを命の恩人と思うばかり、彼女の言葉を無条件に信じるようになっていた。でもそれは、大きな間違いだったのだ……。今回のことでよく分かった。聖女セレナは、あまり信用できる女性ではない……)


グランデ公爵家のアメリアと婚約破棄したのは、もちろんセレナと一緒になりたかったからだ。

以前のアレクシオ王子は、確かに聖女セレナの魅力に参ってしまっていた。けれど今、アリアの出現により、王子の聖女セレナへの思いは、一気に冷めてきている。


何もかもアリアのおかげだ……。


そう、アリアという女性が現れたことで、王子はやっと聖女セレナを冷静な目で見られるようになった。


アリアの体から発する白い光……、間違いなくあの光は、魔の森の少女と同じ輝きをしていた。

その光を見てしまった瞬間から、王子は10歳年上の女性がいつも頭の中から離れなくなってしまったのだ。


王子は自分を落ち着かせるため、一つ大きく息を吐いた。

その時なぜか、胸に痛みを感じたが、咳を二度ほど行うと痛みは消えた。


(アリアのためにも、魔の森のことは、はっきりとさせなければ)


アレクシオ王子は補佐官のシビルに命じ、聖女セレナを呼び出すことにした。

程なくして、シビルはセレナを連れて、王宮一階にある謁見の間に現れた。


謁見の間とは、王族が臣下と会う際に使われる部屋、つまりは明らかに身分の下のものと会うための部屋で、普段はこんな場所で聖女セレナと会うことなどないのだが、今日は特別だった。

ここを指定したのは、王子の立場を明確にして、聖女セレナと向き合いたかったからだ。


「セレナ、どういうことなのか、私に説明してくれないか」


「いったい何のことでしょうか?」

セレナは冷ややかな口調で応じた。


「君は、アリアさんがネリ公国出身ではないと言い張ったが、根も葉もない嘘だったではないか」


「それは……、ネリ公国については間違っていたかも知れませんが、あの女が怪しいことに変わりはありません。これからも調べ続ける必要はあるかと思います」


「調べ続ける必要がある?」


「はい。あの女は、言っていることが無茶苦茶で、全く信用のできない危険な女です」


「今さら何を言っているんだ!」


聖女に対し、こんなに荒い言葉遣いをしたのは初めてだった。

セレナも驚いた顔でアレクシオ王子の顔を見つめていた。


「アリアさんは、ネリ公国のミレーヌ聖女と親友だったんだぞ。私たちはとんでもなく失礼なことをしてしまったんだ」


「アレクシオ王子、あのアリアという女を信用しないでください。私の聖なる力で感じるものがあるのです。あの女は間違いなく何かを隠しています」


「まだそんなことを言ってるのか!」


王子の言葉に、セレナは明らかに不快な顔をしている。


「このままでは私の気が収まりません。これからもアリアの調査を続け、私が間違っていないことを証明してみせます」


「もうやめてくれ。これ以上アリアさんに不快な思いをさせないでほしい」


「王子は聖女の私より、あの女の方が正しいと思われるのですか。聖女の私より、あの女の方が大切だと言うのですか?」


「もちろん聖女は、我が国にとって大切な存在だ。けれど、アリアさんは母の命の恩人でもある。聖女でも治せなかった母を救ったのは彼女だ。そのことを忘れないでほしい」


「聖女でも治せなかった……」という言葉を聞かされたからだろう。セレナは下唇をかみながら険しい目つきで王子をにらみつけた。


「それと、これだけははっきりさせたい。君は魔の森で私を助けたと言ったが、それは間違いないことなのか?」


「……王子は、あの女の口車に乗るつもりなのですね。もしそうなら、こちらにもそれなりの覚悟があります」


「アリアさんが言ってた精霊の名前は、私の記憶と一致してる。……君は本当にあの時、あの場所に……、魔の森にいたのか?」


「あの女の策略にはまらないでください。まるであの女は、自分が王子を助けたような口ぶりでしたが、そんなわけはないのですから」


「アリアさんが私を助けた少女でないことは、わかっている」


「そうです。あんな年増の女が、王子よりも若くなることなどないのですから。あの女は、王子に変な術をかけて、いい加減な情報を信じこませているだけです」


「いや、アリアさんは私を騙そうとはしていない。彼女はそんな女性ではない」


「……分かりました。王子のお気持ちはよく分かりました。もう私はこの国には必要のない聖女なんですね」


「……そんなことは言っていない」


「いえ、言っています。私は王女殺害を企む容疑者を見つけ出した功労者なのですよ。私の力がなかったら、グランド公爵家のアメリアが王妃毒殺を企てた犯人だとは分からなかったのですよ。そんな私のことを、王子は信用されていないというのですね……」


「アメリアの悪事を暴いてくれたことには感謝している」


「でしたらアメリアを捕らえ、一刻も早く処刑することが、今の王子のなすべきことだと思います。その役目を放りだして、王子はこんな無意味なことに、かまけているのですか?」


「アメリアの件は、よくわかっている。あの女を捕らえ、必ず刑に処することを約束……」


アレクシオ王子がそう話している時だった。


急に激しい胸の痛みが、王子を襲い始めた。

喉が苦しくなり、その場で激しく咳き込み始めた。

呼吸することもままならなくなり、目の前が暗くなってくる。


「王子、どうされたのですか?」


セレナの言葉が聞こえたが、何も返事ができなかった。

ただただ咳き込みながら、必死で呼吸を続けるしかなかった。


(この苦しさ、どこかで味わったことがある。そうだ、魔の森で体験した苦しさと同じだ……)


そう考えていると、あの時と同じように身体全体がしびれ始めてきた。


結局、王子は立つことができなくなり、そのまま床に倒れ込んでしまったのだった。


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