第5話「動物とサイコと混沌と私」その⑤
1
護衛官の面々と途中で別れ、リア達を乗せた車は急いでアクアの所へ向かう。彼女たちはまず初めに何をやるかと言うと、追跡である。その間、こころは護衛官達や援軍との連絡、そしてリアはWFUのある人物と連絡していた。
『そういう事情だったのか。』
マッサール駐在武官とは2人が任務のために日本にやってきた際に、最初に出会った上官である。彼はこの事件の対策会議を今終えたばかりのようであった。
「WFUの動きはどうなってる?」
『ああ。先ほど、自衛隊とWFUで協議したところだ』
「どうだった?まだ非常手段を取るつもりはない?」
『詳しいことは話せないが、流石に双方とも排除という姿勢ではない。そもそも状況も飲み込めてない様子だったからな。…だが、最終手段としてそのような措置を取ることはあるだろう。住民の声もある。』
「…だろうな」
それは暴走状態が末期に陥った場合の最終宣告であった。あるだろうという言い草ではあるが、実質的には排除するという選択しか無いという意味である。リアはその事を知っていたために、急ぐ他なかった。ラニーの事をふと思い返すが、マッサールの言葉でかき消される。
『君たちは今どこに向かってる?』
「これから護衛官と協力してアクアの暴走を止めるつもりだ。…また暴走によって目の前の人を撃たなくちゃならなくなる、なんてことは御免だからな。」
『…そうか』
『ただし、無茶はするなよ?我々は君たちを出来るだけサポートするから、困ったことがあったらすぐ教えてくれ。』
「…とりあえず、目の前の渋滞をどうにかしてくれ。避難誘導かなんか知らないけどすごい邪魔なんだよ」
『分かった。また連絡する。』
電話が切れると、舌打ちとともにスマホをポケットへと放り投げるようにしまい込んだ。リアは明らかに苛ついており、車内の空気はより一層重くなっていった。その苛つきの原因は焦りである。そのリアの焦りが状況の緊迫化を意味しているのは、2人には分かっていた。それから5分後、マッサール駐在武官が何か手を回してくれたようで、警察がリア達周辺に駆けつけて、交通整理を行いはじめた。そうすると、絡まった糸が解けるように渋滞は5分も経たずみるみる解消し、リア達もようやく動けるようになった。茉莉花は時計を確認する。
「ようやく抜けたけど、今ので20分のロスね…。」
渋滞は抜けたものの、結局状況は悪化の一途を辿っているのは明らかであった。つけたテレビでもマスコミも一斉にこの能力者暴走事件を報道し、警察や消防、自衛隊もこぞって避難誘導を推し進めている。そして、アクアのそのような措置という話まで出てきているのである。この重苦しい空気の中、リアが割って入るように口を開いた。
「いいか、2人ともよく聞け。ここから先は何が起こるか分からない。当然命の危険もある。でも、とにかく冷静でいてほしいんだ。これは肝に命じてくれ。ひとたびパニックが起きたら全滅だぞ。ゾンビ映画を見れば分かるけど」
3人はゾンビ映画というフレーズで笑みが溢れ、淀んだ空気がやや和らいだような気がした。
「ふふっ…、ゾンビ映画ね。あたしもミラジョボ(※1)みたいにカッコよく行けたら良いんだけど」
ミラジョボってなんだろう…?とこころは疑問に思うものの、この空気感もあって質問をする事は出来なかった。
2
「キタ!見つけた!追い付いた!」
ネズミの尻尾を捉えた瞬間である。彼女を乗せた軽トラを先頭に、小動物の群れがそれを追いかけている奇妙な行進を見つけた。茉莉花は喜ぶのもつかの間、追い付いた瞬間に軽トラは聞いたことのないエンジン音を轟かせ、猛スピードで彼女たちから振り切ろうとする。どうやら追われている認識はあるようだった。
「速い速い!」
茉莉花も軽トラに追いつくように、まったく無駄のない動作でオートからマニュアルに切り替えると、一段ギアを落とし、それからアクセルを踏み込む。急加速により、リアとこころは座席に張り付く。しかし、ここからが彼女の腕の見せ場である。この区間にはところどころにこの騒動のために放棄された車、自転車などが放置されており、そしてまだこの区画でのんびり走っている車などが居た。しかしそのような障害物を華麗に避けつつ、交差点をドリフトして曲がっていく。
「運転うまい!」
こころは目をキラキラと輝かせ、パチパチと拍手しながら、茉莉花のドライビングテクニックを褒めていた。彼女の腕前により、軽トラとの距離は易々と縮まって、バンが大通りへと出たところで再び軽トラに追い付く事ができた。しかし、その車が先ほどとは様子が異なっていることに、こころが気付く。
「アクアが乗ってる車…、なんかさっきよりスピードが落ちてない?」
「ホントだ。それに、アクアに着いていかない動物も出始めてるわね。暴走が収まり始めたなら良いんだけど…。」
「いや、逆だ…!出力が不安定になってきてるのはむしろ暴走が悪化する前兆だ!このままだと本人の力では能力を抑えることが出来なくな」
と言いかけたその時、突如歩道から2匹の鹿が車へと飛び込んできた。
「うわ!」
「鹿が!」
一匹は衝突した後勢いそのままに歩道に逸れたものの、もう一匹は車のフロントガラスに飛び込むような形でリア達の車に襲いかかった。鹿は涎を垂らしながら、こちらをギョロッと睨みつけてきた。
「振り切れ!」
衝突の衝撃に気が動転していた茉莉花もその言葉でふと我に返り、ハンドルを激しく左右に切る。その反動についていけなかった鹿は、なすすべ無く道路に落ちていった。茉莉花は半泣きで鹿に謝罪を繰り返す。
「ごめんなさい、ごめんなさい、鹿さん…」
一難去ったように見えたが、新しい一難が彼女たちを待っていた。
「リア!アクアが動かなくなったの…!」
リアは後ろを振り返ると、こころの手の上で仰向けでぐったりしているネズミの姿があった。
「え?どっちのアクアが!?」
茉莉花は本体とネズミを交互に見る。しかし、リアにとってはそんな天然に付き合っている場合ではなかった。
「チッ、いよいよ最終局面か…。誘導するぞ!こころ!護衛官の状況はどうなってるか聞いてくれ!」
3
もはやアクアの意識も無くなってしまった、ただの眠ったネズミである。こころは彼女を隣の座席にゆっくりと寝かせ、布団のようにハンカチを体にかけた。
「おお、道が塞がれてる…。」
軽トラを追い回して誘導した結果、ようやく目的の区画へと連れてくる事に成功した。その一帯はビルやマンションが立ち並び、その間を細い路地が通り抜けるような構造であった。そして、避難したのか人も車も全く居ない。それらは、リア達の作戦を行うには好都合であった。そしてその場所の横道は車やどこかから拾ってきたのか分からないような廃材、家具などで塞がれていた。その光景はまるで暴動後の街である。
「ナイス。あの短期間でよくやったな…!いや、あいつらのお陰か?」
「?」
茉莉花は、誰の事を指しているのか分からなかったが、そんな事を気にしている場合はなかった。
「そろそろね」
次の場所を曲がれば目的地の直線道路である。再び軽トラの速度が落ちたため、後ろに張り付くように移動した。その軽トラの荷台には藁が敷かれており、その上にアクアが寝ているような状態である。しかし近くで見てみると、その藁は山状になっており、ちょっとした衝撃があると、転げてあっさりと落ちてしまうようなほど不安定だったことが判明したのである。
(乗せ方が思ったより雑だな…。これじゃあ簡単に荷台から落ちちまう。ブレーキを掛けさせる手段も、車をぶつける手段も危険だ。ならやり方を変えるしかないか。)
目的の直線道路へとたどり着いたとき、リアは奇想天外な行動を取りはじめた。
「よし!車の後ろ張り付けた。って、リア!?何やってるの!?」
なんとリアは車のウインドウから身を乗り出し、そのままフロントガラスの上へ這い出ようとしていた。
「あぶない!」
思わずこころはこう叫ぶ。しかしリアはフロントガラス越しに大声で、
「大丈夫!さっきの鹿みたいにはならんよ!」
と答えた。
「近づけて!そうだ!そのまま慎重に!」
茉莉花はリアを気にかけながら、徐々に軽トラまでの距離を詰めていく。その時、左側から新たな車が現れ、リア達の車にぶつけようとしてきたのだ。
「くっ…!」
茉莉花は右に逸れ、衝突を回避する。その動き程度ならば、リアも落ちないだろうと考えての行動である。
(何すんのよ!)
とぶつけようとしてきた車を見ると、そこには異常な光景があった。
「い、犬が運転してる…。」
窓を開け、前脚を一本外へ出しながら運転するその姿は、まるでベテランのトラックドライバーだった。しかし、そんな事はどうでも良かった。
茉莉花はすぐさま自身の携帯していた拳銃をホルスターから取り出し、窓からリアに手渡す。リアは待ってましたと言わんばかりに銃を奪うかのごとく取り、窓に張り付く姿勢のまま、車の前輪のタイヤに向けて2発発射した。どちらも命中し、スピードを出していた車は右に逸れていき、その先にあった街灯に衝突した。
だが、一難去ったと思ったのも束の間だった。茉莉花の腕が急激にプルプルと震え始めたのである。少しの間は耐えていたものの、ある時点を境にいきなり蛇行運転になりはじめた。こころもネズミが落ちないように必死に覆いかぶさる。このような蛇行運転にはリアは堪えるのが精一杯である。
「おい!不安定な運転するな!」
リアは大声で文句を言うが、茉莉花がそれ以上の声量で答える。
「そうは言っても、腕が言う事を聞かなくなってるのよ!」
「クソッ、遂に人間にも影響が出始めたのか…!」
蛇行の振れ幅がどんどんと広くなっていく。傍から見たら軽トラに対するあおり運転そのものである。しかし、軽トラとの車間は明らかに狭まっていた。
そして、最大にして最後のチャンスが訪れる。茉莉花が最後の力を振り絞り、車を瞬間的に安定させ、軽トラの後ろに位置取る事ができた。しかし、2台の前方100m先は障害物でぎっしりであり、今の2車のスピードでぶつかると大変な事になるのは明白だった。このタイミングしかない。そう考えたリアは、思いっきり軽トラの荷台へジャンプした。
しかし姿勢が悪かった。十数センチ。あと十数センチだった。リアは荷台に届くことなく、地面へと落下していく。
(あと、もう少しだったか…。)
リアは身構えた、その時だった。突然体が宙に浮き、そのままアクアのもとへと飛び込んだのである。
「今だ!」
大声とともに左側から車が現れ、軽トラにぶつかる。それは護衛官が乗った車だった。リアは、アクアが落ちないように覆いかぶさった。軽トラと護衛官の車は勢いを受け流す形で右に逸れ、そのまま公園へ突入。丘の傾斜に差しかかったところでようやく停止した。
リアはルカに向けてサムズアップをする。実は彼女が言っていた援軍というのは、ルカ達のことであった。誘導している道中の脇道の封鎖も、彼とジェームズのお陰である。そして、リアが落ちかけた際にも、ルカが障害物の近くの歩道に居たのである。それは、何かあった際に自身のサイコキネシスが役に立つだろうと判断したため…、というわけではなかった。一仕事を終え、ついでに今回の事件の結末を見届けたいという好奇心から見物しに来たお陰である。ルカも目前の光景に安堵し思わずつぶやく。
「ったく…人騒がせな女だよ。」
隣にいたジェームズと笑みを交わす。その直後、彼らの前に車が止まる。茉莉花の車である。ウィンドウを開いて、こころと茉莉花が顔を覗かせる。茉莉花は驚きの表情であった。
「ルカ!?なんでここに!?」
「質問なら軽トラに居る女にしてくれ。オレは少し手伝っただけだ。」
「少し?、ムフフ…。兄貴、カッコつけちゃって、いっ!?」
ルカはジェームズの余計な一言に肘打ちを脇腹に食らわした。その光景に笑ってしまう茉莉花と心配そうにするこころ。そして、車に乗っていた護衛官達も姿を現した。そして彼ら全員の注目は、今回の立役者であるリアに向けられていた。しかし当のリアは、どう体を揺らしても目を覚まさないアクアに困っていた。リアにしてみれば、アクアが目を覚まさない限り、一件落着とは言えなかった。そこでリアはある解決策を試すことにした。
この区域一帯に、平手打ちの音が響く。一発目ではアクアが苦悶の表情を浮かべただけであった。さらにもう一発。
「痛そー…。」
その光景に茉莉花は思わず目を逸らしてしまう。
「ビンタで起こすって、プロレスじゃねえんだから…。というか、こんなんで暴走収まるのか?」
ルカの疑問はもっともであったが、しかしリアは意外にもこれが最善の解決策だと思っていたようである。今度はもっと強くビンタしてやろうと手を出した瞬間、まるで悪夢から目を覚ましたように、アクアは飛び起きた。
「う?、…!?」
彼女は周囲を見渡す。茜色の空、立ち並ぶビルやマンション、そして寝心地の悪い藁敷きの寝床に、見知らぬ赤いバンダナを付けた、ブロンド髪の少女。理解できない周囲の混沌に、まるでヒッチコック映画のヒロインのような叫びをあげた。
「ぎ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うるせえわ!」
アクアは暴れ始めようとしたが、リアのその一喝と体を取り押さえたことにより、熱した鉄を水につけるように急激に冷静さを取り戻した。落ち着いた所でリアは彼女に話しかけ始めた。
「…アンタがアクアか?」
「貴方、せっかく良い夢見てたのに、全部台無しだわ。…それでここはどこなの?なにこの車は?というか貴方誰なのよ?」
「は?」
いきなり頓珍漢なことを言い出して、リアは唖然とした。
「…もしかして、記憶ないのか?」
「何の話よ。」
彼女に今回の事件の色々を聞いてみたが、微塵も記憶にないようだった。それどころか、暴走した原因である事故すら覚えていないようだ。リアは護衛官達と茉莉花たちを呼び、アクアにこれまでの事情や経緯を詳細に説明する。彼女の反応を見る限り、全く話を飲み込めていないようだが、実感や罪悪感は後から湧いてくるに違いないと一同は気の毒に思った。
「そんな…アタシがそんなことを引き起こしていたなんて…。」
「まぁ、とりあえず暴走は収まったし、あとの収拾は頼んだぞ。ネズ子。」
「え、収拾って?というかネズ子って何よ!」
記憶に無いため、アクアはネズ子という呼び方に反発する。リアは軽トラから降り、ルカと対面する。
「サンキュ、ルカ。」
「おう、でも礼の半分はこころに言ってくれ。アイツがここまで誘導してくれなかったら、先回り出来てないからな。」
「エヘヘ…。」
「でも、こっからが問題じゃない?」
「あっ、そうだよ!動物達を元のところに返さないと…。」
「それは面倒だけど…。まぁ大丈夫だろ。ここに元凶が居るし。」
「そうよ!ここからがアタシの能力の使い所ってわけ!」
「なるほど、バカと鋏は使いようってか…。」
ルカは1人納得しながら呟く。
「何か言ったかしら?」
「いや、なんでもない。」
今回の事件の後始末は護衛官達とWFU、そしてアクア自身がやってくれるだろう。疲労困憊のリア達は帰路につこうとする。この場にいれば、恐らくWFUに長時間の事情聴取に呼ばれるだろうと判断したためである。一仕事を終え、茉莉花のバンに乗り込んだとき、リアはようやく安堵することが出来た。そして一言。
「これで一件落着か…。」
「一件落着じゃないぞ。お前、自転車返し忘れてるだろ。」
「あっ…!」
4
翌日、リア、こころ、ルカ、ジェームズの4人は、茉莉花と共にWFUの調査官から2時間ほどの事情聴取を受けた。長く執拗な質問攻めとなっており、一同を疲労させ、さらに不快にさせるものであったが、ようやく解放された。一行が家へと戻ろうとしていたとき、下に降りるための施設の階段に差し掛かるところで、本来居るはずのない人物と遭遇する。
「ラナ?こんな所までどうしたんだ?誰かとデートか?」
ラナサウス。前回、脱走騒動を引き起こした人物である。彼女は施設の地下に居を構え、基本的には外出は制限されるため、ここには居るはずがなかった。ラナはそんなリアの冗談を意に介さず、理由を述べた。
「ううん、アクアのカウンセリングでね、私が呼ばれたの。」
「まぁ、あんな事があったばかりだからな…。何も感じてない訳無いよな…。」
ルカは同情する。やはり、あの出来事はアクアにとってはかなり重たい出来事であった。さらにマスコミによって、事件の原因として晒し上げられたのもあって、彼女は精神的に疲労していたようであった。
今回の一件では最初の事故を除き、幸いにして犠牲者は出なかったものの、家畜達が食い荒らした被害、糞尿などの衛生問題、一部住居の破損、汚損被害などもあった。北海道庁、及び日本政府による抗議もあり、WFUの上層組織であるICA(※2)は今回の事件で全面的に責任を認めた。そして起きた被害の賠償を全て担う事を早急に発表したことにより、事態は沈静化へと向かっていった。
しかし、火種があれば、火は広がるものである。施設の外がなにやら騒がしかったため、リア達は窓の外を見た。
「なんだよ、アレ。」
「昨日の一件で抗議活動でも起きてるんじゃないか?」
施設の門前には、数十人ほどの抗議者が集まっていた。彼らの思想や立場は様々で、本来なら同じ場所に集うことなどない面々だった。しかし、ただ一つの目的のもとに集まっていたのである。
リアはそれを見て、鬱屈した気持ちであった。今回の一件を、様々な人間の無理解が積み重なった末に起きた事件だと考えていた。だからこそ、この騒動は彼女に自らの夢を改めて強く意識させることになったのである。
リアは窓へ歩み寄り、外の声を聞こうと窓を開けた。すると恐ろしい一言が抗議者から飛んできた。
『サイコは隔離しろ!この施設から出すな!』
それが彼らのシュプレヒコール(※3)であった。何故団結するのか。それは、能力者は自らの安全を脅かすものだからだ。つまり能力者は彼らにとっての敵なのだ。しかし、そのようなコールには、リアは絶対に我慢ならなかった。
「サイコだと…!?」
「ちょっと、リア、落ち着きなさい!」
ラナは制止しようとする。しかしリアは、それを振り切るように叫んだ。
「私達は兵器でも異常者でもない!ただの人間だ!」
1人の抗議者がそれに反応し、怒りを窓の少女にぶつける。
「お前ら能力者は街を荒らした害悪だろうが!」
それに呼応するようにもう1人の抗議者も彼女へと叫ぶ。
「散々暴れるだけ暴れて人間扱い出来ると思うなよ!」
「それはてめえらが…むぐぅ!」
窓から飛び出す勢いだったため、ラナが口を塞いで施設内へ引き戻し、ジェームズが窓を締める。
「ちょっと!」
ラナは叱責する。しかし、リアには全く響かない。そして、ルカはこの行動に感心する。
「リア、思い切ったな。」
「チッ、クソッタレが…!」
リアは声を震わせていた。それを見たラナは一転し、彼女に諭そうとする。それは優しい声、あるいは諦めに満ちた声にも聞こえた。
「異能力を持たない普通の人々にとっては、平穏を乱す私達の存在が怖いのよ…。それは仕方のないことだわ。」
「ラナ、それは違う。私達が黙ったままじゃ、ただ兵器のように利用される存在で終わるんだ。それを変えるために、戦うんだ、戦わなくてはならないんだ!私達が自由を勝ち取る為にな…!」
「自由…?」
この場に居た全員は、驚いた表情を見せる。
能力者に向けられる偏見や差別との別離、そしてこの鳥かごから自由になること。それが、リアの夢なのだ。
※1 ミラ・ジョボビッチ…ウクライナ出身の女優。「フィフス・エレメント」や映画版「バイオハザード」などが代表作。ここでは後者を指す。
※2 ICA…大戦後、その反省から国際連合の後継として設立された国際組織。WFUなど複数の下部組織があり、本部はアイスランドのアークレイリに置かれている。
※3 シュプレヒコール…デモや集会などで、参加者が一斉に繰り返す掛け声やスローガン。




