97_高校生のたまり場
その日、俺は暗黒世界で、瞬と作戦会議をしていた。
連れ去られた3人のセルパンの救出。
瞬にも手伝ってもらうことにしたのだ。
「こいつから、始めるのか?」
瞬が俺のスマホを見ながら言った。
「そう思ってる。捕まってるセルパンが子どもだから早く助けたい」
俺のスマホの写真フォルダには、早瀬賢治の自宅から奪った「赤いファイル」の中身が保存されていた。
「へ~!こいつ蒼井物産の取締役らしい。きっと金持ちなんだな。
魔物の奴隷まで手に入れて、なにをするつもりなんだ。恐ろしいな」
瞬はカウンターに座ってスマホをいじりながら俺に言った。
「おい!フルーツケーキは誰が頼んだ?チョコレートケーキは?」
俺は、女のグループにケーキを運んでいた。
「川田くん!それ、あたしのだよ~。チョコケーキは萌歌のだよ」
その日、学校の女のグループが店に来ていたので、わりと忙しかった。
これでは、まともに作戦が立てられない。
「あー、もう。ここに置いとくから、お前ら自分のやつを取っていけ」
俺は面倒くさくなってテーブルの端にケーキを並べて置いた。
「あたし達はお客様なんだよ?川田くん接客が雑だよ。そうだなー。もっと執事っぽく接客すべき」
突然一人にダメ出しされた。
「えっ?執事っぽくって何?」
「おかえりなさいませ、お嬢さまって言うべきだよね」
「お嬢さま?まじで。なんか変じゃない?」
「良いんだよ?お客様には、そう言うんだよ」
みんなウン、ウンとうなづいている。
「そうか。接客はそういうもんなんだなぁ」
どうやら、俺の接客は正しくなかったらしい。
「そうだよ!そのほうが、お客さんは喜ぶんだよ!」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
そう言いながら、紅茶を置くと女たちはニヤニヤと笑った。
「洋平。お前、それは普通の接客と違うぞ」
今度は瞬に注意された。
「えぇっ?」
それじゃ正解は、なんなんだ。
「だいたいお前ら、お嬢様って顔かよ。んなもんばっか食って、運動してんのか?
ブヨブヨしやがって。ほとんどブタじゃねえか」
瞬がカウンターから振り向いて、ソファ席に座る女たちをからかっている。
「ひどーい!」
ソフア席から一斉に声が上がった。
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「この店は高校生のたまり場になりつつあるわね!」
広子がブツブツと文句を言う。
「客が誰も来ないよりいいよな!?」
俺のせいで高校生ばかりが来ると言いたいのか?
カチンときて、広子に言い返した。
「まぁ、そうよね!だけどやっぱ昼間より、夜のアルコールのほうが儲かるのよぉ。あんた、大学生になったら夜もバイトしなさいよね。きっと若い女の客が増えるわ」
広子はそんなことを言っていた。
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女グループがようやく店から出ていった。
店には、シルクハットとルートと、店主の広子、そして俺と瞬だけになった。
シルクハットは黙ってコーヒーを飲みぼんやりしている。
ルートはひとしきり唄い終わったあとで、何もない空間に向かってブツブツとつぶやいていた。
おかしな連中の溜まり場。
本来の「暗黒世界」の雰囲気にもどっていた。
俺と瞬は、店の隅のソファ席に移動した。
「問題はこの子が、どこにいるのか。このおっさんの自宅にいるのかなぁ」
俺は蒼井物産の取締役、但馬雅治に囚われているセルパンの写真を眺めた。
人間で言う14歳位の年齢だが、痩せていて童顔。
みためは10歳くらいに見える。
性別は男だ。
「疑問なんだけどよ」
瞬が、学校の授業中のように俺に手をあげて質問する。
「服従したセルパンは清めの檻に閉じ込めておかなくてもいいのか?」
「そうだ。弱っているから、自力では天界に戻れない」
「俺たちが救出した檻に閉じ込められていた奴らは?
ミーネのおばはんが抱きかかえて、フワァ~って天界に登ってったよな。
今はどうしてるんだ?」
「魂の摂取のおかげでもう回復してるよ」
「だけど、まだ服従の印は残ったままなんだよな?」
「実は、もう服従の印は消えているんだ。
救出したセルパンたちの支配者は全員、殺された」
「殺された!?誰にだ」
瞬は驚いて、俺を見た。
「レザール及びセルペリオールの部隊が動いた」
「......」
瞬が絶句する。
「救出されたセルパンの支配者たちは、このファイルの情報を元に探し出されて殺されてしまった。だから服従の印は消え、囚われていたセルパンたちは元気だよ」
道華の計画通りすすめた場合よりも、失われる命の数は抑えられたかもしれない。
だが結局、早瀬賢治をいれて14名の命が失われた。
俺は殺すことに全力で反対した。
だが、セルパンたちの怒りは抑えられなかった。
それに服従状態のままでは、いくら天界にいても囚われていたセルパンたちの状態は悪いままだった。
殺すよりほかない。
そういう結論がくだされた。
「それならこの、連れ去られた3人も、ついでに助けてやればいいのに」
「それが、この3人にかぎっては部隊が助けに行ってもうまくいかなかったらしい」
「どういうことだ?」
「ひとりは服従の印の持ち主が見つからなかったとか。
もうひとりは、呪術に抵抗できる人間でしかもかなり強く手強い。」
「もう一人は?」
「魔道書印目の儀式が忙しくなって、うやむやになった」
「なんだよそれ」
「とにかく、今、セルペリオールは忙しいんだ。俺は仕事を丸投げされた」
そこで驚くべきことが起きた。
「人間を殺す必要はなかったのに。バカめ」
「うおっ!?」
俺と瞬のいるソファ席のすぐそばに、いつの間にかシルクハットが立っていたのだ。
全く近づいてきた気配がなかったので心底、びっくりした。




