92_レザールの呪術
「ナナ!すまない!遅くなった」
「あたしのナナ。無事だった?」
レザールとミーネが、早瀬賢治の自宅へ遅れてやってきた。
ミーネとレザール、それにグースとリザベルは、深手を負ったセルパンたちを天界に運ぶのに追われていた。
囚われていたセルパンたちは弱っていて自力では、天界に戻れない。
抱きかかえて天界まで運んであげる必要があったのだ。
天界は今頃、大さわぎだろう。
俺と瞬は、人間の肉体だから、セルパンたちを天界に運ぶことは出来ない。
そこで、一足先にここのボス「早瀬賢治」の自宅へ踏み込んだのだった。
早瀬賢治の自宅の場所は、檻の見張りをしていた部下たちを脅して聞いた。
「パパ!ママ!」
ナナはレザールとミーネに抱きついた。
「娘よ。すまない。こんなに遅くなってしまった」
「いいの!そこにいる二人が助けてくれたのよ。
人間の瞬とセルパンのルイ」
「俺は洋平に引き続き、またナナも救ってしまった。セルパンから表彰状をもらっても良いと思うんだけど」
瞬は俺を見ながらニヤニヤ笑っている。
「あぁ......冗談抜きで、そうだな」
「名前は?」
レザールが瞬の前に立つ。
「俺?俺は上村瞬、だよ?」
次の瞬間のできごとに俺は目を疑った。
多くのセルパンを率いるボスのレザールが、人間の瞬の前にひざまずいた。
「ほんとうにありがとう、上村瞬。ナナは俺の宝なのだ」
瞬は慌てて言う。
「いいって!」
それから俺のほうにもレザールは視線を向けた。
「ルイ。君にもなんと礼を言ったら良いか分からない。君はセルペリオールをあるじとしているのに、俺たちのために動いてくれた」
「俺の仲間、グースとリザベルも、協力してくれました」
「うむ。そうだったな。彼らが俺を檻から出してくれた」
レザールはうなずく。
「レザール。そんなことより」
俺は視線を気絶している早瀬賢治に向けた。
「あぁ。分かってる。服従の印だな。あいつはナナの主人になってしまっている」
レザールが賢治を蹴飛ばす。
彼の手の甲には、たしかにナナのものと思える印がくっきりと見て取れた。
ゾッとするような恐ろしい形相でレザールは賢治を睨みつける。
「殺すしかあるまい」
レザールは小声でなにかを唱えると、賢治の体を分厚い氷で包んだ。
賢治は異変に気づいたのか、意識を取り戻して慌てている。
やがて自分の体をおおう氷に気づく。
呪術にかかった。
「う!うわぁ!止めてくれっ」
しかしレザールに情けはない。
レザールが腕をシュッと横に動かすと、氷はパリン!と音を立てて割れ、粉々になった。
早瀬賢治も氷とともに粉々になった。
「私としたことが。怒りのあまりに楽な死なせかたをしてしまった。
許せ、ミーネ。それにナナ......しかしヤツの魂は地獄で存分に苦しむことになるであろう」
レザールが氷のように冷たい声でそう言い放った。
「お、おぅ。なんか......やばいな」
瞬は粉々になった賢治をみて衝撃を受けていた。
彼にとって初めてみた死体なのかもしれない。
だが、瞬は粉々の死体を前にして、両手を合わせて祈りはじめた。
「悪者だけど死者だからな」
「そうだな......気が済むようにしろ。俺には祈る習慣はない」
俺は瞬の肩をたたいた。
しばらく祈ったあと、瞬は俺のほうを見て言った。
「賢治のデスクに気になる書類があった」
「書類?」
「あぁ。あの赤いファイルだよ」
瞬が指さしたファイルを開いてみる。
「......っ!」
ファイルの中には、捕らえたセルパンの顔写真と、そのセルパンを購入した人間の氏名、所在地などが記録されていた。
「そのファイル、念のため、持って帰ろーぜ」
瞬が言う。
「そうだな」
俺はうなずいた。
セルパンを支配している人間たちの情報だ。
今後なにかの役に立つかもしれない。




