91_【ナナ】運命の人
「俺の手の甲にお前の印が完全に出た」
「それはよかったわね」
あたしは賢治から目をそらした。
しばらく前から感じていた。
この男が来ると、ひどい恐怖を感じる。
これが「服従の印」の威力......。
あたしは賢治が死ぬまで、彼の奴隷だ。
彼に危害を加えることはおろか、逃げ出すことも出来ない。
「さっそくお前を家に連れ帰る!」
「嫌よ。行きたくない。ここのほうが良い......」
そう言いながらも、あたしは、賢治の言いなりになるしか無かった。
「おまえたちセルパンは食べ物を食べないし汗もかかないから、体は臭くないけど。
お前のきれいな肌が薄汚れてしまっている」
賢治はあたしの頬に触れた。
ゾッとして目を背けた。
「お願い。何でも願いを叶えてあげるから」
あたしは賢治に手を引っ張られながら、そう言った。
「おぉ!そうだったな。おいおい、願いも叶えてもらうからな」
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賢治の部屋に連れて行かれた。
賢治の部屋は要塞みたいな大きなビルの中にあった。
パパもママも、あたしがこんなところにいるなんて、きっと分からない。
もう絶体絶命だった。
「早瀬さん、日の出ふ頭の倉庫で問題が起きたみたいで」
早瀬の子分の一人が、部屋のドアを叩く。
「あとにしろ。誰も部屋に入れるな」
「しかし」
「いいから。あとにしろ」
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「やだ!離して!」
あたしは部屋で精一杯の抵抗をした。
だけど、結局なにもできない。
恐怖で体が動かない。
「お前の体をきれいに洗ってやりたいけど、そんな余裕はない。もう我慢の限界だ」
ベッドに押し倒された。
怖くて死にそうだった。
「お願い。やめて......」
こんな恐怖は感じたことがない。
目をぎゅっとつぶって、顔を背けた。
そのとき、男の声がした。
「おっさん、だいぶキモいぞ!」
若い人間の男だった。
金髪に染めた髪の毛が目立つ。
その子は、あたしから賢治を引きはがすと、賢治の横っ面を思い切り殴った。
「お前誰だ!どうやって入ってきた!」
賢治は慌てている。
「ドアの前の見張りならぐっすり寝てるよ」
「くそっ!」
「かかってこいよ。女にたかるウジ虫野郎」
男の子は賢治を挑発した。
「......てめぇ!」
賢治は、男の子に殴りかかる。
でも金髪の子は、その攻撃をラクラクと避けて、賢治のアゴに膝蹴りをした。
「ぐふっ」
男の子はさらに賢治の横っ面を思い切り殴る。
容赦なく何度も。
「もっとやって!」
あたしは思わず、その子に言った。
「あたしはもっと、何度もそいつに殴られたの!」
「よし!俺が仕返ししてやる。しっかりみとけ」
金髪の子は、仰向けに倒れた賢治に馬乗りになって、殴り続けた。
「おい!瞬。そこまでにしとけ」
また人間の男の子が現れた。
でも、その子はたぶん人間の肉体を持ってるけど、人間じゃない......。
あたしと同じセルパンだ。
彼は、人間に憑依してるんだろう。
あたしは金髪の子から目が離せなくなった。
「瞬?瞬っていうの?」
あたしは必死に彼のことを呼んだ。
「そうだよ。お前がナナか?ミーネの娘の?」
あたしは瞬の方にフラフラと歩いていった。
「瞬!ほんとにありがとう」
あたしは彼にギュッと抱きついた。
「大したことじゃねーよ。俺は暴れたかっただけ。危ないところだったな」
瞬は、あたしの頭をポンポンとやさしく撫でてくれた。




