89_ルートを守護するもの
レザールのいる拠点には、リザベルとグース。
ナナが囚われているであろう拠点には、ミーネと瞬、そして俺が行くことになった。
「ナナのいる拠点に行くのが、全員人間の肉体を持つものだという部分が気になる」
グースが考え込むように言った。
「弱ったセルパンたちを天界に運ぶときは、どうするのだ?」
「大丈夫よ。作戦のとき、あたしは憑依を解くわ。あたしの力なら一度に3人くらいなら天界に運べる。それにあんたたちも、終わり次第、こちらの拠点に飛んできてくれればいい」
「お前の中に、モトの人間の魂は残ってるのか?」
俺は気になっていたことをミーネに聞いた。
まさかミーネは、人間を殺して中に憑依しているのだろうか。
ミーネは道華の秘書の肉体に憑依したと言っていた。
「残ってるわ。あたしが抜けたら、彼女はなにも覚えてないでしょうね」
「女性が気の毒だ。早く、抜けてやったほうが良いと思う」
自分の肉体を好きに操られるなんて、最悪だろう。
「ルイたんはホント優しいわよね。その優しさ、危険よ?」
ミーネは俺に抱きついてきた。
「ちょっと!あたしのルイに触らないで」
リザベルが怒る。
「あらっ。リジーはルイたんのことが好きなのねぇ」
ミーネが嬉しそうに俺たちを見る。
「ルイを愛してるわ。それに彼はあたしの婚約者なの」
「えっ?でも洋平が好きなのは、北条有理だろ?」
瞬がキョトンとして尋ねる。
「あらっ?そうなの?ルイたん?そうなの?」
ミーネが口に手を当ててびっくりしている。
ミーネはしばらく天井を見つめたあと、ハッとした顔をした。
「そうなのね!だから、北条有理ちゃんの運命を変えたのね?
ルイたんは、彼女が人を殺して苦しむのを見たくなかったんだわ!」
「そうだ。俺は有理を愛している。
言っておくが、お前には絶対に有理の魂は渡さない」
「ほほぉーん。そういうことだったのねぇ。腑に落ちたわ。
有理ちゃんの魂はかなり極上なのよ。
でも、あたしが手に入れるのは無理そうね?
愛する女の魂は自分で食べるのね?」
食べるつもりはない。
有理が死ぬ前に、俺は灰になって、契約を無効にするんだ。
密かに心のなかでそう思った。
ミーネは俺の瞳をじっと見つめていた。
俺の考えを見透かしているのかもしれない。
「ああ。有理ちゃんの魂を食べたかったわ」
「ミーネ。お前、北条有理の魂を食らって
それ以上魔力をつけてどうするつもりだ」
グースが呆れている。
「いくらでも強くなりたいのよ。
あたしは、ルイたんのことが気に入ってるから、有理ちゃんの魂は諦める。
けど今後も、彼女の魂を狙うセルパンが現れるわよ。
もしかしたら、セルパン以外の魔物も狙ってくるかもしれない。気をつけなさい」
ミーネは俺に、ウィンクしながら不吉なことを言った。
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「ようへーい。ビール運んで」
カウンターから広子の呼ぶ声がした。
「分かった!」
俺はビールと皿に乗った料理をみんなに運んだ。
グースとリザベルは、飲んだり食べたりしないのだが注文しないと広子に悪い。
「あたしこの店、気に入ったわ」
ミーネが言う。
「また一人で来るかも。うん、きっと来るわ」
「俺は、ビール出してくれない店は無理だなぁ」
瞬が言う。
ギィイイというきしむような音を立てて、店の扉が開いた。
ルートだった。
ルートのやつ、夜の時間帯にも店に来ていたのか。
いつもの落ち着いた様子で、店の隅の席に座った。
やがて、ルートが歌いだすと、セルパンたちは黙り込んだ。
瞬でさえ、遠くを見るような目をしている。
唄が終わると、ミーネが大きな拍手を送った。
「すばらしいわ」
「今日は、洋平の仲間がたくさんいるんだな。
みんな悪魔だ。その子は人間だけど、どこか普通じゃないな」
ルートが俺たちのほうを見て言う。
「彼には千里眼があるようね」
ミーネがにやりと笑う。
ミーネは急に席を立った。
ルートのそばに行くのかと思ったのだが、驚いたことに、ミーネはシルクハットの方へと歩み寄った。
「あんたは.....あの人間の守護天使なのね?ご苦労さまだわ」
ミーネはシルクハットの肩をポンポンと叩いた。
「セルパンふぜいが、気安く私に話しかけるな!このバカ」
シルクハットがミーネの手を振り払う。
初めて聞いた彼の声だった。
子どものような声で、小声なのに店の中に響き渡るような、そんな不思議な声だった。
驚いた。
広子も、シルクハットの声を初めて聞いたのだろう。
ぎょっとした顔をしている。
「これだから、天使は嫌い。お高く止まっちゃってさ」
ミーネは肩をすくめながら、俺たちの席に戻ってきた。
シルクハットはルートの守護天使だったのか。
まったく気が付かなかった。
ルートは人間だけど、既に人間を超越した存在になりつつある。
シルクハットはルートが天寿を全うするまで、見守り続ける天界から派遣された天使ということか。
ルートはその死後、シルクハットと同じ天使か、神に近い存在になるのだろう。
やがて有理にも守護天使がつくのかもしれない。
そうなれば、俺は用無しだなぁ。
っていうか、その前に俺は灰になってるか。
そんなことを思い寂しくなった。




