84_【ナナ】レザールの印
「ナナ。お前は、俺が管理する」
賢治はそう宣言した。
他のセルパンのように、あたしを金持ちに売り飛ばさないみたいだ。
賢治に支配されるくらいなら、金持ちに売り飛ばされたかった。
「はやく服従したらどうなんだ」
賢治はいつもそう言いながら、あたしのことを叩いた。
「俺は女を痛めつけるのは嫌なんだ。
そういう趣味はないんだよ。
しかし暴力を振るわないと、お前を支配できない」
賢治は、たしかに暴力は苦手みたいだった。
あたしが痛がるとすぐに止める。
でも勘違いしてはいけない。
賢治はけっして優しいわけじゃない。
単に、臆病で小物なだけだ。
あたしは、この男の臆病で小物な部分も反吐が出るほど嫌いだった。
最初のとき以来、賢治に体をさわられることは無かった。
「お前に触れたいけど、触ったら止められないだろう。
お前が完全に俺に服従したら、俺の部屋でかわいがってやる。
ここじゃ、視線が多すぎるからな」
賢治はあたしの耳元でそんなことを囁いた。
あたしはいずれ、彼に完全に服従することになる。
そう思うと、心底ゾッとした。
あるとき賢治に聞かれた。
「お前、だれでも良いから知り合いのセルパンの印をひとつ教えろ」
「なぜ」
あたしは、賢治に殴られて頬を押さえていた。
殴られた痛みで、目に涙がたまる。
実体化した体にはもちろん痛みが伴う。
しかも魂の摂取をしていないので、回復が遅くなってきていた。
「なぜって、決まっているだろう。」
「罠にはめるの?」
「そうだ。お前の印だって、その斜め前にいるセルパンに聞いたんだ」
あたしの斜め前の檻には、まだ10代の子どもが閉じ込められていた。
きっと痛めつけられ、無理やり知っている印を言わされたんだろう。
あの子がなぜ、あたしの印を記憶していたのかは謎だけど、そんなのどうでもいい。
仕方がなかったのだろう。
恨んでもいなかった。
「これ以上、痛めつけられたくない。
ひとつだけ、知っている印があるの。教えるからもう殴らないで」
「素直だな。いい子だ」
早瀬は、あたしの頭をなでた。
ゾッとする。
やっぱり殴られたほうがマシだった。
あたしは、パパの、レザールの印を教えた。
賢治はパパの印を見ると驚いていた。
「ものすごく入り組んだ印だな。
これは誰のものなんだ。こんなに複雑なものはみたことがない。大物じゃないか」
「さぁ。偶然知った印よ......」
パパ。お願いだから早く助けに来て。
あたしは、もうすぐ賢治の支配下に置かれてしまう。




