81_清めの檻が並ぶ倉庫
(ここが敵の拠点なのか。
それにしても拠点が2箇所もあるとは、考えてもいなかった)
そこは港近くにある倉庫だった。
海の匂いがして、遠くには色とりどりのコンテナが見えた。
倉庫の前にはいくつものトラックが停められている。
ここにセルパンたちが閉じ込められているという。
道華は「頼んだわよ」と言い、車で去っていった。
俺と朝霧の二人だけだった。
倉庫の入口には、パイプ椅子に座った男がいて、スマホをいじっていた。
見張りだろう。
朝霧が小声で言う。
「あいつを眠らせてくれ」
「分かった」
俺はパイプ椅子の男に近づく。
男は気配に気がついて振り向こうとするが、
その前に、素早く男の首を締め、額に手を当てて昏睡の呪文を唱えた。
「寝たぞ。この奥か?」
「そうだ。監視カメラは切ってある」
--------------------------
廊下の突き当たりの扉を開ける。
目に飛び込んできた光景を見て、背筋が凍る思いをした。
長い廊下の両側には、清めの檻が並んでいた。
合計で8部屋あるだろうか。
閉じ込められたセルパンの目には生気がない。
みな座り込んでいるか、寝転がっていた。
人間で言うなら10代前半の子どもが5人もいた。
経験が浅いので、罠にかかってしまったのだろう。
(かわいそうに)
(一刻も早く助けなくては)
「この檻の鍵は?鍵は一体どこにあるんだ?」
朝霧に聞きながら、俺は清めの檻の鉄柵に触れた。
「......うっ!」
手が焼け焦げるような痛みを感じる。
なにかの結界が張られているのだろう。
「なぜ鍵のことを聞くんだ?
笹山さんに、言われてるんだよ。
あんたが変な動きをしたらすぐに報告するようにと」
朝霧はスマホをにぎりしめている。
すぐに道華につながるようになっているんだろう。
「俺自身が行方不明になったり、何かあっても、自動的に笹山さんに連絡が行くように手配できてるんだからな!」
朝霧は俺を睨みつけながら言う。
ようやく気づいた
道華は最初から最後まで俺を仲間に引き入れるつもりはないんだ。
ただ単に、俺をオモチャにするために「セルパン捕獲業者」をエサにして俺に近づいた。
だが今回は、俺に頼らざるを得なかった。
よほどの何かが起きているんだろう。
「あんたがやることは、そこの奥の檻に入ってるやつと会話することだろ?」
「分かってる。鍵がちゃんと安全な場所に保管されているのか気になっただけだ」
俺は言い訳した。
今すぐにでも子どもたちを解放したかったが難しい。
鍵の所在が分からない上に、檻には結界が張られていて触れることもかなわない。
その上、朝霧がすぐに連絡して仲間が駆けつけてしまう。
失敗に終わるどころか、敵をムダに警戒させてしまう結果に終わる。
そして一番、心配すべきこと。
もう一つの拠点に囚われているセルパンの安全が危うくなる。
俺はぐったりとして横になっている子どもたちにフランス語で声をかけた。
「俺はセルパンのルイだ。よく頑張っているね。あと少しの我慢だ。必ず助ける」
子どもたちは、ゆっくりと体を起こして俺の目をジッと見た。
朝霧が驚いて俺をつつく。
「今なんて言ったんだ!」
「罠にハマったマヌケな奴らめ!とののしったんだ」
俺はそう言って朝霧に笑いかけた。
-----------------------------
奥の檻に近づいた。
魂の摂取をせずにこの状況下、正気を保っていられるとは。
一体どんなセルパンなんだ。
道華は、そいつがなぜ、正気をたもっているのか。
その原因と逃げ出す可能性がどれくらいあるのかを探ってきて欲しい。
そう俺に命じた。
そのセルパンは檻の奥で逆立ちをしていた。
「おや、お客さんかな」
体操選手のような動きで、逆立ちからスッと立ち姿に戻った。
「あなたは」
そのセルパンの顔を見て、俺は驚いた。
見覚えがあったのだ。




