80_つらい選択
車の後部座席で俺は道華に痛めつけられていた。
顔を叩かれ乱暴にTシャツをまくり上げられる。
「......っ!」
道華は俺の胸に噛みついた。
この女は俺の体に傷をつけないと気がすまないのか。
体のあちこちに爪や歯を立てられ、唇も噛まれた。
「ルイ。服従の印が濃くなってきたわ。じきに完成するでしょうね。
あたしは今とても忙しいけれど、作戦が終わったらあなたを支配下におくつもり」
道華はクククと笑った。
「操り人形の完成か。だけど俺の心までは支配できない」
「いいえ。あなたは心から私を崇拝し始めるわ」
「絶対にそうは、ならない」
服従の印が完成するのは時間の問題のようだ。
もうすぐ俺は道華の奴隷となるだろう。
彼女のそばにいろと命令を受ければ離れることは不可能だ。
見えない檻に閉じ込められ逆らうことはできなくなる。
「もうすぐ着くわ」
道華は窓の外を見ると俺から離れた。
道華が離れてくれて心底ホッとする。
「いまから敵側にいるスパイに会わせる」
「スパイ......」
「敵側のスパイは、お金で買収したのだけど、もちろん普通の人間なのよ」
道華の話をぼんやりとした頭で聞く。
「スパイの話では、セルパンの一匹が魂を食べずに拷問を繰り返してずいぶん経つというのに弱っていないというの。清めの檻のなかでピンピンしてるそうなのよ。
その強情な一匹が万が一、檻から抜け出したら、拠点の場所が知られてしまい、天界からセルパンがたくさんやってきてしまう。そうなれば、私の計画も危うくなるわ」
道華はまるで虫けらのように、セルパンを「一匹」と数えた。
「あなたにやってもらいたいことはね......」
道華がイライラとした口調で言う。
「ちょっと、聞いてるの?」
俺は服を整えたあと、ぼんやりと外を眺めていた。
有理は大丈夫だろうか。
有理は怒っていた。
「さっきのこと、ショックだったみたいね?」
道華は俺の顔を乱暴につかむと自分のほうに向かせた。
頬を強く叩かれる。
道華に叩かれて我にかえった。
ようやく拠点を教えてもらえるんだ。
気持ちを切り替えなくてはいけない。
「ルイ、あの子のことよほど気になるのね?」
「別に。ただの遊び。どうでもいい相手だよ」
俺にとって有理が「特別な存在」だということを道華に知られたくなかった。
「ふうん。あの子、まるで男の子みたいだけど。ああいう子が好きなの?」
道華がバカにしたように言う。
「それに話し言葉が変だったわね」
道華の軽蔑したような言い方に怒りを感じた。
震える拳を体の後ろに隠した。
「いろんなタイプの人間の女を抱いてみたい。ただそれだけだ」
「それなら、無理やり抱けばいいじゃない」
道華がこともなげに言う。
「俺は道華とは違う。
そんなことより、敵の拠点でなにをすればいいんだ?」
「まず言っておくわ。拠点は2箇所あるの」
「なにっ!?」
「あなたが今から行くのは、そのうちの1箇所。
裏切ったりすればもう1箇所の拠点の仲間の安全は保証できない」
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俺は敵側のスパイに紹介された。
スパイは30代くらいの男だった。
「笹山さん、こんなガキがほんとに役立つんですか?」
俺を見て、その男は道華にそう言った。
「あんたの100倍は役に立つわよ。彼はセルパンなの」
道華は俺を指差すとそう言った。
「なんですって!このガキが?へぇ~!」
男は名前を朝霧だと名乗った。
「朝霧は偽名だよ?本名は秘密だ。あんたがセルパンなら、恐ろしくて言えない」
朝霧は俺にそう言った。
セルパンについての知識が一通りあるらしかった。




