78_卑劣さの証
「さっきまでバイトしてたんだよね?疲れてない?」
「大丈夫だよ」
有理は日曜日もときどきバイトをしているようだった。
「夜から用事があって今日は時間があまりないんだ」
俺がそう言うと、有理はビクッと肩を震わせた。
「時間がない。洋平、瞬間移動する?」
前回、俺が「時間がない」と言ったあと急に消えたのを覚えていたようだ。
「瞬間移動はしない......と思う」
「絶対に消えない。急に消えるの、怖い」
有理と俺は、朝のトレーニング場である河原に向かって歩いていた。
「洋平、静か。なぜだ!」
有理が不安そうに俺を見る。
有理にいよいよ真実を話す。
そう思って緊張していた。
だからつい、無口になってしまっていた。
「ごめん。河原についたら全部、事情を話すから」
そのときだった。
大きな黒い車が、有理と俺のそばにスッと停車した。
車のドアが開き、中から道華が現れる。
「道華」
鳥肌が立つのを感じた。
行動を見張られていたのだろうか。
思わず、有理の前に立ち彼女を道華から隠した。
「話があるの」
「今日は無理だ」
道華は視線を、有理のほうにうつした。
「彼女との予定があるから?」
「......」
「取引業者の拠点を教えようと思って来たのだけど。
あなた、知りたがっていたでしょう」
「またさんざん、いたぶった挙げ句、信頼できないって言うんじゃないのか」
俺は道華から拠点の場所を聞き出すのを、ほぼあきらめていた。
「取引業者の中に、スパイがいるんだけど。
そのスパイによると拠点で問題が起きてるようなの。セルパンのあなたしか、解決できない問題。
セルパンの一匹が全く力が弱らずにいて、脱走を試みているそうよ。
ミーネは別の作業に当たっていて、手が離せないの」
道華の口調はいつもと違い、少し焦りを含んでいた。
真実を言っているのか?
「洋平?意味がわからない」
後ろで有理が不安そうな声を出す。
「有理、大丈夫だ」
振り返って有理に笑いかける。
「それなら、今、この場で住所を言え。
教えてくれれば、すぐに問題解決に動く」
俺は道華をにらみつけた。
この女にもてあそばれるのは、もううんざりだった。
「いいわ。だけど、あなたをまだ信頼できてないのも正直なところなの。
あなたは住所を教えたとたん、仲間たちを解放してしまうかもしれない。
あなたに仕事を任せていいという安心感が欲しい」
「それじゃあ、俺はどうすればいいんだよ?」
「あなたが卑劣だと。
仲間を裏切ることができる卑劣さがあるという証がほしい」




