72_契約
俺は公園に戻ってきた。
公園は静かで、広場を照らす街灯が青白く光っている。
召喚されてから1時間くらいが経っていた。
有理はもう公園にいなかった。
久々に召喚された。
男の持っている魔導書に俺の印が載っていたようだ。
結局、さっきのアメリカ人とは契約不成立におわった。
「女房には、心からの謝罪をして少しずつ許してもらう。
誰かの才能を奪ってまで有名になりたくないし、そっちの願いも諦める」
そんなことを言われた。
おそらく軽い気持ちで俺を呼び出したんだろう。
魂の契約を取ることは出来なかったけど、男の善良さに触れて、
気持ちは明るかった。
「いや~、しかし。そろそろ契約を取らないとなぁ」
俺の魂の在庫は豊富とはいえない。
魂の在庫をすぐにでも増やしたいなら、人間に召喚されるのを待たなくてもいい。
欲望に餓えた人間をスコープで覗いて、探し出す。
見つけたら、その人間のところに行く。
そして人間をたぶらかす。
魔導書に自分の印が載っていないような、力のないセルパンはそんなふうにして魂の収集をしている。
むしろそっちのほうが多いのかもしれない。
あまりにも魂の在庫が減ってきたら、俺だって自分から動く必要がでてくるだろう。
でないと俺は弱っていき、やがて滅んでしまうのだ。
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そんなことより。
有理になんて言おう。
有理に電話をした。
「もしもし?」
「あっ!洋平!いまどこ?なにが起きた!すごく怖かった」
そうだった。
有理はただでさえ怖がりなのに、俺が消えてどんなに怖かっただろう。
「ごめん。怖がらせて。でもたいしたことじゃないんだ」
「えっ?洋平、消えたよ。意味がわからない」
「有理、家に無事ついてる?」
「うん。寝るところ。だけど怖くて眠れないんだ!」
「大丈夫。有理には何も起きない。安心して眠って」
「なんなのか。説明して。教えてほしい」
「電話じゃ難しいよ。今度、説明する」
「洋平、無事なんだね」
「無事だよ。明日また、朝会おう?」
「うん......でも怖いなぁ」
「大丈夫だよ。俺が保証する」
「うー......」
有理は不安そうな声をだしたあと、電話を切った。
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翌朝、駅で有理を待ち伏せしていると、彼女は小走りでやってきた。
「洋平がいる!よかった」
有理は興奮した様子で、俺の腕に触れる。
「ほんものだね?」
「急に消えたりしてごめん」
有理に謝る。
「それで昨日のことなんだけど......」
俺が言いかけると、
「大丈夫!あたし、分かったんだ!」
と有理が言い出した。
「えっ?分かったって。有理、どういうこと」
「うん。あたし、考えたよ。洋平は、超能力者だ」
「えっ?超能力者?」
予想しなかった有理の言葉に驚く。
「そうだ。洋平はあのとき瞬間移動した。
洋平は時間がないって言った。どこかへ行く用事があった」
「うーん。有理。たしかに瞬間移動なんだけど」
「やはり!ほかにもなにか、できる。
ものを動かす。人の心を読む?」
有理はハッとして俺を見ると、顔を赤くした。
「やめて!頭の中を覗かないで......」
と勝手に慌てだした。
「有理。俺に知られたくないこと、考えてるの?
なに考えてんだ?知りたくてたまらなくなってきたなぁ」
フザけて、有理の頭に手をかざしてみせた。
「やめて!無理だ」
有理は頭を抱えるようにして後ずさりした。
その顔は真剣そのものだった。
「はは!有理。可愛すぎ。心は読めないよ。安心して」
「ほんとに?」
有理は、ホッとしたような顔を俺に向けた。
「じゃあ洋平は瞬間移動だけ?」
有理がキラキラした目で俺の顔を見上げた。




