67_腹のさぐりあい
道華と二人きりになりたくない。
「大事な用事があるんだ。帰る」
立ち上がろうとした。
「これより大事なことなんてないわよね」
道華はそう言って、俺の腕をつかんだ。
真っ黒に塗られた道華のするどい爪が、俺の肌に食い込む。
なぜだろう。
(道華に従わなければいけない)
そう考える自分がいた。
「分かった。だけど早く終わらせてほしい
ほんとに大事な用なんだ」
椅子に座り直した。
有理に早く会いたかった。
みんながぞろぞろと部屋から出ていく。
ミーネは俺の方をちらっと見て投げキッスを送ってよこした。
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道華と会議室に二人きりになった。
心拍が早まり恐怖心が増す。
だが怖がっていては何も進まない。
とにかく敵の拠点を探り出さなければいけない。
拠点さえわかれば、セルペリオールに良い報告ができ、
俺の煉獄行きはまぬがれるのだ。
「道華.....そういえばさ。敵の拠点、つまりセルパンが捕獲されてる場所ってどこなの」
なにげない雰囲気を装って尋ねた。
「なぜ今、知りたいの?」
「べつに。深い意味はないよ」
「......」
「道華はどうして?」
「えっ?」
「どうして住所を隠すんだよ?
いずれ知るんだから教えてくれてもいいと思うんだけど」
そう尋ねると、彼女は俺から視線を外した。
「もしかして俺が裏切るって思ってる?」
道華は席を立つと窓のそばに行った。
外の風景を黙って眺めている。
「こっちに来なさい。教えてあげるわ」
彼女が手招きした。
椅子から立ち上がり道華のそばに行く。
「業者の拠点はね......」
道華は窓の外を指さした。
「えっ?どこ」
俺は目を細めた。
突然、後頭部を強く叩かれ、俺は窓ガラスに額をぶつける。
ガン!と派手な音がした。
完全に油断していた。
「っ!なにするんだよ」
「拷問から逃げるとき、私に頭突きしたわよね?そのお返しよ」
さらに俺を叩こうとして、道華が手を振り上げる。
その手首を、キャッチしてつかんだ。
冷や汗をかきながらも、強めに握りしめる。
そうだ。
俺は拷問から逃げ出すときに道華に頭突きをしたじゃないか。
あのときは攻撃できた。
それなのに、今は体が言うことを聞かない。
清めの檻の外でも、道華のそばにいればいるほど服従の印は徐々に効力を増してくるのではないか。
そんな嫌な予感がした。
このままでは完全に支配される?
反撃しなくては。
「いい加減にしろ。俺には武術の心得がある」
そう言って拳を道華に見せた。
「不満なら仲間から抜ければ良いわ。
それにあたしに暴力を振るったりすれば、当然、仲間から外すわよ」
手首を掴まれたまま、道華は残忍な笑いを浮かべる。
なぜか俺が絶対に抜けないと確信しているようだった。
道華に手を上げれば、セルパン捕獲の場所がつかめなくなる。
言いなりになるしか無い。
振り上げた拳をおろし、握っていた道華の手首を離した。
「......分かった。黙って言うことを聞く。
もういい?俺は帰る」
道華は自由になった手で俺を殴ろうとした。
平手ではなく、拳だった。
俺は条件反射的に、その拳を腕でガードした。
「......!」
腕から血が流れた。
彼女がしている中指の指輪には、小さなナイフが仕込まれていたようだ。
その指輪で腕を切られた。
動脈ではないが、傷は深い。
ポタポタと血が床に落ち、絨毯に吸い込まれていく。
「俺は、痛いのは好きじゃないと言ったはずだ」
腕の血を止めながら道華のほうを見る。
「あたしも前回、言ったはずよ?
痛みには慣れるし、仲間に入るなら抵抗や防御はしないことって」
道華は俺の首を絞めながら、詰め寄ってきた。
そのまま、会議のテーブルの上に押し倒された。




