65_テンション下がる
「川田くん。ちょっと来て!急ぎの用があるんだよ」
「えっ?」
放課後、2~3人の女に腕を引っ張られて、北校舎の裏に連れ込まれた。
「なんの用?」
北校舎の裏側では、一人の女が俺を待ち構えていた。
「川田くん!好きです。付き合って」
突然告白された。
周りを見回すと他の女たちは消えていた。
ものすごいチームワークだ。手際が良い。
誰だっけ?と思いながら話した。
人間に憑依したての頃は、いちいちみんなのフルネームを聞いていたけど、最近ではそれも止めていた。
よほど、敵意がありそうな相手なら、やっぱり氏名は聞いておきたいけど。
人間界になじんできていた。
そろそろ、人間に憑依して3か月が経とうとしていた。
「俺は、有理が好きなんだ。北条有理って言って同じクラスの子なんだけど......」
「知ってる。それ有名だもん。でも北条さんは川田くんのこと、好きじゃないんでしょ?」
ひどい......。
そんなにはっきりと言わなくてもいいじゃないか。
「う~ん。嫌われては、いないと思うんだけどね」
頭をかきながら自分自身をフォローする。
今月に入って何人かの子とこんなやりとりをしていた。
川田洋平の容姿は、かなり人気みたいだった。
太っている頃は、誰も見向きもしなかったのになぁ。
「川田くん、ナイショなんだけどね。北条さんは女の子が好きっていう噂があるんだよ。いつも森さんと一緒にいるでしょ?」
「森さん?あぁ、陽子か。有理の友達だよ?」
「森さんは、北条さんのこと好きなんだよ。中学の頃からね。
LIKEじゃないよ?LOVEのほう」
「えっ?LOVEって、愛してるってこと?陽子が有理を?」
「そうだよ!北条さんと森さんは......その......レズじゃないかってみんな言ってる。
だから、川田くんが北条さんをいくら好きでも無理だと思う」
「レズ......レズビアンってこと?う~ん。陽子と有理が。
仮にそうだとしたら、陽子は俺のライバルってことになるけど」
首をかしげながら答えた。
「普通だったら、川田くんみたいなかっこいい人に告白されたらすぐに付き合うよ?それが、見向きもされないんでしょ?レズだからだよ!」
「見向きもされないって.....へこむんだけど」
「ごめんごめん!とにかく北条さんはレズだから、いくら頑張っても無理だと思う。このままじゃ川田くんがちょっと可哀想だなって思って」
「でもそれって噂だよね?事実とは限らないし」
「それなら、北条さん本人に聞いてみなよ!きっと認めるから」
そんな話をその子としたのだった。
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噂なんかに惑わされてはいけない。
だけど、実際のところ気になる噂ではあった。
陽子は確かに有理のことを大切に思っている。
陽子が同性愛者なのかと言われたら、判断がつかなかった。
もしそうだとしても、それは個人の自由だけど。
有理はどうなんだろう。
有理の魂の美しさなら知り尽くしている。
だけど有理の性的嗜好まで、俺は知らなかった。
魂が美しい同性愛者は、実際たくさんいる。
むしろ魂が美しい人間のほうが、性別の壁を気にせずに相手を愛することができる。
前に「ルイが好きだ」と言っていた。
だけどそう言えば、最近はそれも言わなくなったよな。
有理が女性を愛することに目覚めていたらどうしよう。
男よりも女のほうが好きだ。
そんなふうに考えていたら?
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陽子が朝寝坊することが多くなった。
俺と有理は、陽子がいないので毎朝二人きりで登校することが増えた。
「陽子はどうしたんだろう。急に朝に弱くなったのかな」
俺がそう言うと、有理は黙って首を傾げていた。
「そういえばさ。この間、有理のバイト先に行けなくて残念だった。
今日、行っても良い?」
「いいけど。普通のカフェだよ?」
「有理の働いている姿が見たいんだよ!」
「えっ、なんだか緊張するじゃん」
「いろんな種類、たくさん注文して困らせちゃおうかな」
「えっ。そんな。やめてよ~?」
有理が焦った顔をしていた。
どうしてだか俺は有理を困らせたり、からかったりするのが楽しかった。
放課後になった。
有理のカフェには、陽子も一緒に行くことになっていた。
「あそこのミルクレープ、最強だから!」
「俺はコーヒーだけでいいんだけど」
「お前、一度食べてみろって」
有理のカフェでコーヒーを飲みながら、陽子に聞いてみようかな。
俺はそんなことをチラッと考えた。
「有理のことを愛してるのか?」って。
こんな聞き方は、重すぎるか。
そうだ。
「お前ら、付き合ってんの?」って軽い感じで聞くほうが良いかも。
陽子がケロッとした顔で「うん、付き合ってる」なんて言ったらどうしよう。
もう立ち直れない。
悶々としながら、歩いていると、スマホが鳴った。
「もしもし?」
「ルイ?さっきから何度もかけていたのよ。
いい?今後あたしからの電話は一度で出なさい。さもないと......」
一気にテンションが下がる。
道華からの電話だった。
「授業中だったりするんだから、仕方がないだろ。
それで何の用だよ」
「ビジネスの話。打ち合わせたいことがあるから、送った地図の場所に来なさい。ミーネも来るわ」
「分かった。けど寺なら行きたくない」
「寺じゃないわ。すぐに来なさい」
また道華の邪魔が入った。
「洋平?」
有理が心配そうに俺をみあげている。
「有理、今日はバイト、何時まで?」
「えっと。20時までだよ」
「それまでには行けると思う。
陽子、俺はちょっと用事を済ませてから行くことにする」
「洋平、最近忙しいなー」
陽子は呆れたような顔をした。
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道華の送ってきた地図の場所についた。
ビルの34階まで上がって来いということだった。
エレベーターに乗る。
ふと前回、道華にエレベーターの中でされたことを思い出し、身がすくむ。
壁に押し付けられ、無理やりディープキスをされた。
怯えたり嫌がると、道華はますます興奮するようだった。
道華に触られると恐怖でなにもできなくなる。
不完全な服従の印だけど、実はけっこうな効力があるのだ。
そのことを道華にバレないようにしなければいけない。
バレれば、あの女はきっと、もっとひどいことをしてくるだろう。




