61_服従の印
「今、国内で確認できるセルパンの捕獲業者はひとつだけなの。
そこをつぶして、ウチの寺が日本唯一のセルパン取引の窓口になりたい」
「俺に何をさせたいんだ?それともこれもワナなのか?」
「あたし、すっかりあなたの信頼を失っているみたいね。
あなたにビジネスのパートナーになってほしいのよ」
「ビジネス?」
「業者をつぶす方法は考えてあるの。協力してくれると約束するなら報酬は500万よ」
やはり道華はセルパン捕獲業者についての情報を持っている。
焦らず、少しずつ核心に近づかなければ。
「その......囚えられているセルパンは、売られて、全国のあちこちに散らばっているのか?」
もしも全国に散らばっているのなら、救出作戦は難しくなる。
「いいえ。敵側から買収したスパイによれば、
売却したセルパンは、売却後もほぼ全員、捕獲業者が一括管理していると聞いているわ。おそらく売却済みの札でもかけられて、ときどき来る金持ちの願いを叶えているんでしょうね」
道華はコーヒーを飲みながら目を細めた。
「権力者や金持ちがよほど、そのセルパンの容姿を気に入れば、オモチャとして連れて帰ることもあるみたいだけど。ほとんどは、業者に管理も任せているそうよ」
なるほど。セルパンは一箇所にまとめて幽閉されている。
であれば、救出は簡単だ。
あとは住所が知りたい。
少しずつ情報をもらおう。
俺はいくつかの疑問点を道華にぶつけることにした。
「セルパン捕獲の商売って言うけど、そんなことが商売になるのか?」
「なぜ?とても儲かる商売になるに決まっているでしょう?
セルパンは願いを叶えてくれるのだから」
「だが、願いを叶えるには召喚が必要だ。
清めの檻のなかでは、召喚も不可能になるし。
それに願いは一人に付き1回。しかも叶えたあとは、人間のほうは記憶を失う」
道華は俺の言葉を聞き、少し驚いた顔をした。
俺は気にせず、疑問をぶつけた。
「囚えられたセルパンは、一体どういうふうに利用されるんだ?」
「あなた、何も知らないのね」
道華はため息を付いた。
「知らないって、どういうことだよ」
「200年も生きていて......まさか、服従の印をしらないとは」
「服従の印......?」
「清めの檻に入れられて、魂を食べることもできずに時間が経つと、やがてセルパンは、ひとりの人間に服従するようになるのよ」
「えっ?そんな話、聞いたことない」
「服従の印で結ばれた主人に対して、セルパンは召喚なしで願いを叶えてくれるのよ!もちろん実現可能な願いだけだけど。人間の方が記憶を失うこともない」
「願いの回数は?いくらでも叶えるのか?」
「無制限ではないでしょうね。願いを叶えるとセルパンは消耗する。長持ちさせたいなら、ここぞというときにだけ、使うことになるんじゃない」
道華はこちらをじっと見ながら、言った。
「セルパンは一人の人間と服従の印で結ばれ、他の人間には召喚不可能になる。
完全に主人専用の奴隷になるのよ!」
道華は興奮した様子で、そう話した。
「......」
衝撃のあまり、言葉が出なかった。
そんな話は聞いたことがなかった。
だが実際に捕獲の商売が成り立っているのだ。
この話は真実なのだろう。
「セルパンは、一体、どの人間に服従するんだ?
自分を檻に閉じ込めた人間にか?」
「セルパンは清めの檻のなかで、暴力を振るってくる人間に服従するのよ」
道華はなぜか、俺の目をじっとみて微笑んだ。
「セルパンが完全に服従すると、そのあかしに人間側の左手の甲に印が浮かぶ」
道華は俺の目を見つめながら、意味ありげに自分の左手の甲をさすった。
「契約のアザではなく印が?」
胸の中がざわつく。
「そうよ。単なる契約のアザではなく、支配したセルパンが持つ固有の印が人間の手の甲に浮かぶの。それを服従の印と呼ぶ」
「あなたの印は蛇がモチーフになっているのね。ということは、あなたは呪術に蛇を使う。それってとても珍しいんじゃない?
そして印はとても複雑なつくり。つまりあなたは、能力の高いセルパンということ。
これだけ複雑な印の持ち主を閉じ込めて拷問できたのは、運が良かったと言える」
道華は自分の手の甲をゆっくりと撫でながら言った。
その言葉に俺は思わず、息を呑んだ。
「俺の印が......まさか」
道華は、ゆっくりと自分の左手の甲をテーブルに乗せ、俺に見せた。
「そんなっ......」
心臓がドキドキと暴れ狂う。
額には冷や汗が浮かんだ。
まずい。
俺は道華と服従の印で結ばれてしまった?
そんな、まさか。
たしかに俺は、清めの檻で道華に拷問された。
しかしほんの数時間だけだ。
あの短時間で印が結ばれてしまうなんて有り得るのか。
だけど、あのとき魂の摂取もできておらず、体が弱っていたのは確かだった。
それにくわえ、道華の拷問は苛烈だった。
怖くて道華の手を、まともに見ることができない。
だが確かめければ。
覚悟を決めて道華の手の甲に目をやる。
道華の手の甲にはうっすら、紫色のアザが浮かんでいた。
俺の印をあらわす蛇が見えた。




