6_憑依失敗
「川田くん怖がってる。笹山からお金を返してもらう!」
有理は洋平に詰め寄る。
「北条、ほっといてくれよ」
川田洋平。
せっかく有理という天使が手を差し伸べているのに、
なぜお前は、その手を振り払う?
「なぁ~北条、こんなヤツほっとけって。
このあとヒマだろ?俺ん家で遊ばね?」
道元は有理の髪に触れた。
「遊ばない」
有理は髪に触れる道元の手を振り払う。
「笹山!お金を返せ」
道元は構わず有理に触れようとする。
この男は、有理に惚れているのかもしれない。
「笹山。さわらない。いやだ」
有理は道元の手をうるさそうに振り払った。
「ふん。北条が遊んでくれないなら帰るかな。
さっ!帰ろう」
道元は取り巻きに声をかけ、階段を降りようとする。
「笹山。お金は?返す」
(そろそろか!)
俺は身構える。
すぐに憑依できるように道元の近くで待機していた。
有理が道元の肩のあたりを押すのが見えた。
道元は、肩を押されて足を滑らせる。
まるでスローモーションだった。
人間に憑依するのは、初めてだ。
その方法はマーヤから聞いたり、古文書を読み漁ることで頭に入れてきた。
だが俺にとって初めての行為。
一歩間違えると、何がおきるのかわからない。
俺は緊張していた。
あまりに緊張しすぎて、実体に変化しかけるという間違いを犯してしまった。
セルパンのままであれば、俺は実体がない。
人間は俺の肉体をスルリと素通りしてしまう。
しかし実体化すると、俺の体は人間からも見えるし、触れ合う事もできてしまう。
緊張のあまり俺は、自分の体を一瞬だけ実体化させてしまった。
ほんの一瞬だけだったので、目に見えるほどではなかったのだが。
だが有理に押されてバランスを崩し、階段から転げ落ちるはずの道元を
俺の実体が、支える形になってしまった。
「うっ?なんかいま......」
道元は自分を支えたものがなんなのか、後ろを振り返るが、なにもない。
首をひねっている。
「おい!北条、あぶねーじゃねーか。
階段で押すなんて」
道元は仰向けに倒れずに、俺に支えられ命を取り止めた。
有理は道元を殺す運命からまぬがれた。
しかし......運命は変えられない。
純白で強力なパワーを持つ有理の魂は、この場の誰よりも運命を左右する力が強かった。
つまり有理は「誰かを殺す」運命を背負い続けていた。
「北条、もう止めてくれよ」
洋平が有理の腕をつかみ引っ張る。
ふいに腕を掴まれた有理はびっくりして振り向く。
足の悪い有理はバランスを崩して、後ろに倒れかかる。
洋平もそれにつられて、前につんのめる。
有理は近くにあった手すりを支えにして体勢を立て直すが、
洋平は、有理に引っ張られて、階段を転げ落ちる。
そして、頭部を強打する。
「うっ」
洋平のうめき声。
「か、川田くん?川田くん?」
有理の声。
「おい!行こうぜ......」
取り巻きの一人、犬山が道元の腕を引っ張る。
「そ、そうだな」
道元とその取り巻きは、気を失った洋平を見て嫌な予感がしたのか、逃げていく。
階段には死亡した洋平と、青ざめる有理。
そして、セルパンの俺だけがとり残された。




