5_動かせない運命
有理の運命が変わってしまう日。
その日がとうとうやってきた。
今日、俺は人間に憑依するつもりだ。
(そろそろだな)
スコープを通して有理を見張っていた。
有理は忘れ物をして、教室に取りに行く。
ひとけのない夕方の学校では、クラスメイトたちが同級生をいじめている。
正義感の強い有理は、その同級生の一人につかみかかる。
同級生はバランスを崩し、頭を打つ。
有理はこの日、人を殺してしまう運命だった。
有理が教室に忘れ物をしなくても。
俺が有理を、足止めしたとしても。
いじめが起きていなくても。
学校がこの世に存在しなかったとしても。
運命のゴールは必ず同じ場所に用意されている。
たとえ、その道順が多少違っても、必ず同じゴールに向かう。
つまり、俺が何をしても、有理はこの日、人間を一人を殺す運命にあった。
このような決定的な運命を変えるのは、不可能に近い。
マーヤの占いによると、有理は人を殺したことを背負い、一生を苦しみと闇の中で過ごすということだった。
殺人ではなく事故だとしても同じ。
人を殺したという事実は、有理を傷つけ、むしばみ続ける。
有理はこの日、人を一人殺す。
その運命を変えることはできない。
だとしたら俺にできることはひとつ。
死んだ人間を生き返らせることだった。
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「あっ!体操着。教室だ。取りに行く」
有理は友だちにそう告げる。
「明日で良いんじゃね?」
「洗濯したい。取ってくる」
有理は友だちに手を振る。
「また明日」
そして校舎の階段を登る。
俺は人間界に降りていた。
セルパンの姿、つまり人間からは見えない姿で、俺は有理のあとを追いかけた。
階段の途中で、有理はクラスメイトに出会う。
「お前、今日のお布施は?」
「......」
笹山 道元が、川田洋平に迫っていた。
「今日はこれしかなくって」
いじめられっ子である洋平は、震える手で5000円札を道元に渡す。
道元の家は寺で、親は俺の天敵である仏教徒の僧侶だった。
だからか?
道元はいじめられっ子から金を没収するとき「お布施」という言葉を使った。
「なにしてる。ダメだ!」
有理が階段を登りながら言う。
「あれっ、北条じゃん。俺たち、みんなで喋ってるだけだけど?」
「いまお金を取った!川田くんから」
「川田が、俺にくれるっていうからさ。
うちの寺のファンらしい。お布施だって。だよな、川田?」
「う......うん」
洋平は弱々しくうなずく。
道元はこの後、有理に突き飛ばされ、階段を転げ落ちて死ぬ運命だった。
俺は死んだ直後の道元の体に憑依する。
そう。
俺はこのいけすかない、道元に憑依しなければならない。
しかも家はバリバリの仏教徒、神明宗の寺で父親は厳格な僧侶だった。
いくら人間に乗り移ったとしても、俺は悪しき存在。
寺の家でやっていけるか、不安だ。
でもやるしかない。
選択肢はこれしかない。
有理は道元を殺すことで「殺人を犯す」という運命をまっとうする。
でも俺が道元の体にのりうつることで、道元の体は生きかえる。
死んだことにはならない。
実際には魂が抜けて死んでいるんだけど。
俺は道元の体に憑依することで、有理が人殺しにならないようにしたかった。
彼女が苦しむ姿を見たくなかった。
道元の体には数か月でも我慢して憑依していれば良い。
しばらくしたら抜け出る。
そうすれば有理は罪の意識に苦しむことは無くなる。
そんなストーリーを描いていた。
そのときまでは




