56_川田洋平と道元の過去
「そんな。川田は死んでるのか」
「そうだ。川田洋平は死んだ。俺のせいだ」
「このやろう!」
道元は俺を何発か殴った。
「ばか!もうやめとけ!」
瞬が道元の腕をつかんで、止めた。
「よくわかんないんだけど、洋平は、洋平を殺して洋平の中に入ったんだな?」
瞬が言った。
「あれっ?余計ややこしい。お前の本当の名前ってセルパン?」
「いや。ルイだ」
「ルイが、洋平を殺して、洋平の中に入った」
「そういうことになる」
「川田の魂を、もう一度返せ」
道元は俺をまた殴り始めた。
道元は、ゆかりと同じことを言う。
ゆかりも
「お兄ちゃんを返せ」と俺に迫った。
道元は川田洋平をいじめていたが、実は好きだったのだろうか。
「もう殴るなって。とりあえずルイの話を聞かないと!」
瞬は俺をさらに殴ろうとする道元の手をつかんだ。
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「なに?本当は俺が死ぬはずだった?」
「そうだ。覚えているか、有理に押されて階段から落ちそうになったのを」
「そうだ。あのとき、何かが俺を支えた......」
道元はアゴをさすりながら、あのときのことを思い出していた。
俺は瞬と道元に説明した。
有理を人殺しにしないために、人間に憑依したこと。
それが俺のミスで、道元は生き、川田が死ぬことになってしまったこと。
「要するに川田は俺の身代わりで死んだのか」
道元は黙り込んだ。
「俺のミスだ。俺が運命に介入してしまった」
「少しややこしいけど、だんだん理解できてきたような気がする。
俺はお前らと違って進学校じゃねえから、頭わりぃんだけどな」
瞬が首をかしげながら言った。
「川田はもう戻ってこないのか?」
「戻ってこない」
「そんな」
道元は馬乗りになっていた俺の上から降りると、体育座りになった。
そして、頭を抱え込む。
「道元」
「ちょっと放っておいてくれ」
道元の肩は震えていた。
泣いているのかもしれない。
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道元が黙り込んでいるあいだ、瞬が俺に話しかけてきた。
「ルイは、異常なほど北条有理が好きなんだな?」
「好きというよりも愛してる」
「北条有理とは、もうやったのか?一回やると、気持ちが落ち着くよな?」
「やるってなにをだよ」
「はぁ?セックスに決まってんだろ」
瞬は軽薄なことを言う。
「肉欲か。たしかにそういう気持ちもあるけど、有理のことが大事だし」
「なんだそれ。肉欲って」
瞬はなぜだかゲラゲラと笑った。
「俺の愛は深いんだ。人間にはわからないだろうな」
「へぇ。わっかんないな。この話やーめたー」
瞬は呆れたような声を出した。
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「俺は川田をイジメていた。だけど、小学校までは友達だったんだ」
道元がポツリと口を開いた。
「そうだったな。お前ら昔は、仲良かった」
瞬がそう言って、うなずいた。
「仲良かった?どうして洋平をイジメるようなことになったんだ?」
道元に尋ねた。
「川田が俺を裏切ったからだ......」
道元は赤い目をしていた。
泣いたのだろう。
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小学校のある時期まで、洋平と道元は仲が良かった。
だが、道元が瞬のような不良と絡んだり、悪いことをするようになると、洋平は道元から離れようとした。
やがて、洋平は、学校の先生に道元の万引きを密告する。
そのことで、道元と洋平の中にミゾが出来てしまったということだった。
「そんなことで?」
俺は呆れた。
「ずっと友達でいようって誓いあった仲だったんだ。だから悔しくて」
「でも、このままイジメ続けるのは良くないって分かってた。
謝りたかった。いつもイジメたあと、後悔してたんだ!
最期にひとこと、謝りたかった......」
「追い打ちをかけるようで悪いが、洋平は自殺を考えていたらしい」
「えっ......そんな。俺のせいか?」
「両親は家にいないし、洋平は孤独だったみたいだ。
道元のせいだけとは限らない。それにどの程度本気だったのかも、分からないけど、自殺を計画していたのはホントみたいだ」
「そんな」
道元の手は震えていた。




