54_有理は怖がり
せまいゲーム機のなかで、有理を抱きしめて髪を撫でた。
「びっくり。大きいよ!ゲームの音」
有理が身をよじって俺の腕から離れたがったので、しぶしぶ離した。
「有理、うひゃあああって、すごい声出して驚いてたね」
大げさに言った。
「うそだ!あたし、そんな声。違う」
「出してたよ」
有理をからかって、いじめた。
暗闇に目が慣れてきていた。
有理が慌てた表情をしているのが分かった。
めちゃくちゃかわいい。
再びゲームの機械から、今度は男の叫び声がした。
有理はビクッと肩を震わせたが、残念ながらもう俺に抱きついたりしなかった。
人間の断末魔の声はこんなものではない。
死を予感した人間が出す声は、叫ぶと言うよりは絞り出るような声だ。
だから俺には、ゲーム機の音は動物の鳴き声くらいにしか思えなかった。
だが、有理はビクビクしていた。
「ほんとに怖がりなんだね」
有理の両肩をつかんで、顔をのぞき込んだ。
有理は俺から顔を背けて、目をそらした。
「有理はいつもそうやって、目をそらすね。どうして?」
ちょっとかわいそうだけど、有理の両肩をつかんで、俺から逃げないようにしたまま聞いた。
「見られると、恥ずかしい。自信ない」
「自信がない?」
「可愛くない。男みたいだ。ガリガリだ。髪も短い」
「そんなことない」
有理の短い髪に触れる。
「俺はこの髪、好きだな。すごく可愛い」
「それがおかしい。なんで言うの?可愛いって。
洋平は慣れている。だから怖い」
有理は、斜め下に視線を向けたままそんなことを言った。
「慣れてなんかない。ドキドキしてる」
有理の手を自分の心臓に持ってきた。
本当にドキドキしているのを知ってほしかった。
有理は俺の手を振り払った。
「うわっ!ダメだ!もう無理だ!外に出よう?次の人待ってる!」
有理は急に大声を出して、機械の外に出た。
外には誰も順番待ちをしていなかったが.......。
いい雰囲気だと思った。
だけど有理は、嫌だったみたいだ。
正直言って落ち込んだ。
陽子とゲームをしていた典明が意味ありげに、こちらを見ていた。
俺は首を横に振ってみせた。
典明は残念そうな顔をしたが、ガッツポーズをしていた。
もっと頑張れということだろう。
そのあと4人でバレーボールや卓球をした。
俺は運動神経は良い方だから、すぐにコツは覚えた。
バレーボールでは陽子が俺に向けて、鋭いボールを打ってきた。
「ホラ!ドMチャラ男、顔で受けるんだ」
「俺はドMじゃない!」
ドMの意味は、典明に教えてもらった。
陽子のボールを俺は、額で打ち返した。
「マジで顔で打ち返してきた!」
陽子は大笑いした。
「今の洋平、すごかったよねぇ!」
典明も俺を指さして大笑いした。
有理も笑っていた。
最後にみんなで、小さな写真を撮った。
その写真はいつも、どこに行くにも持ち歩いている。
俺の宝物だ。




