47_瞬
痛みのせいで吐きそうだった。
意識が遠のく。
「あら、気を失わないでね。つまらないから」
道華はそういいながら、ふたたびムチを振り上げた。
「かわいいわ」
道華が俺のアゴをぐいっと引き、自分のほうに無理やり向かせた。
「お前はセルパンで間違いないわね。
普通の高校生がここまで耐えられるはずがない。
お前をウチで飼うことにする。
手放すなんて、もうできそうにない」
道華は俺のズボンのベルトを外した。
ズボンを下ろされる。
今までの拷問は前戯のようなものだったのか。
これから始まる道華の暴力を思うと残っていた気力が消えていくのを感じた。
意識がもうろうとする。
気を失ったほうが良いのかもしれない。
道華が俺の首筋にキスをしたあと、強く噛む。
その痛みで意識を引き戻されてしまう。
そのときだった。
清めの檻の外側に、瞬が立っているのが見えた。
ヤツは、唇に指を当てて「シッ」と合図した。
道華に怪しまれないように、瞬から視線をゆっくりと外す。
そして道華に懇願するような目を向けた。
「フー、フー」
と激しい息を漏らし、会話したいのだと合図をおくる。
「なにか言いたいのね。服従する気になったの?」
首を縦に振った。
「良い子ね」
道華が俺の髪をなでる。
道華は、猿ぐつわを外しにかかった。
俺は、猿ぐつわを外そうと近づいた道華の頭めがけて、思い切り頭突きをした。
「くっ!」
道華は、衝撃で後ろに尻餅をつく。
その瞬間を狙って、瞬が清めの檻に入ってきた。
瞬は道華の腕の関節を決め、隣の清めの檻にぶちこんだ。
そして出られないように外から、鍵をかける。
「すごい線香の匂いだな。それに変な文字が壁一面に書かれている」
瞬はキョロキョロと清めの檻の中をみまわした。
「雰囲気ばつぐんの中で、お前SMプレイをしてたんだな」
瞬がハハッと笑いながら、俺の手かせ、足かせを外してくれた。
猿ぐつわを自分で外した。
「SMプレイってなんだ?」
口の中にずっとボールが入っていたので、アゴがガクガクする。
拘束されていた手首が赤く腫れ上がっていた。
道華に脱がされたズボンを穿き、引き裂かれた下着やシャツをなんとか整える。
ひどいありさまだ。
傷は痛むが致命傷は無さそうだった。
「ボロボロだな。お前ほど強いヤツがどうしてこうなった」
「人質を取られたんだ」
瞬は自分の着ている上着を脱いで、俺の肩にかけてくれた。
あとから聞いた話だが、瞬は、陽子から連絡をもらったらしい。
「洋平はどこだ?」
陽子は瞬にそう聞いた。
瞬は、道元が最近何かを計画しているのに気づいていた。
道元は、
「川田洋平は魔物に憑依されている」
などと仲間たちに言って回っていたらしい。
「寺で除霊をする」
とも言っていたそうだ。
それで念のため俺が捕らえられていないか、寺に見に来てくれたのだった。
「寺に拷問部屋があるのは、幼いころ忍び込んで知っていたんだ」
まさかとは思ったけど来てよかった。
楽しんでいたんなら邪魔して悪いけど」
「楽しくは無かったよ」
「走れるか」
「走ろう」
隣の檻から、道華がこちらを見る。
「川田洋平。続きはまた今度ね」
「道元の姉、道華だな。久しぶりに見た」
瞬は、道華をちらっと見て、不快そうな顔をした。
「小さい頃、あいつに何度かぶたれた。
動物をいじめているのも見たことがある」
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俺と瞬は、寺を抜け出した。
外はもう、暗くなっていた。
「ありがとう。マジで助かった」
俺は、走りながら瞬に礼を言った。
安全な場所まで逃げて、一息つく。
「寺には近づくなって言ったよな?」
「仕方なかったんだよ。
そうだ。電話をかけさせてくれ」
有理に電話をした。
だが出ない。
続いて陽子に電話をすると、すぐに出てくれた。
「お前、どこ行ってたんだよ?何度も電話したんだけどな」
「そうなのか?有理は?有理はどうなった」
有理の無事だけ確かめたかった。
「それが不思議なんだ。夜になって、有理はショッピングモールで気を失っているところを発見された。あたしたちが探したときは、いなかったのに」
「そうか。それで無事なんだな?」
「念のため、お母さんと病院に行ったみたいだけど。元気そうだよ」
良かった。
「おい!もしもしっ?」
陽子の声が聞こえたが、俺は電話を切った。




