43_典明の助言
「ここは、一旦引くべきだと思う」
典明のメガネがキラリと光った。
放課後だった。
人気のない教室で、俺と典明は向かい合って話していた。
「引くってどういうことだ」
「このサイトに書いてある」
典明は、タブレットと呼ばれる画面を俺に見せた。
<押してダメなら引いてみよう!彼女の心をつかむ方法>
そんな文字が目に飛び込んできた。
「彼女の心をつかむ方法......だと」
俺は典明からタブレットを奪うと、食い入るように画面を見つめた。
「ぐいぐいと押しすぎるとダメらしい」
典明は、深刻そうな表情で言った。
「洋平の今の行動は、押しすぎなんだと思う」
「だけど、ここに書いてある引くという術は、俺には難しそうだ」
1.連絡を取らない
2.必要最低限しかはなさない
3.他の女性と仲良くしているところ見せる
などと書いてある。
「こんなことしたら、余計にヤバいと思うんだけどな」
実際に「3.」はウッカリやってしまった。
それで有理に嫌われたのだ。
「僕も女の子と付き合ったこと無いから分かんないんだけどさ。
やっぱりしつこくしすぎるのは良くないんじゃない?」
「確かになぁ。武術でも攻撃ばかりではなく、ときには引くこともあるし」
俺は考え込む。
「だけど、人間の人生はあまりにも短いと思うんだ。
こんなことしていたら、あっという間に死期が来るぞ?」
「洋平!なんだか、怖いこと言うね」
典明は、ぎょっとしている。
「典明。ありがとう。
でも俺は、やっぱり引いたりして後悔したくない。
本当に、人間の時間なんてあっという間に過ぎる。
典明もぜひ後悔しないようにやりたいことはすぐに行動に移して欲しい。
そして、引くんじゃない。どんどん攻め込むんだ」
俺は典明の肩を叩いた。
「洋平が言うと、不思議と説得力があるんだよね。......分かったよ」
典明もうなずいた。
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帰り道。
典明と駅まで歩いているとスマホがチャカチャカと鳴る。
「誰だ?名を名乗ってほしい」
俺はスマホに出た。
「おい、キモストーカーチャラ男」
「なんだ陽子か」
「おかしな事が起きたんだよ。
有理と一緒に歩いていたのに、有理が急に消えたんだ」
「なにっ?」
「有理は足が悪いから、急に消えるなんてあり得ないのに」
「電話は?」
「鳴らしても出ない」
有理が消えた?
胸が苦しくなる。
どうして俺は、その予兆を感じ取れなかったのか。
俺と典明は、陽子のいるショッピングモールまで急いだ。




