42_寺には近づくな
いつもの朝のトレーニングを行った。
ミーネのこと、有理のこと、リザベルのこと。
解決すべきことは山積みだった。
でも、何をどうして良いのか、考えがまとまらなかった。
頭がもやもやするなら体を動かす。
これが一番の解決策だ。
カラスの餌やり。
走る。
そして筋トレを行っていると、どこからか瞬が現れた。
瞬はタバコをくわえ筋トレする俺を、けだるそうに見ている。
俺も無言だ。
「こんな時間に会うとは」
一通りのメニューが終わって瞬に声をかける。
「俺はひと晩じゅう遊んで朝帰り。偶然、お前を見かけた」
瞬は足元にたばこを捨てた。
それが合図となった。
瞬と闘う。
お互いの攻撃パターンは読めてきている。
そこで俺は、いつもと違った技を仕掛ける。
瞬はすぐに理解して、すんでのところで避ける。
瞬は俺の方に手をあげた。
待ったの合図だ。
めずらしく瞬の呼吸があらい。
「さっきまで女と遊んできたばかりだから、ちょっと体がきつい」
「なら、もう帰れば?俺も忙しいんだ。
あとタバコは拾って帰れよ」
瞬はしばらく黙り込み、こちらをじっと見ていた。
「どうかした?」
「なぁ。道元が最近おかしい」
「あいつ、いつもおかしいけど」
俺は首を傾げる。
「ひとつ情報だ。
道元は単純でバカなだけだ。
でも道元の家族のうち、姉と祖母がとくにヤバい。
気が狂ってる。
二人が狂ってることは、小さい頃からあの家に出入りしている俺しか知らない。
道元の寺は、信頼されているから、その正体をみんな知らないんだ。
とにかくお前、気をつけろよ?寺には近づくな」
一気にそれだけ言うと瞬は俺に背を向けた。
瞬は俺を心配してくれている。
言葉はあまりかわさないが、闘いを重ねるうちに
瞬と俺の間には不思議な友情が芽生えはじめていた。
言われなくても寺になんか、絶対近づかないけどな。
そのとき、俺はそう思っていた。
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「有理。許して欲しいんだけど」
午後の教室。
俺は机でスマホをいじる有理に話しかけた。
「なにが?」
有理は俺と視線を合わさない。
「なにがって」
「洋平と付き合ってない。だから関係ない」
付き合うというのは恋人同士になるということだろう。
「それなら付き合って欲しい。俺は有理と付き合いたい」
そう言うと、有理はビクッと肩をふるわせた。
他の奴らが何人か、こちらを見ていたが、気にしなかった。
しゃがみこんで、有理の机に腕とあごを乗せる。
彼女の顔を下から覗き込んだ。
一瞬でもいい。
有理に、こっちを見て欲しかった。
「洋平は言う。好きだ、デートしてほしい。軽い」
有理はスマホから視線を外さない。
「軽い人はだめだ。苦手なんだ」
「軽い?」
有理が8歳の頃から俺は彼女を見守ってきた。
陽子の言うようなキモいストーカー並みに有理のことを見張ってきたのだ。
有理が苦しむのを見たくなくて、危険を犯して人間に憑依した。
これが「軽い」のだろうか。
「有理には、俺の気持ちが軽く見えるんだ?」
「だって」
有理が何か言おうとしたところで、陽子が現れた。
「キモストーカー!有理が困っているだろ。お前、しつこすぎ。
友達関係でさえ、いられなくなるよ?」
陽子が俺と有理の間に割って入る。
「軽いというのは誤解だよ。俺の気持ちはめちゃくちゃ重い」
「それはそれで、引くけどな!
お前は、キモストーカーチャラ男だ」
「チャラ男ってどういう意味だ?
名称が長くなってきてないか。なにかのタイトルみたいだな?」
「うるさい。あっちへ行け」
陽子が俺の肩を押す。
俺は自分の机に戻った。




