38_恋人のふり
有理と駅で別れた。
家に帰るとゆかりがリビングでテレビを観ていた。
「ゆかり!元気か」
「えっ。元気だよ。ルイどうしたの?なんか輝いてみえる」
「俺は今幸せだ」
「なにそれ。もしかして北条さんとなんかあった?」
「あったんだよ。聞いてくれ!有理とデートしてきた」
「えっ。そうなんだ」
ゆかりは目を丸くしている。
「ルイは痩せてかっこよくなったもんね。
だけど、見た目が良くなったからって、デートOKするのってどうなんだろう」
「えっ。どういうことだよ」
「見た目重視ってことじゃない?中身はみてくれてないっていうか」
ゆかりがこんな反応を示すとは思わなかった。
「あたしはお兄ちゃんが生きていたころ、お兄ちゃんの見た目なんかどうでも良かった。どんなに太っていても、お兄ちゃんが好きだった」
「有理は俺が痩せたから、デートOKしたってわけじゃないぞ?」
「そうなのかなぁ」
「有理は男を見た目で選んだりしない」
「ふうん」
ゆかりは興味無さそうにテレビに視線を戻した。
俺は有理の魂を知っているから、有理については絶対の信頼があった。
ただ、ゆかりが面白く無さそうにしているのが意外だった。
一緒に喜んでくれると思っていたのだ。
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母親の小夜子に俺の架空の恋人「アヤカ」を紹介しなければならなくなった。
「アヤカの予定が合わないんだ」
と今まで、逃げ続けてきたのだが、そうもいかなくなってきたのだ。
「今度の日曜日、アヤカさんをうちに招待して。
そうしないなら、ゆかりを北海道へやります」
小夜子がそんなことを言いだしたのだ。
「分かった。今度の日曜日だな」
「そうよ。午後の14時にしてちょうだい」
小夜子はきっぱりと俺に告げた。
これ以上先延ばしは難しそうだった。
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約束の日曜日の午後14時。
ウチの玄関のチャイムが鳴った。
「アヤカさんね。どんな方なのかしら」
小夜子はソワソワしていた。
玄関のドアが開く。
そこにはリザベルが立っていた。
「こんにちは。はじめまして。鈴木アヤカといいます」
リザベルは行儀よく、小夜子に頭を下げた。
事前の打ち合わせどおりだった。
ゆかりのアドバイスで、リザベルは和菓子を手土産に持ってきていた。
「いらっしゃい。どうぞお上がりになって」
小夜子はやや無愛想に、リザベルを家に上げた。
リザベルには、俺の恋人のふりをしてもらうことにしたのだ。
セルペリオールへの説得に引き続き、またリザベルに借りを作ってしまうことになる。
正直言って、マズい。
リザベルは「ご褒美をちょうだい」といって、俺に迫ってくるだろう。
彼女の性格からいってキスだけで満足するはずがない。
だけど、他にどうしようもなかった。
この猿芝居が終わったら、俺はリザベルから逃げ続けるしか無い。




