23_セルペリオール
「勝手なことをしているようだな」
「あなたは」
灰色の空。
赤い血のような大地。
俺はいつの間に天界に戻ってきたんだ?
手足を見ると、セルパンのルイの姿に戻っていた。
俺のボス、セルペリオールが目の前に立っていた。
「ルイよ。なぜ勝手な行動をする?なぜ人間に憑依した」
「セルペリオール」
俺は急いでひざまずいた。
セルペリオールは、小さなドクロをいくつも連ねた冠をつけていた。
白いマントを深く被っているので表情は見えない。
道元に侮辱されたときの俺の怒りは、グースやリザベルに届くほどだった。
おそらくセルペリオールのところにも届いてしまったのだろう。
しくじった。
グースとリザベルが、俺のことをセルペリオールに言いつけることはありえない。
人間に憑依していることがバレたのは、俺の怒り......つまり、昼間の雷が原因としか思えなかった。
これから、どんな罰が与えられるのか。
考えるだけでゾッとした。
「前にも言ったはずだが。
いま、人間界でセルパンを捕まえて利用しようとする動きがあることを。
召喚されたまま戻らないセルパンが増え始めている」
セルパンに罠を仕掛け、清めの檻に閉じ込める勢力のことを言っているのだろう。
自由を奪い、人間の欲望のためにセルパンを働かせるというのは、昔からたまに起きることだった。
「はい。承知しております」
俺はセルペリオールと目を合わさないよう、下を向いたまま答えた。
「お前はわたしの補佐として対策を練る立場のはずだ」
セルペリオールは怒りを声ににじませた。
「そんなときになぜ、お前は勝手な行動をするのだ?」
「違うんです!」
背後からリザベルの声がした。
「リザベル。来るな」
俺は慌てた。
「なんだ。リザベル。お前は呼んではいない。
邪魔をするのなら、お前も一緒に罰を受けることになる」
「聞いてください。セルペリオール」
リザベルは俺の隣に身を寄せ、ひざまずいた。
「ルイは、我々セルパンを滅ぼす勢力について調べるために、人間に憑依したのです」
リザベルがそんなことを言うので、俺はギョッとして、リザベルを見た。
「ほぅ?リザベルよ。もっと話せ」
「人間界の、それも日本でセルパンを罠にはめる事例が増えています。
それを探るために、ルイは日本人に憑依し、調査を開始しているのです。」
「ふむ。なるほどな」
セルペリオールは俺を睨んでいるのだろう。
魂がひんやりと冷たくなるのを感じた。
「だが勝手な行動は許されない。なぜ我に許可を取らなかった」
俺は終わりかもしれない。
期限無しで煉獄に閉じ込められ、そこでの役務を命じられるだろう。
「勝手な行動をどうかお許しください。しかしルイは我々のためにやったのです。汚らわしい人間に憑依し、奴らの中に身を落とすことで情報を得ようとしているのです」
リザベルが必死に説明する。
「ルイ。お前はさきほどから沈黙を守っているが、なにか言うことはないのか」
セルペリオールが冷たい声で俺に言い放つ。
「敵の情報を得てみせます。許可を得なかったことは謝罪します。
しかし、せっかくここまできたのです。
もしも何の成果を得られなかったら、そのとき俺を罰してください」
「そうだな」
セルペリオールは、しばらく黙っていた。
「許可を得なかったことは罰に値する。だが行動は称賛に値する。
よって人間界で言う半年の猶予を与えよう。
半年でなにも得るものがなければ、お前は煉獄で働いてもらう」
そう言い残して、我があるじセルペリオールは姿を消した。
セルペリオールが踏んでいた赤い土は、どす黒く変色していた。
今後、この土に樹木などが生えることはないだろう。
「ふぅ」
俺はためいきをついた。
「リザベル。感謝する。お前のお陰で煉獄での苦役を今のところは、まぬがれた」
「もう嫌よ。ルイ。これ以上、心配させないで欲しい」
リザベルは俺の首に手を回すと、じっと見つめてきた。
「リザベル」
「ルイ。分かってるでしょう。あたしの気持ち」




