22_ゆかりと洋平の秘密
「みんな、雨に濡れてしまった。悪いことした」
「洋平のせいで雨が降ったんじゃないんだし」
典明が笑う。
(いや、俺のせいなんだよなぁ)
久々に雷を落とすほど怒って、俺もかなりの疲労を感じていた。
「また明日、学校でな」
「明日は土曜日だよ?」
「そうか。明日は休みなのか」
「洋平、しっかりしろよ?」
陽子が背中を叩いた。
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「ゆかり。寒くないか?」
電車のなかでも、ゆかりはじっと黙っていた。
「あなたには、学校に友達がいるんだね?」
ゆかりは、俺のことを「あなた」と言った。
「えっ?......あぁ、あいつらのことか?
有理以外は、知り合ったばかりだ。
グースとリザベルは古い付き合いだ」
俺は頭をかいた。
「お兄ちゃんには、友達なんかいなかった。
いつも学校でいじめられてるって言ってた」
「うん、俺もそれは知っている。実際、今日もそいつらに殴られたわけだし」
ゆかりはまた、黙り込んでしまった。
「俺が許せないのは分かってる」
ゆかりは俺に視線をむけた。
「許すわけない。お兄ちゃんは先に逝ってしまった。
あなたが誰だか知らないけど、あなたには責任がある。
私を殺して。
私とお兄ちゃんは一緒に死ぬ計画を立てていたんだよ」
「えっ?」
聞き間違いと思ったが。
そこで電車が駅についた。
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洋平とゆかりは二人で死ぬつもりだった?
駅から家までの道のり。
「一緒に死ぬ計画とはどういうことだ?」
と詰め寄ったが、ゆかりは黙り込んでしまった。
「自殺はだめだ。地獄に落ちてしまう」
俺はゆかりに言ったが、彼女は前を見つめたままだった。
「まぁ!濡れてるじゃないですか」
平林さんが俺たちを出迎えた。
「雨に降られて」
「お風邪をひいたら大変です。お風呂を沸かしますね」
ゆかりが先に風呂に入っている間、平林さんが小声で俺に聞いてきた。
「洋平さん。その顔、どうなさったんですか?」
「学校でちょっとケンカして」
平林さんはため息をつく。
「どうしましょう。奥様がご覧になられたら、心配なさいます。
洋平さん最近、あまり食べないし。痩せてきてます」
「奥様って、小夜子のこと?」
「小夜子って!お母様でしょう」
「あいつは、なんなんだ?
ロクに家にいないし、ゆかりに手をあげるし」
平林さんは、黙り込むとキッチンへ移動し、野菜を切り始めた。
「あいつ。小夜子はどうしてゆかりにだけ、あんな態度なんだ」
「洋平さん、ようやく反抗期ですか?」
平林さんは野菜を切りながらボソッと言う。
「奥様はゆかりさんを見ると、前妻の香織さんのことを思い出すのでしょう」
「前妻......?」
ゆかりは、小夜子の子どもではないのか。
「ゆかりさんは、どんどん香織さんに似てきています」
「そういえば、うちの父親はどこにいるんだっけ?」
俺は平林さんから情報をどんどん仕入れようと思った。
「洋平さんおかしな事ばかり言いますね。
お父様の高次さんは今ドイツにおられますよね」
「そうだった!そうだった!」
俺はウンウン、と頷く。
バタン!と扉の音がしてゆかりが出てきた。
「さぁ、洋平さんもお風呂で温まってきてください」
平林さんはそう言うと、料理に集中し始めてしまった。
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俺は風呂に入った。
蹴られたり殴られた場所は、みにくく変色し始めていた。
これだから肉体はやっかいだ。
小夜子がゆかりを虐待する理由。
パズルのピースがあつまりはじめていた。
父親の高次には会えるのだろうか。
セルパンであれば、ドイツなどひとっ飛びで行けるのだが。
ゆかりも洋平も、親に放置されている。
それが俺の印象だった。
二人を愛してくれている人間はいるのだろうか。
平林さんは金で契約を結んでいるだけだ。
二人は孤独だった。
しかも洋平は学校でいじめを受け、ゆかりは家で虐待されていた。
それで二人で死を計画した?
湯に浸かりながら、痛む顔をさすった。




